第十五話ー加護と呪いは紙一重


 南天が出て行って一時間が経過した。

 ソファで仮眠をとっていた真澄は、執務室の中央に設置してある方位盤がけたたましく鳴らした警報で目を覚ました。


「怪夷の出現警報...」

(同じ夜に二回目とは...今日は厄日か...)


 ソファから起き上がり、真澄は脱いでいた制服の上着を引っ掛けると、室内に設置している通信機を起動した。

 受話器を手にまずは同じ宿直であった朝月に連絡を取る。だが、何故か呼び出しに応じない事に真澄は眉を顰めた。


(あいつ...寝てるのか)


 一向に通信に応答しない朝月を後回しにし、今度は日勤である隼人と大翔に連絡を取った。

 朝月の時とは異なり隼人は十秒もしないうちに通信に応えた。


『お疲れ様です。隊長。緊急ですか?』


「そうだ。渋谷川の付近で怪夷の出現確認だ。出現したのはほぼ間違いないだろう」


『了解です。そんじゃ、現地集合で。朝月の阿保は?』


「一旦自宅に帰したら通信にすらでない」 

 苦い顔で真澄は隼人の問いに答える。


『アイツ、明日一発しばきだな』


「何かトラブルかもしれない。いずれにしろ、直ぐに合流してくれ」


 溜息と共に零れる真澄の指令に応じ、隼人は通信を一度切った。

 次に真澄は大翔へ連絡を取る。こちらも直ぐに連絡が繋がり、同じ宿舎にいる桜哉も合流する事になった。

 部下三人と合流する為、真澄は方位盤が示す現場へと向かって詰め所を飛び出した。





 深夜の寝静まった軍都・東京は何処か寒々しさをその身に纏っていた。

 政治の中心が近いとは言え、真澄達が向かった場所は近年ようやく発展し始めた振興地区だった。

 農村の面影を残すすり鉢状のその場所で隼人達と合流を果たした真澄は、八卦盤が示す方へと慎重に進む。


 坂道を上がった中腹に、巨大な影が蠢いた。

 現場に到着した真澄達の目の前に現れたのは、巨大な蜘蛛の怪夷だった。

 先日、海軍の廃ドックで遭遇したものより、完全な蜘蛛の姿を取ったそれは、吾妻鏡や歌舞伎に描かれる土蜘蛛ような印象を与える。


「でかいな」

 怪夷を見上げ、隼人は何処か楽しげに笑う。


「隊長、やはり南天殿がいないのは戦力不足では?」


「これくらいなら前にも相手してたから問題ない。慎重にいこう」


 先日の怪夷戦を思い出しているのか、桜哉が少しだけ不安そうに進言する。無理もない、英雄を祖母に持つ彼女だが、怪夷と実際に対峙するのはまだ数回に満たない。

 桜哉を安心させるように真澄は声を掛ける。


「俺達だけで楽勝だろ。宮陣、結界頼むぜ」


「はい」


 怪夷戦の場数はそこそこ熟している隼人は、愛用の二丁拳銃に弾丸を装填しながら大翔に指示を出す。副隊長の命に大翔は素早く札を手に、一歩前へと出た。


「急急如律令」


 呪文を唱え、八枚の札を大翔は四方八方に向けて飛ばす。等間隔、八角形を描いて八枚の札は宙に浮くと、怪夷と真澄達を囲む形で結界を展開した。


 ギイイイイイイイ


 周囲を覆う結界に怪夷は悲鳴の如き咆哮を迸らせる。

 身もだえるように身をよじってから、怒りをあらわにして真澄達を禍禍しく光る紅い瞳で見据えた。

 結界を貼った事で、怪夷の力が急速に弱くなる。旧時代の異形を倒す第一段階を終えた所で、真澄は部下達に指示を飛ばした。


「旧ランクAと対象を確認。六条は俺と前衛を。宮陣は結界張りに専念。赤羽は宮陣及び前衛の援護を」


「了解」


「各位、これより怪夷討伐を開始する」


 真澄の指示にそれぞれが己の持ち場についた時、桜哉は茂みが揺れるのを横目に捉えた。


「新手っ」


