第4話 塾の女の子
住職のタカノリさんから借りているお札を寝る前に見るようになって、1ヶ月以上が経った。
嫌な感じは変わりなかったが、お札から黒いカビの様な点がある時や黒色の綿状の紐がついている様に見える事があった。
それが見える様になってからは今までの世界が変わって見えた。
外を歩いている時に嫌な感じがする人が直ぐに分かり、顔や首、手などの見える部分に黒いカビの様な点がある事が多くなった。
タカシが言っていた幽霊なのかもしれないと思った。
そして、初めて人ではない者がいると分かった日の事を話します。
高校3年生の夏休みに家族の勧めで夏期講習へ行きました。
5年以上前からある塾で地元でも多くの生徒が通っており、大きな古くからあるビルのワンフロアで授業を行っておりました。
その階には教室が5部屋位あり、授業の度に部屋が変わりました。
自分は午前中の10時から12時の2時間を15日間位行うクラスだったと思います。
トイレの横の教室で授業を受けていると女の人の声が聞こえて来ました。
「違う。
違う」
教室は6割以上の席に生徒が座っており、周りを見渡しても誰も話している様子はありません。
耳を澄まして声を聞いていると“違う”と言っている声がします。
気のせいでない事は分かっていましたが気にしない様にする事にしました。
次の日の授業を受けると、女の人の声がしません。
数日間は全く声も聞こえてこなかったので、気のせいだと思っていました。
その日はトイレの横の教室で授業を受ける事になりました。
声の事があったので、嫌な気分でしたが気のせいだと思い込んで授業を受けました。
教室に入ると声がしないか集中して聞いていましたが、声は聞こえません。
授業が始まっても声は全く聞こえない。
“あの日が特別だったんだ”と、気が少し楽になりました。
「違う。
違う」
また、あの時に聞いた声がする。
時計を見ると11時半を少し過ぎていました。
「違う。
違う」
やはり、同じ声が“違う”と連呼している。
周りを見渡すと誰も話していないし、キョロキョロしている人もいない。
声の方向を一生懸命に探すと右前方で聞こえる気がする。
その方向をずっと見ているが何もなかった。
「違う。
違う」
声は同じ速度で何回も繰り返し聞こえます。
「違う。
私はできる子なの。
何かの間違いなの。
勉強をしないとお母さんが悲しむの」
違う声がした。
顔を上げて先程声がした方向を見ると右の壁側の1番前方に黒板を向いて立っている女の子がいる。
女の子が立っているのに先生は普通に授業を行なっているし、周りの生徒も彼女に気付いている感じはない。
恐怖感よりテレビや映画のワンシーンを見ている様な感じがした。
「いやぁ」
はっきりとした大きめの声で女の子の叫びが聞こえた。
その後に嗚咽なのか、獣の叫びの様な言葉になっていない声が聞こえた。
その瞬間周りの生徒が立ち上がり、居たはずの場所に女の子が居なくなっていました。
12時少し過ぎ、授業が終わっていました。
あれは幽霊だったのか、生霊だったのかは分かりません。
でも、席から動く事もできないで声も発する事が出来なかった事は今でも覚えています。
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