第3話遊ぼうよ

新学期が始まって1ヶ月を経とうとしている。


最近、いや、前から気づいていたが、櫻葉凪咲という人物はどうやら人たらしらしい。


男にも女にも異様にモテる。


それは話し方だったり、一つ一つの仕草だったり色々あるわけで、しかもそれに加えてあの美貌と来た。


神様が人に好かれるように設計したのか、それとも彼女が人に好かれようと努力しているのか。


それはきっと本人にしか分からないし、それをを考えさせる時点で、本人にしか分からせないという凄さすら感じる。


結局、努力であっても、才能であっても、有からは遥か遠い存在であることには変わりない。


きっと、このクラス全てが彼女によって掌握され、果ては学校、そして社会に出ても彼女の人たらしは健在であろう。


これから先も彼女の虜になるものは数多くい

る。


だからこそ、つい、この間までに覚えた、気持ちの悪い、不快な感情は自然なものであり、彼女と関われば誰しもが、彼女をそばに置いていたくなる。

決して、異常なのが有ではなく、万人をそうしてしまう凪咲が異常なのだ。


けれども、そんな彼女が誰かの虜になっているところは見たことがない。


何処か、彼女、凪咲は聖人であり、神様であり、特定の人に特別好意を向けると言うよりみんなに平等に、そんな振る舞い方だ。


年頃の女の子ともあって、ひとつくらい浮いた話もありそうなものだが、彼女はそれを感じさせない。


感じさせないだけで、本当はあるのかもしれない。

けれども、それもまた彼女にしか分からぬこと。


ただ、そんな彼女を虜にするような人がいるのなら、きっと有に入る隙はないだろう。


そんなことを考えながら、有は遠くに離れた凪咲をただ見つめる。


と言っても、さすがにガン見は引かれるので、横目で少し見るくらいだ。


有は凪咲に惚れているというより、強い憧れがあった。


自分にはないものを彼女は持っている。


だからこそ、彼女を手に入れてしまえば、きっと自分のものになる気がする。

そんな気持ち。


恋というよりは今は憧れ、遠い存在であるがゆえ、どこかそうして諦めをつけていくうちに、自然に恋かどうかも分からなくなった。


もっと端的に言うと、ひよっているうちに、ひよっている言い訳ばかりが浮かんで、それを正当化し続けた結果、それを正しいものだと認識するようになっていった。


「まーた、櫻葉さんばっかりみて」


休み時間、蓮が話しかけてくる。


「うるせぇ、あんないい席になりやがって」

「妬みか?妬みか?」

「そうだよ。悪いか!」


そう言うと蓮は「悪かないさ。あんな席、誰でも羨ましいだろ」と答える。


その表情は周りを (主に有を) 見下すような感じだ。


ただくじ運が良かっただけでこの顔である。


つくづく、どうしてこんな奴といるんだろうと有は思いながらも、蓮から視線を外して外を見る。


と言っても、外を見るには少し遠い席なので、正しくは蓮から視線を外すと外だった。


「そういえば、そろそろゴールデンウィークだな」


蓮が視線を外した有に言う。


「だな、遊びに行くか?」


有は視線を蓮に戻して言った。


「当たり前だろ。遊び尽くすぞ」


蓮はもちろんだというふうに、1人でゴールデンウィークの遊び計画を立て始める。


「その前に課題な」


有がそう言うと、「ま、その時はその時」と蓮は答えた。


その時とは、きっと課題なんてするつもりがないのだろう。


全く、どうしてこれで勉強ができるのか。


佐伯蓮という人物の持っているものに嫉妬せざるを得ない。


どうしてか、みんな有の周りには自分にないものを持っている人が多い。


最近は自分にないものを持っている人が羨ましくてたまらない。


どこか自分がちっぽけなものに感じる。


元々ポジティブ思考ではないが、それでも、最近は酷く憂鬱な気分になる。


高校2年生は遊べるようで遊べない。

自由なようで、縛られている。


この先の事、もっと身近な小テストのこと、課題に遊びに、贅沢なことにすべきこと、したいことが溢れかえっている。


勿論、全てをこなせれば問題ないのだが、有にはその容量は無い、だから何かを捨てたり、必要最低限にしたり、そうしてみんなと同じようにやりくりしている。


だから、勉強も出来て、スポーツもできて、遊びもできる。


そんな蓮が羨ましいかった。


「ほら、有、最近顔死んでるからさ、たまには思いっっっきり、遊ぼうぜ」


そう言われれば仕方ない。


「当たり前だろ」


今年は遊ぶことを選んだ。


「面白そうな話だねー」


「うおっ、いつの間に」


話に入ってきたのは美咲だった。


「諏訪さん、どう?一緒に遊ぶ?」


蓮が遊びに誘う。


「いいねー、なら、凪咲も呼んでいい?」

「もちろん。なっ、有」


そう言われたら断れない。元から断るつもりもないし、願ってもない事だ。


「おう。いいよ」


有がそう答えると、美咲は嬉しそうに凪咲を呼びに行った。


「で、話聞いたよ!私も行きたい!」


凪咲はテンション高めだ。


「で、お願いなんだけど、友達も誘っていいかな?」


どうやら凪咲は凪咲でその女友達と遊ぶつもりだったらしい。


「いいよ」

「もちろん」


有も蓮も了承する。


遊ぶなら大人数がいいし、それに個人的にももう少し女の子の友達が欲しかった。


もちろん、下心アリアリで。


「なら、こっちもいいかな?」


有は横に座っていた琉生にも声をかけた。


「コイツも一緒に行っていい?」


なんだかんだ、琉生と仲良くなっていたので、せっかくならと誘うことにした。


「もちろん」

「全然!むしろ歓迎だよ!みんなで遊びたいしね」


ということで琉生に声をかける。


「琉生、ゴールデンウィーク遊びに行く?蓮とか、櫻葉さんとかも来るけど」


すると琉生は二つ返事で「行く」と答えた。


櫻葉さん達と遊べるなんて羨ましいなー、なんてたまにクラスメイトには言われたりするけれど、どうやらクラスの男子も有と同じで、憧れや、可愛いから好きであり、恋ではないようだ。


好きと恋の違い、どうやら最近受けたどのテストよりも難しいらしい。





ゴールデンウィークまで1週間を切り、クラス、学校もゴールデンウィーク気分になってきたのか、それとも気候か、やけに盛り上がって熱い空気の中、汗を垂らし自転車を漕ぐ。


と言っても電動だから、言うほど疲れてもいないが。


そして、いつも通り曲がり角を曲がろうとした時!


「危なっ!!」

「きゃっー!!」


女の子が自転車で飛び出してくる。


2人とも間一髪で、避けることができたが、これではラブコメの運命の出会いというより、ただの事故になってしまうところだった。


「「大丈夫ですか!!!」」


2人とも慌てて互いを心配する。


彼女の制服から有の学校とは反対方向の女子校の生徒だと分かった。


「あ、あの、すいませんでしたっ!」


その女の子はサーっと逃げるように自転車を漕いで行ってしまった。


一瞬だが、顔が可愛いことが確認できたので良しとして、有は学校へ向かった。






(ホント、危なかった。あの人怒ってなかったかな?やばっ、遅刻する!)



ここでさっきの自転車の彼女について少し触れよう。


彼女はささゆい


女子校に通う、元気な高校1年生だ。




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