第7話 

 「おかあさんが……」

 少女は、はっと口をとじました。

 なにかとてもだいじなことをたずねられている気がしたのです。

 (言ったらいけないよ!)

 おかあさんのするどい声が、耳のおくでこだましています。

 それきり体をかたくして、だまりこくってしまった少女を、しばらく見つめていためがねのお医者さんは、ふと立ち上がりました。

 そして、

 「あなたがたおれていたとき、一緒にあったお菓子なんだけど」

と言って、かわいらしいリボンのついた袋にいっぱい詰まったクッキーを、少女に渡してくれました。

 少女は、とたんに思いだしたのです。夢うつつのなかで食べたリンゴのパイを。そして、女の人の「病院に行きなさい」という言葉を。

 クッキーを膝にだいて見つめる少女に、もう一度、お医者さんはきいた。

 「ほんとうのことを、教えてほしいの。5時にまにあわなかったら、おかあさんはあなたをどうするの?」

 少女は、お医者さんの目をみあげた。もう、怒られる、とは思わなかった。お医者さんの目にも声にも、あたたかいものがあふれているように思えた。

 少女がひざにおいた手の上に、お医者さんがそっと手を重ねる。あたたかくて、すこし硬い手だった。

 「あなたをたすけたい。あなたのうでの小さな火傷、これはだれがしたの?」

 少女はぐっと手をにぎりしめた。

 

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