《幕間》 奇跡の代償(サクリファイス)
「なんで、お前がここにいるんだよ」
これは、こればっかりは、本当の本当に予想外だった。
そして、絶望的である。
なんなら、妹と幼馴染のダブルブッキングの方がよかったまである。
いや、さすがにそれはないか。
絶望的であっても、絶望ではないしな。
「なあ、それはさすがにお客様である我に失礼であるぞ? お店にとってお客様というのは神様であろ? まあ、我はそもそも神様であるが」
「お前にあれだけ来るなと言ったよな?」
「ほう……。それは確かにそうである。だがな、それなら逆に考えてみよ。我はなんでここに来て、ここにいるのか。あ、このアップルパイのセットを頼む」
なんでここにこいつがいるのか、か。
「アップルパイのセットですね、かしこまりました。お飲みものはなにいたしましょうか?」
「ミルクティーがよい。ガムシロップをたっぷり頼む。もちろん、すぐじゃ」
「ミルクティーですね、かしこまりました。それでは、ご注文を繰り返します。アップルパイのセットで、ミルクティーにガムシロップをたっぷりでよろしいでしょうか?」
「うむ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言って、厨房に行く。
「店長。オーダーお願いします」
「私は今、休憩中なんだから、それぐらいは自分でどうにかして~」
店長は機能してないので、自分で紅茶を淹れミルクティーにし、アップルパイを皿に盛り付け、ガムシロップを
「お待たせいたしました、アップルパイのセットのミルクティーになります。こちらにガムシロップを置いときますので、お好きな数お入れください」
「ガムシロップは自分で入れるのか。まあ、よい」
「ご注文のお品物は以上でお揃いでしょうか?」
「そうであるな」
「こちら、伝票になります。ごゆっくりどうぞ。失礼します」
そうして、また厨房に……って!
「なんで、俺はこんなにも真面目に接客させられてるんだよ!」
「いや、今の汝は店員じゃろうて」
「いや、これから帰るんだよっ! てか、なんでソフィーはここにいるんだよ」
「それにしても、かなり長いノリツッコミじゃったの。それに、かなり優秀な店員であった」
「そりゃどうも。で、なんで来たんだ?」
「さっきも言ったが、逆に考えみよ。我がここにいる理由、なんだと思う?」
そうして、ミルクティーにガムシロップを大量に投入すると、むしゃむしゃとアップルパイを食べ始める
しかし、こいつの場合、ただ冷やかしにきたとか、そんな感じでもおかしくない。
あー、なんかくだらない理由で来た気がするな。
てか、教えてもないのどうやってここに来たんだよ……。
「それは、神の力的ななにかじゃ」
「だから…………。もう、いいや。諦める。心を読むなって言っても、聞かないんだし」
「なんじゃ、なんじゃ。我が悪いみたいな言い草ではないか」
「心を読む方が悪いだろ……」
「それと、我が来た理由はくだらないことなんかではない。というより、やっぱり忘れておったのか?」
「はっ? なにを?」
俺がなにかを忘れていた?
そんなことはないはずだ。……たぶん。
それとも、なにか頼まれていただろうか?
帰りに牛乳を買ってこいとか、トイレットペーパーを買ってこいだとか。
「
「ああ、それならなにも引っかたりはしなかったぞ。てか、本当にわかるもんなのか?」
「わかる。いや、正確には感じ取れると言った方が正しいのかもしれぬな」
はっ……! やっぱり忘れていなかった。
そんなわけで、神様相手にドヤ顔してると、
「先ほど、一人の人間に
唐突にヤバそうなことを伝えられた。
「
「それなのに、一人の手にわたったことはわかる。おかしくないか?」
「おかしくはない。普段とは違うものを感じたのじゃ。それが、どこから来たものなのかはわからぬ」
「それだけを伝えに来たのか?」
きっと、こんなことを伝えるために来たんじゃない。
もっと別のこと。別の大事なことを伝えに来たはずだ。
「勘がよい。もちろん、こんなことだけではない。
そう言ってアップルパイを食べ終わると、ガムシロップたっぷりのミルクティーを飲んでご満悦の表情を浮かべたソフィー。
「その
それから、俺はアップルパイの載っていた皿とミルクティーの入ってたグラスを片付けると、ソフィーと一緒に帰路についた。
ああ、俺のバイト代……。
✻
「それじゃ、話してくれるか?
暗い夜道をとぼとぼと歩きながら、俺はそう聞いた。
「あのときは、汝のためを思って言わなかったことがある。そのうちの一つが、
「それで、その代償は?」
「最大のもので命を。ただ、こればかりは
「他に、なにか
「これは、あまり言いたくはなかったことであるが、
身近な者にわたる。
もし、これが本当なのだとしたら、
バイトの先輩や後輩、店長なんかにも。
そしてそれは、下手すると命を失うことになる。
一方的に命の危機に晒し、もしかしたら命を奪う存在……。
それではまるで、俺は
……いや、まだ死ぬと決まったわけじゃない。
きっと、なにか希望はある。
「そう思い詰めることはない。あの夜の続きの話じゃ。
「ああ、そういえばそんな話もあったな。で、封印ってなんなんだ?」
あの夜は眠いからとまた今度にされたのだった。
「
それなら、本当に俺の頑張りしだいでどうにかなるということだ。
「それで、封印の方法は?」
「耳を……」
そう言われ、俺はソフィーに顔を近づけると、予想外の答えが返ってきた。
それこそ、まさかのことだ。
「それで、そろそろ欲求は決まったか?」
「それは、……まだだ」
「はあ、早く決めぬか。それとも、対価の願いがなにかわかれば決めやすくなるかの?」
「たぶん、変わらないと思うが、聞いてもいいか?」
「構わん。我の願いはただ一つである。汝よ、我を
それは、今までで一番の予想外だった。
ソフィーのいつもの様子からは、まるで想像がつかない。
それこそ、それから最も掛け離れた存在である彼女の願いが殺してくれだなんて、思いもしなかった。
「意外か?」
「ああ。だって、ソフィーは永久を生きる神なんだろ」
「なるほど、そうであるな。しかし、汝に殺してもらえるのであれば、我は本望である」
「それ、本気で言っているのか?」
「あたりまえであろ。我の死はそこまで軽くはない」
本当に神様ってのはわけがわからない。
理解もできないし、ただただ理不尽だ。出鱈目だ。
けど、それでも、俺はソフィーに死んでほしくなかった。俺の願いを叶えてもらっても、生きていてほしかった。
俺はソフィーを殺したくなかった。
「ところで、今日の夕食はなんであるか?」
「親子丼の予定だよ。まさかとは思うが、お腹が空いたから夜ごはんを作ってくれ、ということで来たんじゃないよな?
「そ、そんなわけないであろ。我は紛れもなく神である。愚弄するでない」
「…………で、本音は?」
「お腹が空いたからである」
「やっぱり、くだらないことじゃねぇかーっ……!」
とある町中に、男子高校生の叫び声が響きわたった。
★★★★→
「「次章予告っ!」」
「にぃに、妹ちゃんの登場シーン少ないくない?」
「次章はあの時の約束が果たされ──」
「にぃに無視しないでよ。存在感がどんどん薄くなってる妹ちゃんに構えー。にぃにの嫁候補の妹ちゃんの脱落危機なんだよ?」
「お前うっせぇーなっ! 真面目に予告しろよっ!」
「いや、にぃにが無視するから」
「「次章、あの時の約束」」
←☆☆☆☆
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