第17話 ストーカー

 怪談話を書いていると飲み会に席で言った時に建築関係にユウタさんと言う男性から聞いた話です。


 建築関係で働いているユウタの部下に30歳前後の女性のトモさんと言う女性がいました。

 トモさんは事務職で仕事もしっかりと行い、会社で慕われる感じの姉御気質な女性でした。

 その日もいつもの様に重要な見積もりを他社に届けに行きました。

 渡し終わって、駐車場に戻ろうとした時に玄関で男性から声をかけられました。


「何か飲みませんか?」


 男性は自動販売機の前で嬉しそうな顔をしており、黄色くくすんだ前歯が印象に残ったそうです。


「大丈夫です」


 そう言うとトモさんは営業車に乗って、会社に戻りました。

 男性は玄関から出て、トモさんの乗った車をずっと見ていました。


 数日後に同じ取引会社に行くとトモさんと入れ違う様に声をかけてきた男性が事務室から出て行きました。

 書類を私終わると会社の玄関の自販機の前で男性が立っています。


「何か飲みませんか?」


 男性は前回と同じく声をかけてきました。


 「大丈夫です」


 トモさんは断り、急ぎ会社に戻りました。

 上司だったユウタはその取引会社に持って行く書類をトモさん以外の人で行う事にしました。



 数日後、トモさんは帰宅時に地下鉄に乗り、家の近くの駅でバスを待っていると声をかけられました。


「お弁当です。

 食べて下さい」


 そこにあの男性が半笑いの状態で立っていました。

 トモさんは恐怖で声が出なくて、タクシーに乗って部屋に帰りました。



 男性が近くの駅に立っていた事を聞かされたユウタは近くに住んでいる社員に家まで送らせて、様子を見る事にしたそうです。

 送っていた当日は変わりがなかったのですが、2日後に部屋のドアノブにコンビニの袋に入ったお弁当と飲み物が掛かっていました。

 それを見た送迎の男性は離れた場所にあるトモさんの実家に送り届けるとトモさんの部屋に戻り、コンビニの袋を回収しました。


 次の日に送迎をした男性がそのコンビニの袋を持って、ユウタに昨日の事を伝えたそうです。

 ユウタは社長に相談して、社長と一緒に取引会社へ行き、事務課の課長のタナベさんに事の経緯を伝えました。

 タナベさんから注意をして頂ける事でその場は終わり、社長からトモさんへ報告を行いました。



 次の日の朝早くにユウタさんの電話が鳴りました。


「トモの母親です。

 どう言う事なんですか?」


 ユウタは言っている事の意味が分からなかったが、電話口でトモさんのお母さんがイライラした口調で怒っていた。


「なんの事か分からないのですが…」


 心当たりがなく、トモさんのお母さんがトモさんの電話から連絡してきている事も気がかりだった。


「玄関にお弁当が置いてありました」


 驚きしかなかった。

 注意をお願いした当日か翌日にトモさんの実家まで男性は行って、お弁当を置いていた。

 これは早く対応しないと問題が大きくなると感じたユウタはトモさんの実家に行く事を決めました。


「今、すぐに行きます。

 場所を教えて下さい」



 営業車でトモさんの実家に向かう途中に色々と考えた。

 トモさんの実家を知っている人間は会社でも送迎をした男性以外にいないと思うから送迎時にあの男性は後を付けていた事しか考えれなかった。

 そう思うと怖かった。


 コンビニで買った飲み物を持って、トモさんの実家に行くと家の外にお弁当が入ったコンビニ袋が落ちていた。

 インターホンを鳴らすとお母さんが出てきて、リビングに通された。


「きゃー」

 

 トモさんはこっちを見て、身体を丸めながら恐怖に震えていた。

 トモさんのお母さんが走って来て、飲み物の入ったコンビニの袋を部屋の外へ投げた。


「すいません」


 コンビニの袋に反応した事に気付き、謝った。

 トモさんのお母さんはトモさんの横に座ると幼い子にする様にトモさんの背中をさすった。


「初めまして、ともの父親です。

 少し早く出勤して、トモを会社まで送ろうと思ったら、家のドワノブにお弁当が入ったコンビニの袋がかかっていた。

 俺が家を出た時になくて、トモが出て来た時にあったんだ」


 何を言っているのか分からなかった。

 先に父親が出た時にコンビニの袋は無くて、トモさんが出た時にコンビニの袋があったって事なのか?

 車は玄関横にあったから誰かがいたら気付くはずだし、お父さんが家を出てからそんなに時間は経っていないはず。


「助けてください」


 泣きながら、トモさんはいいました。


「どうしました」


 そう言うとトモさんは手を口元に当てながら目が倍くらい開いた。


「コンビニの袋の中にあの男性の顔があって、こっちを見て笑っていたんです。

 黄色くなった前歯だったからそうです」


 トモさんは錯乱をしているからこの場は時間が必要だと感じました。

 安心が出来るか分からないが、今で来る事をしようと思った。


「分かりました。

 今日の午前中にその男性の勤務している会社に行って話をしてきます」


 トモさんとお母さんが部屋に戻るとお父さんと話をして、家の近くに男性がいると何をするか分からないのでお父さんも家にいて頂ける事になりました。

 家の前にあるお弁当を回収するとそのまま会社に行き、朝礼後に社長と取引会社に行きました。

 取引会社に行くと社長室に通され、対応してくれていた課長のタネべさんの姿はなかった。


「課長のタナベから聞いています。

 ハヤシダくんの件ですよね。

 言いにくい事なんですが、ハヤシダくんが出勤をして来ないのでタナベに行かせたところ、家で自殺をしているのを見つけました。

 今は警察を呼んで、ご両親を待ってます」


 ストーカーの男性はハヤシダと言い、死んでいた。

 お弁当を置いて、家に戻って自殺をしたのだろうか?


「当社にもハヤシダにストーカーされた女子社員がいて、注意をしていたんです。

 昨日の話合いで理解をしていたと思っていました」


 取引先の社長は立ち上がり、深々と頭を下げた。

 それからは社長同士で話合いを行い、ストーカー本人が死んでしまったので被害届は出さない方向で話が進んだ。


 会社に着いて、社長を降ろすと車の中にトモさんの実家から持ってきたお弁当が入ったコンビニの袋がある事に気が付いた。

 コンビニの袋の中に見た事があるお弁当があり、賞味期限が2日前の13日になっていた。

 捨てたはずのお弁当にそっくりで処理をする為に会社の資材置き場で燃やしたそうです。


 トモさんは病院に通う様になり、会社を退職する事になりました。

 トモさんの実家で退職に必要な書類を渡した時にリビングのカレンダーの14日にだけ、赤い大きな丸をしてあったのを覚えています。

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