 咄嗟に刀を構えて警戒を強める。

 すると、茂みの中から猫のような鳴き声が聞こえてきた。


「隊長、繁みの中に何かいます!」

 今まさに戦闘に入ろうとしていた矢先の進言に、真澄はすぐさま指示を変更する。


「六条、新手かもしれない。そっちの対応は任せたぞ」


「分かりました」


 隊長からの指示を受け桜哉は刀を構えて後ずさると、一気に繁みの中に滑り込んだ。


「赤羽!援護任せた」


「おうよ」


 桜哉を偵察に出した真澄は、1人前衛に立つと、自分達の様子を伺う怪夷の前で軍刀を引き抜いた。

 隼人の銃撃が怪夷に向かって飛来する。その援護を受けながら真澄は1人軍刀を構えて駆け出した。



 1人戦線から外れて繁みの中へ猫のような鳴き声を頼りに捜索に向かった桜哉は、繁みに入って直ぐの場所でモノクロの影を発見した。


「…南天殿!?」


『にぃ~にぃ~』


 地面に横たわっていたのは所々に汚れと傷を負い、気を失った南天だった。その傍らで黒く丸い塊が鳴いている。

 それは、まるで助けを求めているかのようなそんな鳴き声だった。

 桜哉に気づいた黒い塊が、ふよふよと浮いて桜哉の傍へ近づいてくる。


「どうして、南天殿が…待って下さい、今隊長に報告を」


 鳴き声を上げながら縋りついてくる黒い塊を宥めるようにそう告げた桜哉は、急いで元来た道を舞い戻る。


「隊長っ」


「どうした!何か見つけたか⁉」


 軍刀を片手に怪夷の節足と攻防を繰り広げながら、真澄は繁みから出てきて声を張り上げる桜哉に応じた。


「南天殿が、倒れてます!」


「なんだって!」


 思いもよらない報告に、真澄は思わず声を上げて驚いた。頭上を横なぎにする節足を寸での所で躱し、一度後方に跳んで距離を取る。


「隊長!怪夷は俺達に任せて南天のとこ行ってやれ」


 真澄を援護する数発の銃撃が、怪夷の節足に命中する。丁度関節部分を撃ち抜いた弾丸が柔らかい肉を引き裂いて前足を一本切断した。

 深夜の世闇に、異形の咆哮が木霊する。

 怪夷が怯んだ隙に真澄は一度戦線を離脱し、隼人と大翔がいる後方へと退いた。


「六条、俺と来い」


「分かりました」


 真澄と入れ替わりで桜哉は先ほどまで真澄がついていた位置についた。


「すまない。すぐ戻る」


 隼人達に詫びを入れ、真澄は桜哉から場所を聞くと、繁みの中へ駆け込んだ。



「南天…大丈夫か?」

『にぃー!』


 真澄が茂みに入ると、傷だらけで倒れた南天と彼を護るように周りを回っている黒い塊がいた。

 黒い塊は真澄を見るなり、口を大きく開けて威嚇する。


「別に俺はお前にも南天にも危害は加える気はない」


『にぃー!』


 近づいてきた真澄に噛みつかんばかりの勢いで黒い塊は牙を剥く。


「マスター…?どうしてここに?」


 黒い塊と真澄の声に気が付いたのか、顔を歪めながら南天がゆっくりと身を起こす。突如現れた真澄に驚いていると、目の前に真澄が膝を折った。


「南天、大丈夫か?」


「なん…とか…」


 痛む全身に顔を歪めながら、南天は真澄の問いに頷いく。ふらつく南天を真澄は背中を押さえて支えると、その顔を覗き込んだ。


「方位盤が警報を鳴らしたから出動したら、怪夷に出くわした。今は赤羽達が応戦中だ。それより、何があった?あの怪夷とまさか一人で遣り合ったんじゃないよな?」


 真澄の危惧を含む問いに南天は視線を逸らしながら、淡々と答え始めた。


「怪夷を…倒そうとして…マスターに認めてもらうためには…それしかない…と思って…」


「お前な…」

 無謀な行動に真澄は溜息を零す。それに南天は悄然と肩を落とした。


