第15話 待っている①
北海道は雪が降る。
冬期間が働けないので、北海道を離れて働く人も多くなかった。
先輩のテツさんもそうだった。
テツさんは季節雇用労働者で冬場はいつも寮付きの鉄製加工工場で働いていたが、その年は募集に漏れてしまったので違う仕事を探していました。
鉄製加工工場の給料が1.3倍で寮付きで3ヶ月以上であれば短期間もできる廃品回収業のバイトに連絡をしました。
連絡をするといつから来れるか聞かれ、簡単な説明を受けました。
その中で特徴だったのが、3ヶ月以上の勤務で飛行機代の半額を補助して頂ける事と近くにコンビニもないので仕事後に買い物の送迎が月曜日と木曜日にある事でした。
他の条件は前に行っていた工場と同じだったのでテツさんは応募をしました。
飛行機で空港に着くとお迎えが来ており、工場長と言う太めの体格のいい60歳代位の人とライトバンに乗りました。
「北海道からだって、雪は降っていた?」
優しい口調で問いかけてくる感じで安心感を持たせてくれる。
「はい。
ここは雪が降らないのですか?」
「降るけど、次の日まで残らないかな。
仕事は回収してきた廃品の分解と仕分けだけど、やった事はある?」
「ないです」
「最初は簡単なのからだね。
これから買い出しに行くスーパーに行くので、必要な物を買って下さいね。
あと、工場は山奥なので夜間の外出は禁止だから」
工場長の顔を見ていたが変わりがなく、違和感がない回答だった。
車は少し大きな街から山道に入り、小さな集落の聞いた事のないスーパーで車が止まりました。
工場長が降りたので、一緒にスーパーに入りました。
「あら、真司さん。
新しい人かい?」
50歳は超えているだろう白髪の店番の女性がタバコの並んだカウンターに座っていた。
「ああ。
いつものタバコを一つ」
お店の人はタバコを渡すと工場長はお店から出て行ってしまった。
食料品の数は少なかったけど、生活するのに困らない感じがした。
今日は金曜日だから、少し多めに食料品を会計に持っていった。
「洗濯用の洗剤とかはいらないのかい?
ビールの箱買いは注文制だから、言ってね」
レジを打ちながら、陽気で気の良さそうに話しかけてきた。
「ここら辺で飲める場所はありますか?」
レジを打っていた女性は半笑いの顔になり、商品を袋に入れる手を止めた。
「お年寄りばかりだからないよ。
夜になると真っ暗だし、危険な生き物も出るから」
「そうなんですね。
洗剤はいいので、ビールを1箱で取り置きして下さい」
そう言うと工場長が待っている車に乗り込んだ。
車はまだ山奥に10分かからない場所にフェンスで覆われた工場と2階建てで12部屋ある寮が見えた。
工場も寮も古びており、思った通りだった。
寮の部屋は1階でキッチン、トイレとバス、六畳の部屋があり、トイレとバスが共同でないから上等な方だった。
鍋や食器、布団、小さいテレビまで備え付けてあるので待遇は良かった。
荷物を部屋に入れると工場長が入ってきた。
「問題はなさそうかい?」
「あ、大丈夫です」
「入寮に関して、注意事項をいいます。
備品類を持ち出しや破損に関しては給料からの天引きになります。
洗濯は表の洗濯機を共有で使って下さい。
他にも人が生活しているので夜間の洗濯は禁止しています。
重要な事として、夜は出歩かないで下さい。
山の中なので危険な生き物がいるので仕方がないですよね」
スーパーの女性も行っていたが危険な生き物って、マムシが多いのかなって思った。
蛇の話は季節労働者の中ではよく聞く話だった。
「危険な生き物に会う事は多いですか?」
「山奥だから多いかな。
うちに工場でも今年は救急車で運ばれる事があった。
後、工場の2階に事務所があるから書類を取りに来てね」
着替えをすると工場の2階に行って、書類を取りに行くと事務の60歳は超えていると思う女性が対応してくれた。
契約期間が4月までの4ヶ月弱の勤務で希望すれば土曜日も日曜日も仕事が出来る事と秘密保持契約書の説明を受けた。
こんな山奥だから法律に違反している事があるのかなって思った。
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