《幕間》 奇跡の力(コクリトファイス)

 あれから、夜ごはんを作り、風呂に入って、歯磨きをして寝た。

 そうして、一日が終わる。

 次起きたときには朝になっていると思っていた。


「なあ、俺の睡眠の邪魔をするのは、どうかと思うんだけど。てか、こんなこと、妹ですらしてこないんだが?」


「だから、何度も謝っているではないかっ! 我とて、わざわざこんな時間に、人様に迷惑をかけるようなこと、滅多にしたりせんわ!」


「で、用はなに?」


 そう、うちの居候神ソフィーが俺が寝ているところを起こしに来やがったのだ。

 本当、寝てるときぐらい、邪魔をしないでもらいたい。


「汝、いや、貴様に折り入って頼みがある」


「断る」


「せめて、話ぐらいは聞け」


「確かに、話を聞かないと何をするかもわからないし、聞くぐらいいいかもしれない」


「そうであろ──」


「だが、断る。てか、どうせくだらないことだろ。俺は寝るから、とっととどっか行ってくれ」


 俺としてはこんな時間に起こされたせいで、普通に眠い。


「貴様の秘密を全校生徒にバラされたくなかったら、頼みを聞くことじゃ」


「その頼みとやらはなんでしょうか、ソフィー様」


 俺の秘密と言ったって、どうせ大したことじゃないとは思う。

 思うんだけど、ほら。困ってる人とか神様がいたら、手を差し伸べてあげるのが、日本人というかさ。

 自業自得とか情けは人の為ならずみたいなものでしてね。

 決して、あのことをバラされたくないとかではないんですよ、まじで。


「はあ。その態度の変わり身の早さはさすがというべきか。頼みというのはな、七つの奇跡の力コクリトファイスを見つけ出すこと、だよ」


「七つのこくりとふぁいす?」


「そう。奇跡に等しい力、つまりは奇跡の力。これを、私は奇跡の力コクリトファイスとしたの。それでね、私はこの世界に、七つの奇跡の力コクリトファイスを与えた。そして、奇跡の力それは、七人の人物が持つことになってる。奇跡の力それをあなたに回収してほしい」


 話し方、声のトーン、俺の呼称の唐突の変化に、話が全然頭に入ってこない。


「ちょっと待ってくれ。もう一回頼む」


 俺は、思わずそう聞き返していた。


「えっと、それじゃ、簡単に説明するよ? 私はこの世界に七つの奇跡の力コクリトファイスを与えた。だから、あなたに奇跡の力それを回収してほしい」


「一体、どういうことだ? お前がこの世界に与えたんだから、お前が回収したらいいだろ。それに、それなら最初から与える必要だってない」


「う~ん。さすがだね、みなとくん。そこの穴に気づくとは……」


 何がしたいのだろうか。何が言いたいのだろうか。

 自分でまいた種なんだから、自分で回収すればいい。

 それこそ、自業自得だ。


「う~んとね。与える必要はあったの。でも、私が与えた力は、この世界には大きすぎたんだよ。で、それを私が回収すると、私の力が大きすぎて、この世界が壊れちゃう」


「それは、お前がやったことだ。お前自身がどうにかするべきことだろ?」


「そうだね。だから、頼み、お願いなんだよ。でも、君はこの頼みを受けるしかない」


「はっ? そんな理由はどこにもない」


 わざわざ面倒事を引き受けるほど、俺はお人好しじゃない。

 やりたくないことはやらない。それが俺だ。


「それじゃ、仕方ないよね。君のヒ・ミ・ツ、言っちゃうよ?」


「わかった。引き受けるから、それは秘密にしてくれ」


 既に、二人ほどにバレているが。それはそれ、これはこれだ。


「ありがと」


 神は一言そう言った。優しく、美しい声で。

 くそ。とんだ面倒事に巻き込まれてしまった。本当、神様ってのはズルい。

 だって、なんでも知ってて、人の弱みなんて握りたい放題なんだから。


「さて、これで終わりである。頼みを聞いてくれて、感謝するのじゃ」


「それはいいが、どうやって探すんだ?」


「それは、奇跡の力コクリトファイスを持つ者を自力で探すのじゃ」


 気づいたときには、いつもの神様ソフィーに戻っていた。

 そんなソフィーに、なんか落ち着くような安心感がある。


「てか、それって、奇跡の力コクリトファイスを持つ者を見つける方法がないってことだよな?」


「違うのじゃ。奇跡の力コクリトファイスを持つ者と会えばなんとなくわかる」


「なあ。いや、そこは置いとくとしよう。けど、それって、会わなきゃわからないってことだよな? この世界に、何人の人間がいると思ってるの? バカなの?」


「汝、それは流石さすがに、我に失礼てあるぞ? 我は曲がりなりにも、永久の時を生きる神である。それに、安心せい。この県内の住人だけであるからして」


「それでも、全然安心できねぇーよ!」


 こいつは余程のバカらしい。

 そもそも、範囲の問題ではない。


「そうじゃ、奇跡の力コクリトファイスは七つ同時回収する必要がある。だから、一人目が現れたら封印をする必要がある。まあ、いつ奇跡の力コクリトファイスを手に入れる者が現れるかはわからんがな」


「ふざけんな」


「ちなみに、奇跡の力コクリトファイスを持つものは一人ずつと決まっておる。だから、世界に一人いれば、封印するまで次の奇跡の力コクリトファイスを持つものが現れることはないから安心するのじゃ」


「待て、封印ってなんだ?」


「ふぁ~あ。今宵はもう眠いから、また今度にするのじゃ」


「ふざけんな」


 どうやら、俺は想像以上の面倒事に巻き込まれたらしい。

 はあ、どうしてこうなった。

 趣味の女装がそんなに──。


「汝、女装が趣味なのか?」


「えっ? だって、秘密をバラすって──」


「汝ののことをバラすつもりであったのじゃが」


「そっちかよっ!」


 どうやら、俺はとんだ勘違いをしていたらしい。

 まあ、どっちにしろバラされたくはないけどなっ!


「てか、人の心を勝手に読むなっ! この人でなし!」


「神だからの」


 そのあと、俺は邪魔ソフィーを部屋から追い出して、ベッドに戻った。

 それにしても、ソフィーがうちの居候となってから、まだ数日しか経ってないはず。

 それなのに、一ヶ月経ったような気分でいる。

 いや、それよりももっと前から一緒に居たと言われても不思議じゃない。


 ……って、全然寝れねぇー。


 睡眠の邪魔をされたときは、あれだけ眠かったはずなのに。

 あんな話をされたら、目が冴えてしまった。

 仕方ないので、起き上がってキッチンに向かうことにした。

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