第2話神様降臨

幸せな気分の中始まった新学期。


それからの約2週間ほど過ぎた頃。

運命のイタズラとでも言おうか。

待っていたのは席替えだった。


帰りのホームルーム。


こんなにも嫌な気分になる席替えは初めてだった。新鮮な空気より、横目に少し見るあの子の方がよっぽど良かった。


「席替えだねぇ」


凪咲が有に話しかける。


その間にも席替えのくじはどんどん回っていく。


「うん。そうだね」


有は短く答えた。

これ以上何か言うと、自分が凪咲と離れたくないのがバレるのではないか、嫌われるのではないか、そう思うとやっとまともに話せるようになってきたのにも関わらず、会話が続かない。

続けたくない。

そんな気持ちだ。


「せっかく話せるようになったのに、離れちゃうなんて寂しいね」


凪咲はそう答えると回ってきたくじを引いた。


寂しいね、なんてきっと彼女は誰にでも言うんだろうけど、今はそれが自分に向けられていることに喜びと、そして、もしかするとそれが誰かのものになるかもしれないという悲しさの混ざった、言うなら気持ち悪い感情が頭に残る。


(付き合ってもない、ただ隣の席にいるだけなのに、なんだよ、この独占欲。気持ち悪い)


自分の中にある気持ち悪いとしか言えない何かをぐっと堪えて有は回ってきたくじを引いた。


「席どこなんだろう」


独り言にも近い、いや、独り言をぽつりと発する。


「また、隣だといいね」


その独り言を聞いていたのか、凪咲は有の方を向いて、ニコッと笑いかけた。


その笑顔が眩しい。

自分の気持ち悪い感情とは真逆のあまりに眩しい笑顔だった。


そして、そんなことを平気で言う凪咲に対して、憎い、けど可愛いからそれでもうなんでもいいや。

そんな気持ちになったところで、くじを回収された。


明日の朝には、くじの結果が黒板に張り出されているだろう。


きっともう、凪咲と隣の席になることはないだろうと、そう思い一言凪咲に挨拶だけして教室を出る。


「凪咲ー」


凪咲の元に美咲が駆け寄っていく。


美女と美女の組み合わせに教室の目線は釘付けだ。


凪咲も美咲も誰とでも仲良くするタイプで、随分と友達は多いが、あの二人だけはその中でも特別仲がいい。


きっと親友と言うやつなんだろう。


そんなことを考えて教室から離れ、階段のところで、なんというか、親友と呼ぶにはなんとも嫌な気分になる声がする。


「帰んの早いって、もうちょっと待っててくれてもいいだろ?」


蓮の声だ。


「蓮が遅いんだよ」


そんなことを言いながら、2人は階段を降りる。


「席替え、櫻葉さんの隣ならいいな」


蓮が言う。


「まあな。でも、そんな奇跡ないだろうな。まあ、初めから隣の席になった事自体奇跡みたいなもんだったし」


そんな風に諦め調子でどこか上の空を見ていると、


ドンッ!!


階段から滑り落ちた。


それもあと、2段ほどの所で。


「なにやってんの。だっっっさっ」

「う、うるせぇ、起きるから手、かせ!」


連に煽られながらも、何とか起こしてもらう。


カバンがいい感じにクッションになったため、多少の打撲程度で済んだのが不幸中の幸いだった。


起き上がった有の横をクスクスと笑いながら他の生徒が通っていく。


「くそっ、なんて日だよ」


これも朝の占いが悪かったからだと自分に言い聞かせ、その場を直ぐに立ち去ろうとする。


すると横から見知った2人が通っていく。


そして、2人は振り返ると、


「怪我してない?」

「頭とか打ってないの?」


と、心配の声……だが、その顔には微かに笑いを堪えているのが残っている。


「おっ、櫻葉さんと諏訪さんじゃん!」


蓮が2人に声をかける。


「蓮くん!」


凪咲が蓮に返した。


いつの間にか、蓮は「蓮くん」なんて呼ばれるようになったのか、後で問いつめることを決定し、有は恥ずかしさから、もう一度その場を直ぐに立ち去ろうとした。

その時、


「席替えで、隣だったらいいねって、本心だから」


凪咲が有に言う。


「えっ?」


思わず声が漏れる。


「なんか疑ってたでしょ?そんな顔してたから。勘違いだったらごめんね!」


そう言って凪咲は階段を降りきって下駄箱へ向かっていく。


「まあ、凪咲と仲良くしてあげてね」


美咲がニコッと笑いかけ、凪咲の後ろについて行った。


「よかったな」


蓮が有に声をかける。


「ああ、占いなんて当てにならんよな」

「は?」


憂鬱な気分はどこへやら、スキップでもして帰りたい気分で階段の残り1段を降り、下駄箱へ向かっていく。


もう、下駄箱には凪咲と美咲の姿はない。


2人はバス通学なので、自転車通学の蓮と有はもう、今日は会うことはないだろう。


けれども、今日は満足して最高だった言うことが出来る。そんな日になった。




そうして次の日。


ルンルン気分で登校し、黒板にはられた座席表を見た。


(えっーと俺は……あった!)


席を見つけた。

1番後ろの真ん中。


直ぐに隣の席を確認する。


まずは左となり。


(……まっ、そんな訳ないよな。でも、右なら)


次に右となり。


(……そんな現実甘くないよな。でも、ワンチャン近くなら……っ)


前、斜め前、後ろは勿論、どこにもいない。


そして、やっとの思いで見つけた凪咲の席は1番前の右端から2番目。


(遠い……)


神様とは残酷だ。


次に見つけたのは美咲の席。


1番前の左端から2番目。

そして、その後ろに蓮。


(ふぁっ○ゅー)


そう心の中で呟いたあと、黙って有は後ろの席に座った。


左隣の席のやつは大して仲良くはないが、中学が同じで多少面識のあるたけりゅうせいと言うやつだった。


「リュウじゃん、よろしく」


有は琉生に声をかける。


「おっ、有か、よろしくな」


大して仲良くはないが、別に仲が悪い訳でもない。


微妙距離感だと言われればそうだが、ちょっと話すくらいならちょうどいい。



右隣と前は知らない女子。


とはいえ、凪咲や美咲と関わっていけばこの先いつか関わることになりそうなそんな気がする。


関わっていければの話だが。


美咲と蓮は仲良さげに話しているし、凪咲も隣の男の子や、後ろの男の子とも仲良く話している。


そんな光景を見て、学校やめようかなと思いながらも始まるの1時間目の授業の用意をする。


1時間目は世界史だ。


日本史と世界史は今日から別の教室で授業を受けることになる。


世界史には凪咲も美咲もいるが、蓮はいない。


何クラスかが、集まって、世界史選択は世界史選択で、日本史選択は日本史選択で授業を受ける。


授業の前に移動先の教室ではられた座席表を確認した。


神はやはりいたようだ。


神様バンザイ。


隣は美咲だった。


けれども、美咲はその席を見ると明らかにテンションを落とす。


はぁ、とため息まで着く始末。


神はやはり死んだ。

今日をもって、俺も死のうと思えるほどに、美少女のため息は心に来た。


席に座り授業が始まる。


その時、


「先生ー、サキが見えないんで私と席変わってもいいですか?」


凪咲が言う。


「私目が悪いんで前の席がいいんです」


美咲が言う。


すると先生は「そうか、なら変わってあげなさい」と言うと何事もないように授業を始めた。


これが何を意味するか。


そう、



「また、隣だね?」


そのは一言で有は天に召された。

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