第9話 ブランコ
バイト先で社員だった30代男性の話です。
彼は高校を卒業してから公園の遊具を点検や修理を行う仕事をしていました。
雪解けの時期に遊具の破損がないか点検を行うのが毎年の仕事になっていました。
入社してから炭鉱があったある地域にブランコだけが残っている小さな公園がありました。
その公園のブランコは錆びていますが原型が残っていおり、周りは黄色と黒のロープが張られて入れない様になっていました。
「ブランコの点検ですね」
カメラを手に取ると先輩がカメラを押さえた。
点検して破損している物や劣化状態が酷い物は写真付きの報告書を提出する決まりになっていました。
「カメラは要らない。
荷台に積んでいるロープだけ持って、やり方を見て覚えるんだ」
先輩は荷台から黄色と黒のロープを手に持つとブランコに真っ直ぐ歩いた。
前に張られていたロープをカッターで切り、新しいロープに張り替えを1人で行っている。
「この手順は覚えておくんだ。
この公園は担当者と話が済んでいて、ロープの交換と去年の報告書の日付を変更して提出する事になっている」
「それでいいんですか?
事故があったら、問題になりますよ」
先輩の仕事はしっかりしていて、適当にする事はなかった。
だから、凄く不思議だった。
黙々とブランコを囲んでいたロープを交換していて、ブランコの点検を全くしない先輩の行動に…
「ここに子供が住んでいると思うか。
周辺で歩いている人がいたか」
先輩はこちらをチラッと見ると冗談で言っていない事がわかる様な顔をしていた。
「いませんでした」
ここは炭鉱に近い地域で買い物行くにしても移動手段は車しかないと思う位だった。
近辺の住宅は古びていて、車がほとんどなかった。
「まずは終わらせるぞ」
先輩は自分に言い聞かせる様に言った。
その時、ブランコが動く音がした。
「見るな。
早く終わらせて、トラックに戻るぞ」
先輩は急ぐ様にロープの交換をしている間もブランコが揺れている。
風も何もないのにブランコだけが揺れている。
交換が終わると先輩はブランコに背を向けて、トラックに歩いて行った。
先輩の後を追う様に歩いていると女の子に声がした。
「終わったの?」
公園の周りに大きな建物や人が隠れてられる場所はなかった。
女の子なんていなかった。
公園の入り口を出ようとした瞬間に左手を何かが触った感じがした。
「ノリ」
先輩が名前を呼んだ瞬間にハッと気付いて公園を出た。
そのままトラックに乗り込むと先輩は大きな息を吐いた。
視線をブランコに向けるとブランコが大きく揺れていた。
「理由は分からないが、地元の業者が公園の遊具の撤去をしていた時にブランコの解体を行うと機械が動かなくなった。
鉄を切る鋸で切ろうとした時に自分で自分の指を切り落としてからブランコの解体は中止になった。
その後に俺の先輩がブランコの解体を任された時も機械が動かなくなり、解体する事を止めたそうだ。
この公園のブランコはこのまま朽ち果てるのを待っている」
そう言うと、2人は揺れているブランコを見ていたそうです。
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