第10話 楽士と情報屋 下
発射と装填を繰り返す大砲。出撃と後退を繰り返す衛兵達。死に物狂いで戦う彼らは、知性の無い魔獣相手に一進一退を繰り返していた。だが、数の差は歴然であった。
「チッ、こいつらキリがねえぞ」
衛兵の一人が、ナイフのような武器を持ったゴブリンを、悪態をつきながら斬り伏せる。彼の身体は返り血で、血塗れになっていた。これまで、多くの魔獣を斬りつけ、疲労も溜まっていた。
「おい、後ろ‼」
近くにいた別の衛兵から突然声が届く。その声の通り後ろを振り返る。目の前には、大きくナイフを振りかぶり、飛び掛かってくる中型のゴブリンの姿。彼は目を瞑り、死を覚悟する。
だが、彼の身には何も起こらなかった。なぜなら、彼に覆いかぶさろうとしていたゴブリンは宙に血をまき散らしながら、彼の横に倒れた。その体には短めの直剣が突き刺さっている。
「だいじょーぶか?」
緑交じりの黒髪で短髪の女性が、ゴブリンに刺さった直剣を抜き歩み寄ってくる。焦げ茶色のフード付きの羽織には、所々血が付いている。衛兵ではないことを確認し、名前を尋ねるため口を開こうとした。だが、女性の方が一歩早かった。
「あたいの名は、アウル。しがない情報屋さ。さあ、後退しな。衛兵隊に撤退命令が出されたぞ!」
アウルは、襲い掛かってくるゴブリン達の首と胴体を分けて衛兵に指示する。ほぼ一太刀で仕留めるアウルの動きに、魔獣達は怯み動きが鈍くなる。その機を逃さず、周りにいた衛兵にも同じように指示を出した。
「さあ、今だ! 全員てったーい!」
その声に、衛兵達は駆け足でその場から離れていく。その様子を見ながら、呟いた。
「これでいいんだよな……。ハル」
アウルはそう呟きながら、また一体、首から血が噴き出し地に伏せた。
数刻前、衛兵長ダンクは入り口付近に設けられたテントの中にいた。そこに三人の男女が駆け込んできた。
「突然すまない、ダンク。今の状況教えてくれないか?」
「ハルさんにルテアさん⁉ そちらの方は?」
突然現れた、ハルとルテアに驚きの声を上げる。そして、初めて見るアウルの姿に、ダンクは疑問を浮かべたが、ハルが簡単にこれまでの経緯を説明した。
「——なるほど。協力感謝いたします、アウルさん。で、今の状況でしたね」
アウルは、軽く頭を下げる。その後、ダンクは話を続けた。
「先程まで前線と魔獣は拮抗していたのですが、少し数に圧倒され始めた感じです。あと、少し士気が落ちかけてきているかもしれません……」
「なるほど。士気が落ちてくるのはまずいな」
ハルの呟きに、ダンクは頷き、唸りながらなにか一手はないものかと考えていた。
「一気に魔獣を殲滅出来れば、再び士気が上がるかもしれませんが、数が多すぎて大砲だけでは……」
ダンクが考えている中、ハルは何か思いついたようで提案する。
「それなら、俺の能力で一掃できるかもしれない。だが、今やると衛士達を巻き込んでしまう。どうにかして、前線に出ている者達だけでも撤退させないと」
「だが、それ以外に方法は無いし、案外それでもいいんじゃないか」
アウルはその提案に肯定を示す。
「そうですね。ハル様の能力なら一掃できるかもしれませんね。前線の撤退は私達だけで何とかするしか方法はありません」
ルテアの言葉に、ハルは頷きダンクに再度提案する。
「撤退は俺達三人が支援する。だから全員に撤退命令を出してくれないか?」
その言葉に、ダンクは決心したように、外に控えていた副官の衛兵を呼んだ。
「今すぐ全隊に門の中まで撤退命令を! では、お願いします、皆さん。この一手で戦局を傾けましょう」
その言葉に、ハル達は頷く。持っていた荷物をダンク達に預け、戦闘のため軽装にする。