「申し訳…ありません…」


「無茶しやがって…いくらお前が強いからって、怪夷に一人で向かっていって敵う訳ないだろ。ましてや旧ランクAだぞ」


「すみません…」

 俯きシュンと項垂れる南天を見下ろしてから、真澄は溜息を吐く。


「本当はコイツを庇ったんじゃないのか?」


 先程から警戒しながら南天の周りをふよふよ浮いている黒い塊を指差して、真澄は首をひねる。

 それに南天は大きく首を横に振って応じた。


「その子は…ボクを庇ってくれた…だけです…」


「俺に威嚇してたくらいだからな…なんとなくそうだろうと思った 」

 未だに自分を警戒している黒い塊を真澄は苦笑しながら見つめる。


「その子は…悪くない…です…」


 真澄を警戒している黒い塊を南天は自身の方へ呼び寄せると、その丸い身体を抱き締めた。その様子に、黒い塊が危害を加える心配はないと判断した真澄は、静か顔を上げた。


「お前はここで休んでろ、詳しい話は詰め所に帰ってからだ」


「はい…」


「しっかり南天守っててくれよ。チビスケ。俺は仲間たちの援護をしてくる」


 南天を木の幹に寄り掛からせ、真澄は黒い塊の頭をポンポンと撫でる。

 直後、黒い塊は真澄の手にがぶっと噛み付いた。


「いっ」

「あ…」

『ぎぃー』

「ダメだよ…噛んじゃ」

『にぃ?』

「ダメ」


 南天にたしなめられ黒い塊は首を傾げるように南天の方へ顔を向ける。


「痛てて、行ってくる。休んでろよ」

 噛まれた手を軽く擦ってから、、真澄は念を押すように南天に言いつける。


「…分かりました…」

 大人しく頷いた南天を残し、真澄は茂みを出た。



 茂みを出ると、隼人、大翔、桜哉の三人が怪夷と戦闘を繰り広げていた。

 大翔が鋼糸を怪夷の身体に巻きつけ、直接呪符を張り付けてその動きを封じている。

 その怪夷の巨大な節足を桜哉の軍刀が斬りつけ、隼人の弾丸が腹部や背部に撃ち込まれた。

 既に怪夷は三人の攻撃と結界の効力で弱ってきている様子だ。


「隊長」


「皆、大丈夫か?」


 戻って来た真澄に、三人の視線が集中する。彼等の表情には安堵の色が滲んでいた。


「隊長、南天の奴大丈夫なのか?」


「怪我をしているが命に別状はなさそうだ。意識も戻っているしな」


「後で三好先生のとこだな」


「あぁ」


 隼人と短く言葉を交わした後、真澄は改めて三人の部下を見る。


「よく持ちこたえてくれた。ここから一気に片を付けるぞ」


 隼人、大翔、桜哉を労い真澄は再び軍刀を鞘から引き抜き、正眼の構えを取る。

 隊長の合流に三人は強く頷き、本来の位置に着いて最後の攻防に備えた。

 三人の奮闘に報いるべく、真澄は一気に地面を蹴って駆け出すと、怪夷の正面へと躍り出た。


 怪夷の鋭く尖った前足が真澄の頭上に振り下ろされる。

 それを横に飛んでかわす。

 これまでの攻撃と結界の効力で弱ってはいるが、怪夷は容赦なく真澄目掛けて攻撃を繰り出した。

 真澄の軍刀が怪夷の腹部を突き刺そうとした刹那、突如怪夷が咆哮を上げ、その身を激しく揺さぶりだした。

 ギリギリと、身体に巻き付いた鋼糸を引きちぎり大翔が施した拘束を破り捨てた。


「結界が…!」


 上体を大きく仰け反らせ、雄叫びを上げた怪夷は、後ろ脚を蹴り上げると臀部の先端から白い糸を吐き出すと、後衛を護っていた大翔に糸を巻き付けた。


「うわっ」

「大翔さん!」


 巨大な蜘蛛が巨体をもろともせず前衛にいた真澄と桜哉を飛び越えて宙を舞い、後衛にいる大翔と隼人の前に降り立った怪夷はガチガチと左右に生えた牙を鳴らし、隼人に狙いを定めた。


