隣の席のあの子は誰にでも優しい。
@MARONN1387924
第1話隣の隣の席の子は優しい
桜が少し散った頃。
花粉症には厳しい季節だが、箱ティッシュを常にカバンに入れ、薬を常備しているので無敵。
仲良かった友達とも離れ、何となくそこに座る。
ガヤガヤとうるさいのは廊下だけ。
一緒だとか、離れたねとか、中にはまた同じかよ、となんだか嫌そうに言うけれど、顔はニヤついてる。
そんな奴が数人いるくらい。
(案外変わったな)
なんというか、新鮮すぎる空気を吸って……
「席変わったの。よろしくね?ほら、咲ちゃん目、悪いからさ」
何となくというか、それが全ての始まりだったというか、よく分からないまま隣の席の子が変わった。
今日はクラス替えの日。
新学期初日、今日から新しいクラスになった。
俺は
そんな誰に向けてか分からない自己紹介をしつつ、出席番号は3番。
さ行なのに3番。
別にあ行からか行が過疎っている訳ではなく、自分が世界史を選択したから。
正確に言うなら世界史選択が少ないのだ。
それでも世界史を選んだ理由は単純。日本史に飽きた。それでもって好きなゲームに登場するキャラが、世界史を勉強した方が掘り下げて知れるからという理由。
要するに本当に好きな方を選んだだけ。
このクラスは世界史から出席番号を埋めていく方式のようで、その結果この後初めて前にならえで両手を横に広げたりすることになる。
まあ、そんなのはどうでも良くて。
そんな新クラスになって気になるのは隣の席というもの。
しばらくはその席で生活するのだから無理もない。
初めに座ったのは学年でも有数の美少女と言うやつで、とてもじゃないが気が気でなかった。
そんなラノベ主人公みたいな時間はつかの間、その子は目が悪いからという理由で1番前の席へと移動してしまった。
確かにメガネを授業中はかけているし、前から3番目で見にくいというのだから相当だろう。
そんな美少女と交代したのはどんな美少女なんだと、美少女に絞って期待していると、そこに座ったのは美少女、学年一とはいわないが、自分の隣に座るなんてもったいない子だった。そして誰にでも優しい。
学年でも有名。
可愛くて、誰にでも優しい。
そんな最高な女の子だ。
それはもう、心踊って最高の気分で隣を見ていると……
「席変わったの。よろしくね?ほら、咲ちゃん目、悪いからさ」
そんな風に話しかけてくるもんだから、咄嗟に自分から出た言葉は
「う、うん。そうなんだ。よろしく」
いや、頑張った方だ。
いきなり話しかけてくるなんて思わない。
自分では友達をそこそこ居て、陰キャというほどでもなく、陽キャでもない。
そんな中間層だと思っていたが、さすがにキョドった。
誰にでも優しい彼女は近くで見ると、色白で、髪がツヤツヤで、それでいてはにかんで笑う顔が可愛くて仕方ない。
俺は本当にラノベ主人公だったのかもしれない。
それか前世で世界を救っている。
そんな最高の優越感に一人浸る。
そして、現実を知る。
「あ、君もよろしくね?私、
彼女は気さくに後ろの男子に話しかけ、その男子も自分と同じような返答をしている。
そして目が覚める。
そう、彼女は誰にでも優しい。決して自分が特別ではないのだ。
ホームルームが終わって、早速新しいクラスに早速馴染んだ陽キャ勢。
見るからにボッチな隅っこ陰キャ。
そして、とりあえず前のクラスからの知り合いの周りにたかる中間層。
すなわち、有だった。
「なんだよ、あんなにいい席に座りやがって」
不満そうに言う、背が高く、イケメン、そしてバスケ部の
そんなイケメン君とは小学校からの付き合いで、なんだかんだ一緒に高校まで来てしまった腐れ縁。
そして何より、高校生活をひとりぼっちで過ごさなくて済んだ理由が彼の存在。