ハルは腰に真新しい短剣と衛兵の備品である長剣を背に装備する。服装は変わらず亜麻色のフード付きコート。ルテアは、細身の長剣を装備し、ハルと同じコートを羽織っている。その下には、軽いアーマープレートをつけ、腰にはポーチを。アウルは、短めの直剣を腰に帯び、首元には紅いスカーフを巻き、焦げ茶色の羽織を着て先程と変わらない姿だった。
瞬時に準備を済ませた三人は、作戦会議もとい先程の事をおさらいする。
「さて、俺達は別々に前線の撤退を支援。その後、ルテアの茨で門付近にバリケードを張ってくれ。迫る魔獣の群れを足止めしている間に俺が一掃する」
「わかった」「了解しました」
二人は揃って返事する。
「さあ行くぞ。二人とも無事でな」
その言葉と共に、三人はそれぞれ分かれて前線に向かった。
再び時間は戻る。前線にいた衛兵隊は徐々に入り口付近に戻ってきていた。各々、体のそこらかしこから血が流れている。前線で戦ってきただけあって傷だらけになっていた。その彼らを追ってくる魔獣達。狼やネズミの様な獣の姿をした魔獣が逃げる彼らを追ってきていた。門付近で迫りくる魔獣を借りた長剣で斬り伏せるハル。
ハルの元に、撤退支援をしていたアウルが戻ってくる。返り血に塗れているが、怪我をした様子はなさそうだ。
「こっちは大丈夫だ。あとは……」
アウルが門まで戻って来て、ハルに声をかける。ルテアの姿がないことに、不安を覚え、戦場の方に目を凝らす。すると、遠くの方にルテアの姿があった。
ルテアの側には、負傷したのか立つのがやっとの衛兵の姿。損な衛兵をかばいながら、必死に細剣をふるっていた。徐々に囲まれそうになっている彼女の姿を視認したアウルは、再び戦場の方に戻った。
右足と左肩を負傷した衛兵をかばいながら、ルテアは。ネズミや狼の魔獣に細剣を突き立てる。穿たれた魔獣の身体からは、鮮血が噴き出し絶命させる。気づけば多くの、魔獣の死体が周りに転がっていた。勢いよく命を刈り取っていたこともあり、逃げる隙が出来た。その気を逃さず、負傷した衛兵に声をかける。
「逃げましょう」
ルテアの指示に、負傷した衛兵は従い、おぼつかない足取りで門の方へと進んでいく。だが、負傷してるだけあって、足取りは遅く、逃げる背を追って狼の魔獣が迫っていた。
迫っている魔獣に反応が遅れ、手負いの衛兵の上に魔獣が飛び掛かる。その魔獣が噛みつく前に、細剣で頭部を貫く。そして、魔獣の身体を蹴り衛兵からどかす。辺りを見ると、逃げる二人を追って数多くの魔獣が迫って来ていた。徐々に距離を詰めてくる魔獣に対し、突然ルテアの背後から声がする。
「目をつぶって!」
女性の指示通り、目を瞑る。ルテアの背後から投げられた黒い珠。それが破裂し強烈な光を発する。その光にやられた魔獣は、歩みを止め後退る。その間に、ルテアの背後から駆けて来たアウルがルテアに言った。
「今のうちに逃げるよ! その衛兵は担いでこれる?」
「アウルさん⁉ ありがとうございます」
予想していなかった救援に、礼を述べるルテア。そのルテアをせかすように言う。
「礼は後で、まず逃げよう」
ルテアは頷き、倒れている衛兵を背中に担ぎ走り出す。アウルは、そのルテアの後ろに付いて行った。
衛兵を担ぎながら、門まで戻って来たルテアと救援に向かったアウル。二人に大きい怪我がないこと安堵したハルは、二人に声をかける。
「その衛兵で最後だよな?」
担いだ衛兵を、他の衛兵に渡しハルのもとに駆け寄る。
「はい。今の方で最後です。遅くなりました」
全員の撤退を確認したハルは、ルテアに声をかける。
「無事でなによりだ。ルテア、作戦通りできるか」
「はい、ハル様。お任せを」
ハルの合図に、ルテアは手に握っていた細身の長剣を地面に突き刺す。そして、迫りくる魔獣達の手前に意識を集中させた。
「壁となれ、黄色の薔薇よ‼」
