《幕間》 妹の悪戯(Sisters Break)

 真っ暗なキッチンに着くと、とりあえず電気を点けた。

 そして、そのまま冷蔵庫へ行き、牛乳を取り出して、いつも使ってるコップにそれを入れる。

 けど、それは飲まずに、適当なサイズの鍋を出して、そこにコップに入った牛乳を入れた。

 そうして、鍋を火にかけようとすると──。


「お兄ちゃん……」


 そう言って現れたのは妹だった。

 妹はどこか、不安そうな顔をしていた。


「どうした? 眠れないのか?」


「うん」


 弱弱しく頷いた妹は、いつもの様子からは想像できない。


「ホットミルク、飲むか?」


「いらない。だって、そんな量を飲んだところで意味がないから」


 こいつはなんなのだろうか。

 とりあえず、バカのことは無視して、鍋を火にかける。


「怖い夢でも見たか?」


「にぃ、キスして?」


「…………おい」


「私、キスをしてくれないと眠れないの」


「おい」


「お願い、にぃ。私におやすみなさいのチューを──」


「するわけねぇーだろ! てか、ふざけんな。俺の心配はなんだったんだよ。返せよ」


「にぃ、心配してくれたの?」


「してない」


「えっ? でも、今さっき心配したって言ったよね?」


「してない」


「言ってたよね? し・ん・ぱ・い・し・た、って言ったよね?」


「心配なんかしてない」


「あっ、にぃ、火、火」


「えっ? あっ……!」


 妹の注意のおかげで、鍋を火にかけていたことを思い出す。

 別に、吹きこぼれるとか、そういうわけじゃないが、ホットミルクはできていたので火を止め、コップに注ぐ。

 それから、鍋を流しに置き、コップの中のホットミルクを一口。


「とにかく、私はにぃにキスをしてもらわないと眠れない体になってしまったのです」


「いや、普段からキスなんかしてないだろ」


「いやいや、なにを言いますかお兄様。お兄様が寝たあと、部屋に忍びこんでキスをする。それが、私の日課なんですよ」


「そんな日課、辞めちまえ」


 知らない間に、キスをしまくっていたのか。

 いや、たぶん嘘だろうけど。

 嘘だよな。さすがに、嘘だよな。

 てか、寝てたとしても、キスをされたら気づくよな、起きるよな、普通。

 そう思っていても、俺はこう聞いていた。


「なあ、その日課。さすがに、嘘だよな? 冗談だよな? いつもの、妹ジョークなんだよな?」


「…………」


「そこで無言になったら、わからないだろっ! しかもそれ、どっちかといったら、日課が嘘じゃないことを示唆しさしてるからな」


「ん、んん…………」


「なあ、違うって。あれは、冗談で、ジョークで、日課は嘘だよって言ってくれ~~!」


「キス、してくれたら真実を教えます」


「お前、ぶっ飛ばすぞ?」


 はあ……。

 たぶん、これは嘘の流れだ。安心できるやつだ。

 そこでまた、ホットミルクを一口。


「はいはい、そうですよ。嘘です。冗談です、ジョークです! 私だって、無理ですよ。まったく」


「だよな。……って今、毎日はって言ったか?」


「そんな細かいことはお気になさらず」


「…………」


「気になさらず」


 まあいいか。

 どうせ、からかって遊びたいだけだろう。そういうお年頃だ。


「とにかく、早く寝ろよ。明日は学校なんだから」


「洗い物ならやっておくので、にぃは先に寝ていいですよ?」


「うん? そうか? なら、お言葉に甘えて」


 妹の言葉を少し不思議に思いながらも、その場をあとにする。

 そして、ベッドに入るといい感じに眠気が襲い、すぐに俺を夢へと誘った。


 →→→→☆


「「次章予告!」」


「次章、遂ににぃが妹と婚約⁉ まさかの展開に──」


「ならねぇーよ!」


「いたっ!」


「まったく、油断も隙もない」


「ううぅー。にぃに頭を叩かれて痛がってる私を慰めて! 慰めて!」


「勝手なことをしたお前が悪い」


「にぃ、次章予告」


「あっ、えっと……アルバイト!」


「いや、ドヤ顔でそれとか、ないわー」


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