第16話 待っている②
入寮した次の日は土曜日だったが、出勤を希望した。
工場長と年配の男性が3人いて、2人は同じ寮で生活をしている説明を受けた。
午前中は工場長と缶やペットボトルの分別方法を習うと午後からは丸鋸で廃材の木材を一定の長さに切る作業を行った。
近くの集落から通っているキミオさんと一緒に行ったが親しみやすく、アットホームな感じで働きやすかった。
1月の中を過ぎた位に20歳代の男性のトモキが入ってきた。
トモキは元ヤンキーだと言っており、茶髪の両耳に複数のピアスを付けていた。
短気なのか仕事は雑だったが、言葉使いや態度はしっかりとしていた。
「テツさん、明日は土曜日ですけど仕事ですか?」
「あ、あ。
稼ぎに来ているから働くよ」
「そうなんですね」
トモキは笑いながら、右手を口元に当てた。
給料は末締めの翌月払いだから入社時はお金がない事も分かっていた。
「酒が無くなったのかい。
ビールならあるから少しならあげるよ」
トモキはガッツポーズをすると一緒に寮へ向かった。
食事を済ませて、トモキが来たのがニュース番組が始まっていたので10時を過ぎていたと思う。
「電話をしていたら、遅くなってしまいました」
トモキはジャージ姿で笑っていた。
ビールが2缶とポテトチップスが入った袋を渡すとトモキは袋の中を確認した。
息が止まった。
トモキの後ろに人が立っている。
さっきまではトモキしかいなく、目から額にかけて濃い紫色になっている髪の長い女性の顔が見えた。
何をするでもなく、ただ後ろに立っている。
その顔は人形の様に感情はなく、普通の人だった。
「テツさん、ありがとう」
トモキは気付いていなく、嬉しそうに帰って行った。
何か言いたいが声が出なかった。
扉を閉める時にトモキの部屋の方を見ると髪の長い女性が浴衣姿でトモキの部屋の入口に立っていた。
寝れずに何回も扉の覗き穴を確認したが自分の部屋の前に女性は立っていなかった。
次の日の休憩時間中に工場長へ昨日の事を話した。
そうすると工場長は頭を掻き始めた。
「どうしますか?
辞めますか?」
工場長は分かっていたみたいで、何回も同じ事を聞いている感じがした。
「どう言う事なんですか?」
「私もこの集落の出身じゃないから詳しい事は分からないのですが、買い物をした集落は売春宿が多かった場所で工場がある場所はそこで働けなくなった人や逃げた人を集めた場所と言ったらわかってもらえますよね。
その時、逃げない様に目を焼いたみたいです」
「見た事はありますか?」
工場長は頭を掻く事を止めて、嫌らしく笑った。
「最初は怖かったけど、なれました。
それよりトモキさんの部屋に行きましょう」
トモキの部屋に行くとトモキは寝ていた様で少し機嫌が悪かった。
工場長は夜間に外出した事を確認すると別の部屋にトモキを移した。
それから私は4月まで働きました。
夜は早く寝る様にした事と新しい人が来ても仕事以上に付き合いはしなくなりました。
トモキはあれからも普通に働いていました。
翌月の給料日の数日後までは…
トモキは友達のバイクに2人乗りをしていた時に転倒してしまい、身体が不自由になった事を朝礼で聞きました。
工場長からは個人的に眼も見えなくなった事を聞かされました。
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