ルテアが意識を集中した場所に、人二人分の高さがある茨の壁が地面から姿を現す。突き進んでくる魔獣達が茨の壁に激突し、壁は軋みを上げている。ルテアもそれに耐えるため、苦痛の表情を浮かべながら踏ん張っていた。
それと同時に、ハルは短剣を抜き、その茨の方に向け、眼を瞑り意識を集中させる。すると、ハルの周りの空気が震え、点々と波紋が生じる。一つ一つ、振動した部分が剣へと変化していった。あっという間にハルの周りには、無数の剣が密集していた。閉じていた目を開け、宙に浮いている半透明の剣に向かって指示を出す。
「さあ、貫け‼ 目の前の敵を一掃しろ‼」
その言葉と共に、周りに浮かんでいた剣が一斉に目の前の茨に向かって飛んでいく。ハルの件が飛んだ直後、アウルがルテアに指示を出した。
「今だ、能力を解くんだ」
指示通り、ルテアは剣を抜き能力を解除する。茨は力が抜けたように萎れ、残ったままだが、ハルの剣が茨を容赦なく貫き、背後にいる魔獣までも貫く。無数の剣によって魔獣は歩みを止め、辺りに魔獣の絶叫が響き渡る。それを見ていた、衛兵達からは歓喜の声が上がった。
ハルの周りから、剣が無くなると目の前には、朽ちた茨とおびただしいほどの魔獣の亡骸が転がっている。動いているものはほとんどいない。その様子をテントから出て、門付近で見ていたダンクは、好機と見て控えていた衛兵を含む全体に指示を飛ばした。
「今だ、残る魔獣を蹴散らせ‼」
「「「「おお―‼」」」」
衛兵達は雄叫び上げ、それぞれ武器を手に前線へと走っていった。
一方ルテアは、アウルに支えられながら立っていた。能力を使ったことと、先程の撤退支援で疲労がきているのだろう。
「廃虚の時と言い、同じ能力持ちでこうも違うんだな」
肩を貸しながらアウルは呟いた。その呟きに、苦笑いを浮かべて返す。
「能力に慣れた人ほどこうはならないんですけどね」
アウルの言った通り、ハルは疲労感も感じられないように前線の方を睨みつけている。しばらくして、ルテアの方に歩み寄ってきた。そして、心配そうに声をかける。
「大丈夫か?」
「ご心配なさらず。森で助けた女の子から貰った薬があるので何とか大丈夫ですよ」
「動けそうなら、テントにもどろーぜ」
ハルとアウルに手助けしてもらいながら、ダンクのいたテントへと歩いて行った。
テントにたどり着いた三人は、戻っていたダンクやその副官たちに拍手で迎えられた。
「ありがとうございます、ハルさん。それにお二方。何とか前線の士気も上がりました。感謝します」
「ああ、よかったよ。後は任せていいか、ダンク」
「はい、勿論です」
ダンクとやり取りをしながら、ルテアを近くの椅子に座らせる。腰を下ろしたルテアは、腰に提げているポーチから紅い液体を取り出す。その蓋を開け、口の中に、半分流し込んだ。
「んー、苦いです」
薬を飲み、顔をゆがめる。ハルは軽く笑いながら言った。
「いい薬程、苦いっていうからね。それよりどうだ、体の方は?」
心配していたハルは、ルテアに尋ねた。
「大丈夫ですよ。ハル様」
「なら、よかったよ。立て続けでしんどいかもしれないが、シャルトのところに向かおうか」
アウルもその言葉に頷き、装備を整える。残る二人も返り血を拭いて装備を整えていた。
身支度が終わった三人はテントから出る。テントの外には、乗って来たものとは別の馬車が用意されていた。
「館の方に行くのですよね? 良かったら乗って行って下さい」
ダンクの副官がそう勧めてきたので、その馬車に乗り込む。三人とも乗り込んだことを確認した副官が、前に座る衛兵に指示を飛ばす。その衛兵は、馬の手綱をはじき、馬車を動かす。馬車の窓からは、立ち昇る黒煙が段々と遠ざかっていった。
* * *
ハル達が魔獣を一掃している頃、館のシャルトの自室では、水の柱に囲まれたプーフェの尋問が行われていた。
