第5話 心霊スポット-前編-

 過去1番怖かった経験した話をします。


 大学時代の夏休みに彼女のいる男友達に女性を紹介したいと言われ、男性3人と女性3人でキャンプを行いました。

 夜の花火が終わり、女性を紹介してくれた男友達のミノルが肝試しをしようと言い出します。


「時間もあるし、肝試ししない。

 来る時に左側へ車が入れる草むらの中の道を覚えている?」


 ミノルが言っている道はトンネルを抜けて少ししたところに山道みたいな所があった事は覚えている。

 背丈より少し低い草が生えていて、車が定期的に通っているから車の幅で道ができている感じだった。

 山菜採りや川釣りをやる人が通っているのだろう位にしか思っていなかった。


「トンネルを越えて直ぐの道?」


「そう、その道。

 奥に潰れたラブホテルがあるんだよ。

 先輩も幽霊を見た事がある有名なホテルで不倫カップルが自殺したらしいよ」


 ミノルは自慢げに話をしている。


「私は違う話を聞いてる。

 ナンパされ、置いて行かれた女性が複数の男性にレイプされて、自殺したんだよ。

 だから、カップルで行くと幽霊が見えるんだって」


 ミノルの彼女のエミが楽しそうに話をして来た。

 その後はみんなで盛り上がり、心霊スポットに行く事になった。



 トンネルの横の道は車が通るちょうどいい幅で草が生えておらず、車を覆う様に左右に背の高い草が生えていた。

 そのまま車を進めていくと砂利石が轢かれた駐車場だったろう場所に出た。

 その場所には1台の車が止まっていて、正面に2階建ての窓が8から10個ある洋風な外見の建物があった。

 薄暗い中なのか朽ち果てている感じも色褪せている感じもしなかった。

 入口に張られていただろう木の板は入口の横に倒れた状態で放置されていた。


 ミノルが彼女と一緒に車から降りて来て、車の窓をノックした。


「さ、行こうぜ」


 車の窓を開けると夜の冷たい風が車に入って来た。

 建物を見ると2階の右から2番目の窓に女性がいるのが見えた。


「先客がいるから出てくるまで待たないか。

 トラブルになって、ケンカや襲われる事が怖いから」


 ミノルは仕方がないという顔で車に戻り、助手席に座っていた女性がうつむいている事に気が付いた。


「ミカさん、体調が悪いの?」


 助手席に座っている女性に聞いた。


「降りたくない。

 降りれない。」


 うつむいたままのミカが小さな声で呟く様に言うと手を握ってきた。

 後部座席に座っていた友達は気を効かして、ミノルの車に移動した。


 1時間以上経っているが建物から人が出てくる気配がない。


 ミノルの車から4人が降りて来て、車の窓を叩く。

 腕時計を指差しながらこちらに見せている。

 もう少しで3時半だった。


「もう朝になるから行ってくる。

 クラはどうする?」


 横にいる女性を少し見るとうつむいたままだった。

 握っている手は汗でベチャベチャだった。


「体調が悪いみたいだから、やめておく」


 4人は建物に入いる前に振り返って、手を振っている。

 4人が見えなくなって、5分くらい経った時に手を握っている女性の手が冷たくなった。


「私の事、嫌いですか?

 こんなに貴方の事が好きなのに」


 ミカが手を強く引っ張った。

 すると、そのままキスをして来た。

 数分だったのだろうか、ミカに突き飛ばされた。


「クラさん、何をするんですか」


 驚いた様な大きな声でミカは言う。

 それを言いたいのはこっちだった。

 俺からキスをした訳でもないのにと思っていた時に建物からエミと友達の女性がこっちに走って来た。

 エミ達の走り方に異常な緊張感があり、車から出て待った。


「ミノル達ががいなくなった」


 エミ達が嘘を言っている顔をしていなかった。

 汗だくに顔と走って来て少し乱れている服が真実味を増した。


「何があったか、落ち着いて話して」


 エミは何から話していいか分からない様子で友達の女性が話を始めた。


「建物に入って2階を歩いていたら、いきなりミノルさん達がいなくなって。

 怖がらせて来ていると思って、名前を読んでも返事がないんです。

 どんなに叫んでも返事がないんです」


 空が少し白み始めてきて、建物を見直すと窓全てに内側から木が張られている。

 着いた時の事を思い出した。


 2階に女性を見た…


 エミ達を車に乗せるとラジオでもかけた方が心が落ち着くと思い、エンジンをかけるが何度やってもかからない。

 それを見ていた女性達は泣き出し始めた。


「ドアの鍵を閉めておきますから、絶対に出ないで下さい。

 安全ですから」


 そんな感じの事を言ったと思う。

 自分も気が動転していて、何をしたのかもはっきりと思えてはいない。

 ただ、彼女達も心配だったが、ミノル達の方が心配だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る