第3話
どれくらい歩いたでしょうか。少女は、ふと、すぐそばに明かるい場所があることに気づきました。
目をこらすと、雪の幕の向こうにオレンジ色の灯りが浮かび上がっていました。
とたんに、少女は自分が、寒さに震え、お腹がとても空いていることに気づきました。そうなると、我慢できない気持ちになってしまい、思わず灯りの方へ駆け出してしまっていたのです。
灯りはぐんぐん近づいて、突然、目の前にあざやかに出現しました。
お店です。
オレンジ色の灯りがともって、ガラス窓の向こうにはストーブが赤々と燃えています。外から見えるだけでも、中の大きな広い木の机の上には、ガラスケースに入ったパンやお菓子が、ぎっしりと並んでいます。
少女の喉は、知らず知らずに、ごくり、と鳴りました。その瞬間、寒さも空腹も忘れて、幸福な気持ちでいっぱいになりました。
少女は扉の取っ手に手をかけていました。その扉を押そうとした瞬間、
(まったくこの子は!いじきたない!子どものくせに、どろぼう猫め)
母親にいつも言われる声が、少女の頭のなかに響きました。はっ、として少女は扉に掛けた手をはなしました。
(わたしはきたない)
少女は自分のあかぎれで荒れた手を、さっとひっこめました。見えないところにかくすように、自分の後ろへ回しました。お店のなかはあまりにも美しく輝いていて、自分はそこへ入っていくことはできないのだ、と少女は思い知ったのです。
少女は、後ろへ一歩下がりました。温かいオレンジ色の灯りがもれる窓から目をはなせませんでした。また一歩、また一歩、少女は後ずさりしました。
そして、灯りがぼんやりと雪にかすむところまで下がると、少女はきびすを返して走り出そうとしました。もうあのオレンジ色の灯りに惹かれる心を、断ち切るように。
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