「ふむ。案外しゃべるんだな、楽士君」
「痛いのは嫌ですからね。この人コワそうだし」
檻の横に控えているアンリは、細長い棒を両手で持ってプーフェを睨んでいた。今にでも、その棒で、突き刺すかのように。
「本題に戻ろうか。君はこの笛を偶然、立ち寄った町で謎の老人にもらったと言ったね? その老人の名前は知らないのか?」
その質問にプーフェは首を横に振った。
「知らないよ。名乗ってもいなかったからね。ただ、高そうな白いローブを羽織っていたから、お金持ちなのかなって思ったけど」
「白いローブ?」
プーフェの言葉に疑問を持ったシャルトは、そのローブについて聞いた。
「確か……。どこかで見たことがあるような」
プーフェは、自分の記憶をたどりながら。似ていた物を記憶から探し出していた。すると、突然シャルトの方を見てプーフェとアンリは同時に声を上げた。
「そう、それだ‼ その服だよ」
「シャルト様、危ない‼」
プーフェはシャルトの方を指さし、アンリは手に持っていた棒をシャルトの背後に向かって投げた。それと同時に、シャルトは背後を向く。そこには黒い仮面をつけた白いローブ姿の男性。飛翔した棒は、仮面の男が半分に切り落とした。シャルトはすかさず距離を取る。
「誰だ! お前は?」
仮面の男はシャルトの質問に、接近し蹴りで返す。シャルトは、寸前のところで防御姿勢をとる。少し鈍い音をたて、シャルトは少し後ろに飛んでいく。
「シャルト様に何を‼」
シャルトが、壁に激突するのが目に入ったアンリは激高し、スカートの中に仕込んでいたナイフを取り出す。そして、瞬時に仮面の男に向かって、斬りかかる。仮面の男は、切り落とした棒を拾い迎え撃つ。右斜めから斬りかかったナイフを男は左下から振り上げ相殺する。木にナイフが喰い込み、互いの得物は身動きがとれなくなる。それを逃さず、男はアンリの横腹に蹴りを入れる。アンリは、シャルト同様に飛ばされた。
「やめろ‼ それ以上は、命を保証しかねるぞ」
態勢を立て直したシャルトは、懐から水の瓶を取り出し、蓋を開ける。そこから、水の狼が姿を現した。アンリもゆっくり立ち上がり、再びナイフを取り出し構える。
「いい加減、名乗ったらどうだ?」
シャルトは、仮面の男に再び問う。しかし、男は答えなかった。そして、男はプーフェの檻の前に瞬時に移動する。プーフェは、救援がきたと喜び、目の前に立つ仮面の男に声を掛けようとするが、先に仮面から低くかすれた声が漏れる。
「……死ね」
「え? 今なんて?」
プーフェは、聞き間違いと思い問い直す。だが、仮面の男は何も答えない。
男は水の檻の中にいるプーフェの方に、ローブの中から取り出した直剣の切っ先を向ける。その直剣を持った手を振りかぶる。直後、執務室の扉が蹴り破られた。
「無事か、シャルト‼」
仮面の男とシャルトの間に一人の青年が割り込んでくる。その青年に向かって、シャルトは待っていたような反応を示した。
「ハル、戻ってきてくれると信じていたぞ」
突然の乱入者に仮面の男は、動きを止める。そして、ハルの姿を認識した途端、持っていた剣をその方向に向けた。
ハルも白ローブの姿を目にし、動きを止める。そして、冷ややかな視線を送りながら言葉を投げた。
「久しぶりだな。その姿を見るのは何年ぶりだろうな」
ハルが追われる原因となった相手、その姿に瓜二つの者が立っている。
「ハ、ハル様⁉」
低く冷たい声音のハルに、遅れて入って来たルテアは、声をかけた。
「少し下がっていてくれないか。こいつは俺の相手だ」
「わ、わかりました」
ルテアはシャルトの方へと下がる。