イケメン、バスケ部という事もあり、高校生活最初のから順調に友達を増やして、その友達と繋がって、さらにその友達という風に、芋づる式に友好関係を広めていくことが出来た。
そのおかげで、そこまで苦労せずにイケメンといるオマケ程度には有はクラスから認められていた。
そんな蓮と何とかクラスが一緒になったので、正直、友達でなにか不安に感じることはない。
「まあな。当たり席だよ」
「羨ましいなぁ」
そんな会話をしていると後ろから、ついさっき聞いた声がする。
「おお、それは嬉しいね。なんだか照れちゃうよ」
そう言って話しかけてきたのは例の美少女。
櫻葉凪咲だった。
「おおっ、びっくりした」
思わず有は声を出してしまう。
「私はハズレかー」
そう言って凪咲の後ろからひょこっと顔を出したのは変わる前の美少女。
「いえいえ、滅相もございませんよー」
蓮がここぞのばかりに、食い気味にかつ、顔が近めで話にグイグイ入ってくる。
「おお、顔、近いね」
苦笑い気味で美咲が答える。
「そうですね、で、連絡先交換しませんか?一緒のクラスってことで」
グイグイ蓮が行く。
「お、おい、ちょっとやめろ……」
さすがに蓮を止めようとしたその時……
「いいね!そうしようよ!」
凪咲が思いの他乗ってきた。
そしてそのまま美咲とも連絡を交換してしまった。
イケメンじゃなくて、恩人じゃなければ確実に殴っていた。
「で、しないの?えーっと、笹谷くん」
「えっ?俺?」
「君だよ。笹谷くん」
そう言われてテンパっている間に連絡先を交換してしまう。
「じゃあ、私もー」
そして美咲とも交換してしまった。
「えっー、と」
困惑している有に蓮はウィンクしてみせる。
どうやらここまで計画通りらしい。
ほんと、憎めないやつだ。
「よし、これで友達だね、よろしく」
「よろしくねー」
美咲と凪咲はニコッと笑いかける。
それだけで浄化されて、天に召されてしまいそうになるがぐっと現世に留まる。
「よろしくっ」
蓮も余裕の表情で返す。
「よ、よろしく」
なんだか状況がよく分からないまま事が進んでしまい、取り残された中、何とか有は答える。
(なんだよ、最高じゃんか)
それはもう、最高の気分だ。
あの美女2人と連絡先も交換してしまった。
正直言ってその時既に有は惚れていた。
美少女に話しかけてもらえて、それで連絡先すら教えてもらった。
これで気があるなんて勘違いをする気はなくても、正直好感度は高い方だと思わずに居られなかった。
可能性を感じていた。
けれども、やはり現実は甘くない。
そんな幻想をぶち壊さんとばかりに凪咲が言った。
「おっ、そうだ。みんなも交換しようよ!これから一緒のクラスだし、よろしくね!」
「私もよろしくー」
凪咲と美咲がクラスに声を一言かければ一瞬にしてクラスグループができて、連絡先の交換が始まった。
そして、凪咲と美咲は言う。
「みんな友達だね」
「よろしくー」
そう、みんな友達。
有が特別な訳じゃなくて、みんなと一緒。
こんなことで簡単に落ちてしまう自分は相当チョロい。
けど、もう、思わずにはいられない。
(可愛いすぎるだろ!!!!)
そんな1日も終わり、深夜。
動画を見て、そうして、携帯からもう寝る時間だと通知が届く。
それを見て、いつもなら、今日もまた一日を無駄にしてしまったと、そしてまた、一日始まるのかと少し悲しい想いを胸にベッドに着く。
けれども今日は違う。
よろしくね
その一通の通知が来ている。
きっとみんなにも送っているんだろうと思いながらも、嬉しくて仕方なかった。
なんだか、明日も頑張ろうと思えた。
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