第6話 

 「……ね、聞いてる?」

 少女は夢うつつで、そんな声をきいた気がします。リンゴのパイを食べて、あたたかいお茶を飲んだら、ねむくてねむくてたまらなくなったのです。

 「起きて……時間がないのだから……」

 夢のなかの声は、たしかにそう言っていた気がします。

 「お医者さんに……って言って……」

 (何を?何を言うの?どうして?)

 少女は、なんとか返事をしようとしているのに、重く落ちてくるまぶたを止められませんでした。



 「起きなさい、起きなさい」

 強くゆすぶられて、少女は目を覚ましました。

 ぼんやり開けた目の前には、上からのぞきこんでいる大人が三人。めがねをかけた女の人、白い服を着た男の人と女の人がひとりずつ。

 「あの、ここは……?」

 「ここは病院。あなたは雪のなかにたおれていたので、ここに運びこまれたんですよ」

 メガネの女の人が答えながら、少女の目の前に手をかざしたりした。

 「あたし、帰らないと」

 少女は、頭がはっきりするととたんに、家のことを思い出した。今、何時なんだろう。どれくらい眠っていたんだろう。その部屋には窓がなくて、今が何時ごろなのかも少女にはわからなかった。

 (おかあさんに怒られる)

 「あの、帰らないと、ここどこですか、私、5時までに帰らないとおかあさんが、おかあさんが」

 寝かされていたベッドから、急いで片足を下ろした少女は、白い服を着た男の人に止められた。

 めがねの女の人が、回る椅子に深くこしかけて、少女をじっと見た。

 ―――きっと、この人がお医者さんなんだ、と少女は気づいた。じゃあ、白い服を着たふたりは看護師さん。

 「帰らないと、おかあさんはどうするの?」

 めがねの女の人は、やさしくしずかに少女にたずねた。

 

 

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