第14話 バイト先
大学時代にバイトしていた時の話です。
先輩の紹介で授業が終わってから資料や伝票の打ち込みの仕事をしていました。
その会社は古ぼけたビルの3階にあり、同じ階に他の会社も入っていました。
一緒に働いている人や同じビルの人は普通で何も問題はありませんでした。
その日は急な呼び出しで18時から仕事となり、社長と一緒に仕事をしていました。
資料が打ち終わり、社長に資料を持って行きました。
資料を受け取ると時計を確認した社長は鞄に資料を詰め込み始めました。
「まずいな。
遅いから帰るよ」
そう言うと社長は自分を急かして、会社を出ようとします。
エレベーターを開けておいてくれと言われ、社長と一緒に乗り込むと普通通りに扉が閉まりました。
何事もない様に下に降りると2階で扉が開きました。
「早く閉めろ」
社長は大きな声で怒鳴る様に言うので、閉めるボタンを押し続けた。
社長は扉の方から目を背け、額が汗まみれになっているのが分かった。
ビルの横にある駐車場に着くと社長はランニング後の様な汗が流れていました。
「早く離れよう。
家まで送るから、車になりな」
社長が送ってくれる事は始めてだったし、まだ交通機関があったので遠慮をしようと思った。
しかし、社長の汗は噴き出たままで様子がおかしかったので送ってもらう事にしました。
5分くらい車で走った所にあるコンビニに車が止まると鞄から財布を出した社長がこっちを見てきました。
「お茶とコーヒーのどちらがいい?」
「お茶でお願いします」
社長は財布を持ったままコンビニに走っていった。
何か重要な事を言われると思っていたので拍子抜けした感じでした。
戻って来ると社長はコーヒーを飲むと話を始めた。
「怖い思いをさせて、ごめんな。
ちゃんと確認しておくんだった」
「何の事ですか?」
正直言って、何の事を言っているか分かりませんでした。
怖い思いって、2階でエレベーターの扉が開いた事を言っているのかと思った。
「会社に入っているビルの2階に会社が入っていない事は知っているよな。
会社を設立した当時はやくざ関係の会社と闇金融が入っていて、夜でも出入りが激しかったんだ。
家賃が安かった事と仕事に支障がなかったから普通に仕事をしていた。
2ヶ月位が経った時にビルから飛び降り自殺があって、その年は8件目だったみたいで警察が頻繁に来る様になった。
そうすると、2階にあった会社は別な場所に移転したみたいで人の出入りがなくなった。
2階に人がいなくなってから気付いたんだ。
エレベーターの2階の扉が時々自動に開く事に気付いたのは…」
社長はコーヒーを飲もうとしたが、飲み干している様で出てこなかった。
「エレベーターの点検が来た時も故障はなくて、問題が無かった。
そんな時に営業に和田くんって、男性がいてね。
彼は熱心で夜遅くまで働いていた。
そんな彼にも彼女が出来て、仕事量を減らす様に言っていたんだけど理由は分からずに自殺をしてしまった。
8件目の飛び降り自殺をした女性部屋で首を吊っていたんだ」
唾を揉み込む様に見え、視線は閉まっているコンビニの自動ドアを見ている様だった。
「女性の部屋に鍵がかかっていたのに鍵を開けて入ったらしく、自殺した時に鍵の様な物を拾っていないか聞かれた。
そんな話も聞いた事がなかったし、自殺が起きた時は和田くん以外は会社にいなかった。
突然、和田くんが言った言葉が気になってしょうがなかった。
“彼女ですか?
社長も知っているかも知れませんよ。
同じビルに勤めているので”
和田くんが言っていた彼女は自殺した女性じゃないかと思った。
確かめる方法はないけどね」
そう言うと社長はコンビニに走って、買い物に行った。
翌年の8月に事務所を移転し、それからも大学を卒業するまでそこで働きました。
そのビルでエレベーターの扉が自動的に開く事は時々ありましたけど、幽霊の様な物を見た事はありません。
ただ一つの真実として、和田さんが自殺している事は本当でした。
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