そして、ハルは衛兵隊から借りた長剣を抜き、仮面の男に斬りかかる。その動きに仮面の男は、手に持った直剣で応戦する。刃と刃がぶつかり甲高い音が、室内で響き、火花を散らす。一度距離を取り、仮面の男の左肩へ突き技を繰り出す。相手はそれを躱し、ハルの左脇腹に向けて斬りかかった。それを、腰の短剣を瞬時に抜き、刃に当て跳ね返す。その機を逃さず右手に持った長剣で肩を斬りつけた。だが、その剣は宙を切るだけだった。
「やはり、お前幻影だったか」
ハルの長剣は、仮面の男の胴体を真っ二つにしていた。だが、切断面は、煙が漂うように揺れている。ゆっくりとそれが合わさり、元の姿に戻る。そして、かすれた声が仮面から聞こえる。
「……また会おう。元皇子」
仮面の男は、その言葉と共に、部屋に煙を撒き散らす。その中、煙に紛れて消えていった。
煙を掻き分け、必死に手を伸ばす。手には何も掴めなかった。
「待て‼ クソッ、逃げたか」
長剣と短剣を収め、消えた場所を睨みつけていた。
「あれは一体……?」
ルテアの疑問に、シャルトは答えた。
「幻影系の能力で作られたものだね。恐らくこの一件の黒幕が、トカゲの尻尾切りにやって来たのだろう」
シャルトの説明に、ルテアは納得を示した。
すかさず、アンリがシャルトの下に駆け寄り、声をかける。
「シャルト様、お怪我は?」
「これぐらい平気さ、それよりプーフェはどこに行った?」
仮面の男と共に、水牢で捕らえていたプーフェの姿も消えていた。水の檻から強引に出たのだろう。部屋の外へと、道を示すように血が付いていた。
「ハル様、アウルさんもいません」
ルテアも辺りを見回し、アウルがいないことに気付く。
「そうか……。因縁があるっていってたからそっちに行ったのかもしれないな」
「追わなくて大丈夫でしょうか?」
ルテアは、心配になって尋ねるがハルは首を横に振った。
「今は彼女に任せよう」
「……わかりました」
ルテアの表情に不安の文字が浮かんでいた。
ハルの言葉通り、アウルは床に付いた血を辿り、プーフェを追って館の中庭に来ていた。ふらふらと歩く男の姿を見つけアウルは声をかけた。
「やっと見つけたよ、楽士さん」
「これは、これは、情報屋さん」
呼び止められた、プーフェはアウルの方を向く。血にまみれ、肩で息をしながら、アウルに尋ねる。
「どうしました、情報屋さん。私を殺しに来ましたか?」
「その通り。あんたを討つためにね」
アウルは、懐に入れていた短刀を取り出し、抜く。その短刀の柄には名前が彫られている。その主は、かつてアウルと共に情報屋稼業をしていた者の名だった。
「あんたは、あたいの相棒を奪った。このスカーフに見覚えないかしら?」
そう言って、首元に巻いていた赤色のスカーフを見えるようにつまんだ。すると、プーフェは何か思い出したかのように口を開いた。
「いましたね、そんなスカーフを巻いた男が」
「その人の仇を討つためにあんたを探して、ここにいる」
プーフェは、アウルの話を聞きながら、よろよろと木にもたれ掛かった。血を流しすぎたためか息もゆっくりとなっていた。
「なら、早く殺してくれないか? 僕もそろそろ限界が近いんですが」
「望み通りにしてあげたいのだけど、一つだけ。あの人は最後に何か言っていたか覚えている?」
木にもたれ掛かり、プーフェは目を閉じながら答えた。
「『先に行くけど、後は任せた。アウル、君なら良い情報屋になれる』そう言ってた。さあ、早く楽にしてくれよ」
「……そう。ありがとう。じゃあね」
その言葉と同時に、木に持たれかかっていたプーフェの首を、短刀で切り裂く。首から勢いよく血を吹き出し、前のめりに倒れた。
アウルは、短刀についた血を拭きとり、鞘にしまう。そして、膝をつき胸の前で大事そうに短刀を抱えていた。膝をついた地面は段々と濡れていった。
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