Recollection-17 「継承」

シーヤが突然学び舎に現れたと思ったら、シンが絡んできて一悶着、、、。


そして今度は先生隊長に呼び出し。


(「まといかすみ」、、そして「ときそぎ」って何だろう?)


そんな事を考えながら先生隊長とフォエナの後ろをついて行くと、小高い山頂にあるコルメウム城の城壁まで来ていた。


(こんなに近くで見るのは初めてかもしれない、、。ここに住んでるのかな、先生隊長も、シーヤも。)


その城の外見には、装飾や彫り物などは殆ど見受けられない。いわゆる一般的なそれとは違っていた。


ただ、城門に描かれているものは目を引く。


太陽と思われる絵と、球体を持つ女性。その足元にも球体がある。


もしかしたら、シーヤのお母さん、イリヤ様を偲んで描かれたのかも知れない。


「着いたよイェット。ここが私の稽古場だよ。」


コルメウム城の西側にある、城と同じ素材で建てられた空間。一部の護衛隊しか入れない場所らしい。「らしい」というのは、僕も本当にある事を今日初めて知ったからだ。


鍵のついたドアを開けて3人とも中に入ると、フォエナはガチャリと内側から鍵をかけた。


ここにいる3人は皆、翡翠色の髪をしていた。


イェットは少しだけ怖くなってきた、、。多少の光は入るものの、中は薄暗い。するとアトレイタスは、壁に何本もある蝋燭に火を灯し始めた。


「怖がらなくていいよイェット、君に何かしようって訳じゃない。」


にこりと微笑みながら蝋燭に火を灯し続ける。しかし次の瞬間には蝋燭の灯火に照らされたアトレイタスの表情は険しくなっていた。


「約14年前、私達は『エトナの民』として選ばれた。あの日を境に、私達の運命は定められたんだ。」


普段は優しい話し方をするアトレイタスも、今日は少し雰囲気が違う。


彼は続ける。


「私達の髪と瞳が変化した『クワイレーレ』から我々はエトナの民として、何としてもやり遂げなくてはいけない不文律がある。残された時間がまだ在る内に『約束の時』への『覚悟』をしなければいけない。」


「?」


イェットには余りに唐突で理解し難い内容だ。


「せ、先生隊長、すみません、僕には何がなんだか、、。」


隻眼のエトナの民が残る右眼でイェットを見ながら口を開く。


「、、、お前は強くならなくてはならない。それがお前にとって『残酷な現実』でもな。」


唯でさえ低いフォエナの声が、この場所では重く響く。


「イェット、エトナの民として、君は何があろうとも王女様を護りきる『覚悟』はあるかい?」


アトレイタスはいつにも増して真面目な、、否、先生隊長はいつも真面目だ。


ただ、今日は何かが違う、、。


何故、そんなに悲しそうな顔でそんな質問を、、⁉︎


イェットの心には、決めていた事がある。


『決意』だ。


シーヤを護りたい。誰よりも強く、そう願ってきた。




「、、、あります。 僕は強くなって、彼女を護りたい、、!」


アトレイタスは険しい表情のまま、全ての蝋燭に火を灯し終えた。


「解りました。イェット、君の覚悟を『技』として体得してもらいましょう。」


彼はそう言うと、奥の壁に掛けてあった模造刀を取り、イェットに渡した。それは、今まで見習い達が使っていたあの模造刀とは全く形状が違った。一見、日本刀の様な見た目だが、通常のそれより太い。更に、鋒きっさきから鑢目やすりめまでの棟むね(峰みね)が途中から倍の太さになっている。丁度倍の太さになり始めの棟むねには楕円の穴が空いており、手が添えられる形状をしている。


アトレイタスが口を開く。


「『刻削ときそき』と、その応用がこれから教えていく幾つかの技の要になる。先ずは『刻削』を如何に連続して行えるかです。フォエナ、先ずは基礎を見せてあげてくれるかい?」


フォエナは頷くと、その場で軽く跳ね、着地と同時に、、。





ドヴァッ!


砂煙を上げ着地点よりも1.5m程前方に移動した。それはまるで、、


「フォ、フォエナさんが瞬間移動した⁉︎」


「、、、これが『刻削』、、各技術の要となる基礎だ。、、、お前より速さはないがな。」


あの時、フォエナさんにやれと言われてやったあれが、、!


「今のは基礎で今から私が見せるのが、君にその覚悟をもって体得してもらう『纏霞まといかすみ』です。』


そう言うと、アトレイタスはその場でふわりと軽く跳ねた。いや、浮いた様に見えた。


そして彼が音も無く地に舞い降りた瞬間、




ヴォオオオンッッ!!


それは時間にして1〜2秒だが、アトレイタスの身体が、特に足元が『透けた』。そして、まるで『3人に分身した』様に見えた。



ゾクリ。


「す、凄い、、!」


イェットは言い知れぬ興奮を覚えた。


勘の良い方ならもうお分かりだろうが、『纏霞まといかすみ』とは、つまり「スプリットステップの連続動作」である。


この技は相手に的を絞らせず「死」の確率を下げ、且つ一瞬の幻惑で隙を突く為の、いわゆる防御技だ。


霞を身に纏った様な見た目から、その名がついた「死」の確率を下げる為の技法である。勿論、実際に透ける訳でも、消える訳でもないので万能という代物ではない。


アトレイタスの天賦の才を持ってして、持続5秒が限界の技術。


何故なら「脚」に負担が掛かり過ぎる。


「イェット、先ずはこの技を2秒使える様になりましょう。基礎が出来ているなら、後は応用と反復です。やれますか?」


アトレイタスは普段通りの優しい顔でイェットに聞いた。


「やります、、!」


イェットは強くなりたい一心だった。


しかし彼はまだ気付いていなかった。『決意』と『覚悟』は全くの別物だという事に。


直ぐにその場で纏霞まといかすみの練習に取り組む彼を見ながら、アトレイタスは呟いていた。




「赦せ、、、。」



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