「ちっ調子に乗るなよ」


 シリンダーを素早く交換した隼人は、大翔を護りながら銃口を向けて怪夷目掛けて引き金を引く。

 術式の込められ、霊力を纏った弾丸が怪夷の顔面目掛けて飛翔する。だが、それを迎え撃つように怪夷は何発も尻から弾のようなものを発射した。


「やべっ」


 咄嗟に隼人は身動きの取れない大翔を突き飛ばし、殆ど反射的に怪夷が放った弾へ銃弾を撃ち込んだ。

 銃弾が飛来した弾に命中した瞬間、弾は白煙を巻き上げて爆発した。


「うわっ」

「隼人!」


 爆発に吹き飛ばされ、隼人の身体が宙を舞う。辛うじて受け身を取ったが、全身を巨木の幹に打ちつけて崩れ落ちた。


「く…」

 ずるずると地面に倒れ込んだ隼人の元に真澄は駆け寄る。


「大丈夫か?」


「悪ぃ…隊長…」


「アイツ、弱ってたふりしてたのかもな…」


「知能犯かよ…」


 舌打ちし隼人は顔を激痛に歪める。

 傷付いた隼人と、彼の側にいる真澄の前に蜘蛛型の怪夷が迫りくる。

 ぎちぎちと牙を鳴らし、鋭い鈎爪状の前脚を振り下ろされた。


「くっ」


 隼人を抱え寸での所で真澄は怪夷の攻撃を躱す。

 だが、続けざまに怪夷の鋭い一撃が真澄と隼人を襲う。


「隊長!」

「隼人さん!」


 大翔と桜哉の悲痛な叫び声が戦況の悪化を伝えてくる。

 傷ついた隼人に肩を回て支え、真澄は木立の中を怪夷の斬撃をギリギリのところで回避しながら逃げ惑っていた。

 南天や桜哉くらいならどうにかなるが、ほぼ身長も体格も変わらない隼人を支えたまま逃げるのには無理があった。

 それを分かっているのか、怪夷の速度が容赦なく上がっていく。


「ぐあっ」

「隊長!」


 咄嗟に避けたつもりだったが、よけきれなかったのか怪夷の鋭い爪の先端が真澄の肩を掠る。衝撃と鋭い痛みに真澄は苦悶の表情を浮かべるが、隼人を放り出す事はしなかった。


「隊長、このままじゃ共倒れだっ俺の事はほっといてアンタだけでも」


「馬鹿野郎、もう誰も死なせるか。お前までいなくなったら、俺と月代だけでどうやっていけっていうだ」


「馬鹿はどっちだ、アンタが死ぬ方が損害が大きいだろうが!」


 特夷隊発足から、頼りない自分を支えてくれた隼人の存在を真澄は失う訳にはいかなかった。


(これ以上…部下を死なせてたまるか)


