Recollection-20 「愚集」
イグナとマリーアンナは川辺に座って話していた。
話が終わる頃には薄暮時となり、月明かりと星明かりが挨拶をしに来た。
「しまった!水浴びは明日朝にするかぁ!おっ、偶然にもランタン2つ持って来てたぜぇ。ほらよ、使えよ。」
イグナはマリーアンナに火を灯したランタンを渡した。
「、、もしかしてイグナ君、わざわざ私を訪ねてくれたんですか?」
「え⁉︎ ぐ、偶然だよグーゼン! んな訳ねぇだろう。」
イェットの幼馴染で、ノーアの親友。マリーアンナ・トト。
彼にとってもマリーアンナは「家族の様な親友」の1人だった。
イグナは図星を突かれ照れて顔が赤くなるのが自分でわかったが、ランタンの灯りがそれを内緒にしてくれた。
「まあ、マリー、アレだ!お前もシンも『嫉妬』してんだよ。、、、俺もな。」
「、、、イグナ君の言う通りです。」
マリーアンナも本当は気付いていた。
シーヤに心惹かれていくイェット。
私の方がイェット君とずっと長くいた。
だから判る。
私の方がイェット君の事をたくさん知ってる。
だから解る。
私の方がイェット君の事、、、
大好きでいる。
でも、シーヤちゃんが現れて、イェット君が取られちゃうみたいで、、。
王女様に、12歳の歳下の女の子に、こんな感情を持つのが恥ずかしかった。
心の奥底に閉じ込めておきたかった。
ずっと我慢していた感情が、空五倍子色の瞳から流れ出した。
「うわあぁぁぁぁぁん、、!」
イグナより少しだけ背の低い女の子は、初めて感情に任せて泣いた。
心を解放させた。
可愛い顔をくしゃくしゃにして、目を閉じて上を向き、堰き止めていた感情を曝け出した。
イグナは何も言わなかった。
(泣きたいだけ泣かせてやろう。今はコイツの側にいてやろう。コイツなりに耐えてたんだ、、、イェットの野朗、こんな可愛い子ぉ泣かせやがって!、、王女様まで、、泣かせんじゃねぇぞ!)
イグナもまた、親友であるイェットが、王女様を護るために1人で強くなり、1人立ちして、俺を1人ぼっちにするんじゃないだろうか?
そんな事を彼なりに苦悩し、嫉妬していたのだ。ひた隠しにし、明るく振る舞い、気付かれない様に、、、。
「王女様すげぇよなぁ、、。俺達に、こんなに『じぇらすぃー』感じさせてよ!」
「、、うん、、、うん。」
マリーアンナは両手で溢れ出る涙を拭いながら頷く。
「お! 今日、城下町で『はんけち』っつーの売ってたからよ、ほらよ、これ使えよ。ノーアの分も買っちまったよ、、。」
イグナはクマ?の様な動物が描かれた「はんけち」をマリーアンナに渡した。
「、、イグナ君、、。」
「や、綺麗だよそれ!買ったばっかだしさ、大丈夫!目ぇ拭いても死なんぜ、、、多分。」
「多分って、、、少し死ぬかもしれないじゃないですかぁ!」
マリーアンナは泣きながらも笑った。
「、、死ぬかなぁ?」
「死にませんよぅ!」
マリーアンナはその「はんけち」を遠慮なく使った。
2人の「親友」は月明かりと星明かりに包まれていた。
同日、シニスタラム国は徐々に殺気立ち、兵士達の士気も最高潮に達しようとしていた。
アギ王が城内に主要戦闘員を集め、彼等を鼓舞していた。
「お前達! 光栄に思え! 我が部隊となれた事により、お前達は我が王国を栄えさせ、世界征服という偉業を成し遂げた英雄の部下となれるのだ!」
うおぉぉぉぉ!!!!
うおぉぉぉぉ!!!!!
有象無象の連中が、己の事しか考えていない、深意など全くない言葉に踊らされている。
だが一部の人間は気付いていた。
アギ王の傍若無人振りに飽き飽きし疲弊していた。
その1人、恰幅の良い、白髪混じりの口髭を蓄えた中年男、エリーナ・ゴメス。
そしてもう1人、長く美しい金髪を首元で結い、灰色の瞳をした美男子。
ヤクト・シュナイド。
「ゴメス、また阿呆が烏合の衆を利用して自尊心を満たそうとしているね。」
ヤクトはエリーナに耳打ちする。
「馬鹿と阿呆は使い様だからな。踊らされているのに気付かず、自分では何も始められない輩供が他人の糞の様な夢にすがり、何かを成し遂げた気分に浸りたいのだ。ある意味、アギの老害は『演説家』としては食いっぱぐれんぞ?」
自国の王にとんだ言い草をする中年男。
「クフフ、言い得て妙だね。あなたが早くあの首、
「ヤクト、先ずは俺とお前で『エトナの秘宝』を手にし覇権を掴むぞ。あの老害はその後に
クフフ、と、ヤクトは嫌な笑い方をした。
「あなたは悪い人だ。この世界では悪い者程上に行く気がするね。」
2人は老害を蔑んだ目で見ていた。
「その日」まで、あと9日。
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