第6話 心霊スポット-後編-

 建物に入ると窓に木の板を貼っているせいなのか、外よりも暗く感じた。

 右手に受付の小窓があり、左側に真っ直ぐな廊下が続いている。

 奥に階段がみえ、階段の方へ歩いていると階段近くの扉が少し開いている。

 気になって、中を覗くと靴が見えた。

 靴は汚れていたが放置されてい様な感じはないから人がいると思った。

 部屋に入ると散らばった物の上にミノルと男友達の洋服が脱ぎ捨ててあり、ガラスの仕切りの奥にある浴槽の中でミノル達を見つけた。


「ミノル。

 ミノル、おい」


 大きな声で叫びながらミノル達に近づくと、完全に開いていない目をした状態で俺の方を見ている。

 無反応な顔を向けたままで動かない。

 何かしないといけないと思った時に手を叩く映像が頭の中に流れて、体が自然と動いた。


 “パッン”


 大きな音がして、ミノル達の目が開いた。

 そして、向かい同士になっている全裸姿の相手を見て笑った。


「なんで裸なん」


 ミノルが言うと2人とも大爆笑している。

 

「そんな場合じゃない。

 ここはホテルの部屋の中。

 服を着て早く出るぞ」


 顔面が蒼白すると言う言葉が本当だったと思うくらいにミノル達の顔が白くなった。

 浴槽内は滑って、身体中が浴槽内の汚れで黒くなりながら服を着替えた。

 ミノル達の顔は汗でびっしょりになっていて、靴を履くと走って建物の外へ出た。

 そのまま、車まで走ると女性達が泣きながら出てきた。

 

「クラ、ありがとう。

 帰ろう」


 ミノルの一言は重かった。

 4時を過ぎていて、太陽は出ていないが周りは明るくなっていた。

 明るくなっていた事で安全な気分がしているが、帰る気分でなかった。

 言っている事は間違っていないが知らない人の車が残っている。


「もう一度、建物の中に行ってくる。

 あの車で来た人達が気になる」


 最初から停まっていた車の方を見つめた。

 ミノル達は声を発しない。


「30分しても戻って来なかったら、クラクションを鳴らして他の人を呼んできてくれないか。

 このままだと大変な事になりそうだと思う」


 男友達に背中を叩かれると建物の方へ歩いて行った。



 建物の中は相変わらず、暗かった。

 左側の真っ直ぐな廊下を見ると自分達が出てきた部屋の扉が閉まっている。

 急いで出ていたから扉を閉めたか記憶にないが、扉は閉めていないと思った。

 ゆっくりと進み、部屋の前まで行くと扉は完全に閉まっていた。

 怖かった。

 指は痺れ、身体中から噴き出す汗の中で自分が女性を見た部屋に行くつもりだった。

 あの部屋を確認しないといけない気がしている。


 2階に上がり、手前の部屋のドアノブを回すと開かない。

 なぜ開かないのか不思議に思ったが、廃墟にする時に部屋に鍵をかける事は当たり前だと気が付いた。

 隣の部屋のドアノブを回した。

 ドアノブは回り、鍵が開く音がした。

 引っ張っていないのに扉が手間に開いた。


 甘くて柑橘系を感じる香水の匂い…


 中を覗くと全裸で首を吊っている人が見える。

 ベットの上にある照明の部分に紐をかけて、首を吊っている。


 声が出ない。

 体が動かない。


「一緒に居てくれるの?

 帰らないよね」


 後ろから女性の声がする。

 右腕に風船の様な無機質な物を押し付けられた感じがしている。


 助けて…


「私の物だから、貴女にはあげない」


 違う女性の声がした。

 体が軽くなった気がして、階段を駆け降りた。

 そのまま、外に出るとミノル達の車まで行った。


「誰か呼んで来てくれないか。

 人が死んでいた。」


 ミノルは頷くと車を出した。



 何分経ったのだろうか…

 雲少なめな空に太陽が強めに輝いている。

 最初に来たのは交番の警察官だった。


「お兄ちゃんが死体を見たのかい?

 お友達は交番にいてもらっているから」


 警察官はタバコに火を付けて一服を始めた。

 そして、建物の方をぼーっと眺めている。


「昔は人がいっぱい来ていたんだけど、自殺する人が出る様になってからは辞めてしまったんだよ。

 自殺のほとんどが2階の2番目の部屋だった。


 今日の事は忘れた方がいい」


 車が数台入って来て、地元の人が降りて来た。

 警察官と話をするとブルーシートを持った数人が建物の中に入って、他の人は山の中に入る格好を始めた。



 後日、警察から電話があった。

 建物から男性2人の自殺した遺体と森の中から女性が2名見つかった。

 事件性がないので捜査が終了する内容だった。


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