 これまで、戦場で多くの若い命を己の指揮で死なせてきた。

 特夷隊という特殊な隊を率いてすら、既に殉職者を出している。

 真澄にとって、部下や仲間の喪失は二度と避けたい。

 隼人の意見は最もだと自覚しながら、真澄にも意地とプライドがあった。


「真澄さん!」


 名前で呼ばれた事で、逡巡していた思考が現実に呼び戻される。

 いつの間にか、怪夷の巨体が眼前を塞いでいた。どうやら先回りされたらしい。

 大翔の張った結界の効力もぎりぎり及ぶ位置で、怪夷の鋭い前脚が大きく振り下ろされる。

 誰もが、回避は不可能と息を飲む。


 直後、金属のような堅い音が闇夜の中に響き渡った。

 突然の甲高いその音に誰もが目を見張った。

 一番驚愕したのは真澄と隼人に前脚を振りかざした怪夷だったのか、動きが怯む。


「隊長…その、腕…」


「これか…?」


 隼人の指摘に真澄は自身の右腕に視線を移す。

 視線の先で真澄が目にしたのは鈍色に変化した腕。鋼の如く硬度を増したそれが、怪夷が振り下ろした前脚を受け止めていた。

 それは、対峙している怪夷の腕にどことなく似ていた。

 静かに自身の腕を見つめてから真澄は怪夷の腕を軽々と跳ね返し、隼人を地面へ座らせた。


「そこで休んでろ」


 感情の欠落した固い声でそう告げた真澄は、再び怪夷と対峙する。

 武器も持たない状態で地面を蹴って身軽に飛び上がり、真澄は怪夷の頭上に飛んだ。

 一体どうするのかと隼人が見守っていると、真澄はあろうことか鈍色に変化した腕を怪夷の頭めがけて降り下ろした。

 だが、その攻撃はギリギリのところで弾かれる。


「邪魔だな」


 眉を顰め呟いた真澄は自身の腕に糸が絡まっているのに気付き、軽く腕を薙ぎ払った。


 直後、怪夷の前脚が根本からごとりと地面に落ちた。

 脚を斬られ蜘蛛は怒りに咆哮する。


 蜘蛛は臀部から弾丸を発射した。自身目掛けて飛んだ弾丸真澄は、コバエを払う要領で右腕を振って薙ぎ払う。直後、弾丸は空中で真っ二つに破壊されて飛散した。

 白煙に紛れる形で怪夷に迫った真澄は右手を手刀のように使い、怪夷の身体をバラバラに切り裂き、最後に額に硬化した指を突き刺した。

 バリンと、音を立てて核が砕け散り、怪夷が断末魔の悲鳴を上げる暇もなく灰となって消え失せた。


「終わりましたね」


 桜哉に糸を解いてもらい、大翔はほっと息を吐く。

 隼人を支えて真澄は桜哉と大翔に合流した。

 隼人も真澄も擦り傷やかすり傷があるが、命に別状はなさそうだった。

 ただ一つ、真澄の右腕が黒く変色しているのに、三人は一抹の不安を感じていた。


「さて、南天君を三好先生のとこに運ばないと。隊長、それで…真澄さん!」


 大翔が真澄に視線を移した直後、真澄はフラりと身体を横に揺らし、そのまま倒れた。


「隊長!?」


 咄嗟に隼人が支えたお陰で地面に激突するのは免れたが、真澄は完全に意識を失っていた。


「負傷者が多すぎる…仕方ない。皆まとめて転送するので桜哉さん南天君を連れてきてもらえますか?」


「分かりました」


 大翔の指示に頷き桜哉は茂みに入る。

 すると、茂みの出口まで黒い塊がふよふよと南天を背中に乗せて現れた。


「あ、さっきの…」


『にぃ?』


 黒い塊の背に乗せられた南天を見て桜哉は黒い塊の小さな目を覗き込む。


「運んでくれる?」


『ミィ』


 小さく頷き黒い塊は桜哉についていく。


「大翔さん、南天殿を連れてきました」


「ありがとうございます。それは?」


 南天を乗せている黒い塊を見やり大翔は首を傾げる。


「南天殿に懐いているみたいです」


 正体不明の黒い塊を覗き込み大翔は苦笑を滲ませる。


「…これ、もしかしたら怪夷かも」


「は?マジか」


 大翔の推測に隼人と桜哉は驚き目を見張る。


「おいおい、大丈夫なのか?」


「猫の怪夷…でしょうか?」


「害はなさそうですね。こちらに危害を加える気もないようですし」


 黒い塊の頭に生えた耳を大翔はそっと触る。


『にぃ』

 ぶるりと嬉しそうに黒い塊は耳を揺らした。


「お前も来る?そのまま南天君運んでくれると助かるんだけど 」


『ミィ!』


 大翔の言葉に元気に返事をして黒い塊はパタパタと尻尾を動かす。

 それに満足げに微笑み大翔は人数分の札を取り出すと、呪文を唇に載せた。

 大翔を中心に円陣が浮かび上がり、五人と一匹の身体は一瞬にして大統領府内の詰め所へと転送された。





*************************


次回予告


弦月:さあさあ次回の『凍京怪夷事変』は


暁月:真澄達が怪夷と対峙していた同時刻。朝月と鬼灯は花街吉原で悲鳴を耳にして...


弦月:第十六話『花街の落ちる影』よろしくね!


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