Recollection-15 「焦慮」
「えぇ、、と、3個が5人だから、、と。ひい、ひう、みい、よう、、、15で合ってますか、な?」
虎の様な生物が彫られている兜を身につけたサイが自分の手と足の指を使い、何とか答えを導き出す。
「そう!当たりー!ね?面白いでしょ『数学』って。」
王女様が嬉々と楽しさのお裾分けをしている。
「しかしシーヤ様、『1人3個ずつ芋を食べる場合、5人だといくつ芋がいりますか?』とありますが、こう、芋ばかり食べては身体に良くないのでは?」
鷹の様な生物が彫られている兜を身につけたゴウが素直な愚問をする。
「いやあの、そこは問題じゃないから!」
「そうなると、羊か牛の乳と、塩も欲しいのう。」
蛇と亀の様な生物が彫られた兜を身につけたゼンが純粋な己の欲望をぬかす。
「あのね、これは『数学』って言って、文の内容は、、、」
「我々ならばそれぞれ芋10個程いるんだな。4人いるから、それはもう沢山芋がいるな。」
龍の様な生物が彫られた兜を身につけたユウが追い討ちをかける。
「、、、アトレイタス、彼等に仕置きを。」
ゾクリ。
四神がまずい、と思った時にはアトレイタスはにこやかにその場にいた。
「、、君達、今日は久しぶりに私と『尻羊毛棒』を賭けて勝負でもしましょう。1人が100発として、4人だから、、計算できるね?私の腕がもつか心配ですねぇ。」
「あ、ぃや、隊長、本日は訓練は休みの筈、、では?」
ゴウが恐る恐る伺う。
「やりますよ。絶対に。避ければ大丈夫ですからね。」
アトレイタスはにこやかに言っているが、四神は戦々恐々としている。
4人は彼に戦いているのだ。
それだけ彼は強いと言う事。この「コルメウムの伝説」でさえも一目置く彼の実力、、。
シーヤは笑いながらイェット達がいる方へ移動した。
「久しぶり、だね!」
彼女は満面の笑みだ。
「久しぶりぃ!この2ヶ月で大人っぽくなったなぁ!ノーアも見習えよ⁉︎」
イグナはノーアに対しては少々気を遣わない節がある。彼の中では家族の様な存在だからだ。
「もう、王女様の前でそーいう事言うのやめろ!、、恥ずかしいだろ馬鹿やろ、、。」
癖っ毛を後ろで結い、
彼女は口は悪いが、どちらかと言うと美人だ。マリーアンナの陰に隠れてはいるが、城下町では人気である。ただ、本人はまだそれに気付いていない。
「イグナも大きくなったねぇ!見習いで頑張ってるの聞いてるよ。」
「おう!俺もイェットも強くなって、王女様を護るぜぇ⁉︎」
相変わらずイグナはイグナだ。
「ありがとうイグナ、期待してるよ!、、それから、、ノーアちゃん、初めまして!これからも宜しくね!」
(はあぁぁぁ、、、!お、王女様が、こ、こンな私に話しかけて、、な、名前まで、名前まで覚えてくれてぇ、、!)
「はいぃ!ノーア・クリストファーだよ!おぉ王女様より背は低いですが、宜しゅうたのンます!」
ノーアは気が動転して何を言っているのか本人も分かっていない様子だ。
シーヤは次にマリーアンナを見た。
すると、いきなり駆け寄り抱きついた。
「ちょっ!シーヤちゃ、王女様⁉︎ どうしたんですか⁉︎」
長く艶のある黒髪に垂れ目で
「母さんの香り、、やっぱする。マリー大好き!」
マリーアンナは正直困っていた。
自分の気持ちが良く分からない、、。
でも、シーヤちゃんはいい子です、、。
胸に顔を埋めるシーヤの頭と背中に手を回し、マリーアンナは言う。
「私も、、大好きですよ!」
マリーアンナは、自分に言い聞かせる様に伝えた。
(くぅぅっ! わ、私にもあの胸があれば王女様は抱きついてくれるのか? マリーめ!羨ましいぞテメェ⁉︎)
ノーアは妄想癖がある様だ。
「マリーありがと、またぎゅって、させてね。」
シーヤはマリーアンナの胸から離れると、少し寂しそうな顔で言う。
「はい、いつでも。」
マリーアンナは笑顔で取り繕った。
「、、イェット、少し痩せた?ご飯ちゃんと食べてる?」
シーヤの言葉は自然な様で不自然だった。
不自然というより、「そぐわない」が正しい。
周りはそれに気付いていなかった。3人を除いて。
アトレイタスと、
マリーアンナと、
外を見ている少年。
王女様が、1人の事を「心配」した。字の如く、イェットに心を配ったのだ。
「毎朝走っててさ、でも大丈夫!体力ついたし、少しずつだけど強くなれてる気がするよ。心配してくれてありがとう、シーヤ。」
「ううん、今日は驚かせてごめんね、、。先に来る事、言えたらよかったけど、、。」
「いやいやシーヤ、謝るなよ、友達だろぉ⁉︎ 偉そうに言える立場じゃねぇヒヨッコだけどよ?」
「、、ありがとう!、、私、友達っていなかったから、、。」
彼等のやりとりを見ながら先生隊長は微笑んでいた。
(長年シーヤ様の世話役を任せられてきたが、ここ最近の彼女には笑顔が増えた。それも、あの子達のお陰だ。私には務まらなかった事を、あの子達はしてくれている、、。)
そして、自分が如何に「残酷」なのかも同時に理解しなければならなかった。
シーヤが教室の他の子供達にも挨拶に行こうとした矢先、それは起きた。
ずっと外を見ていた少年が立ち上がり、イェット達に近付いてきた。
「イェット、それにイグナ、お前達、王女様に馴れ馴れしくし過ぎじゃないカ?」
「⁉︎」
イェットとイグナは正直驚いた。
昔から教室に居合わせた事はあったが、話した事もない。いや、声を聞いたのも初めてかもしれない。
しかし彼はイェットと同じ位目立つ風貌をしていたから誰かはすぐわかる。
金髪に、み空色の瞳をした、この国では珍しい見た目。
隣国のシニスタラム国生まれの少年。
「、、シン。どういう意味?」
イェットは冷静に伺った。
異国の少年、シン・テナは少々苛立っていた。
同時刻、隣国シニスタラム国では、諜報活動に出向いたヤクト達を待つ者達がいた。
国王のアギ・サンテは広い自室でウロウロと暇を持て余している。
「おい! エリーナ!エリーナはおるか⁉︎」
アギ王はしゃがれた声で誰かを呼んでいる。
「お待たせしました王様!今、飛んでまいりました。」
金の鎧に身を包んだ恰幅の良い、白髪まじりの口髭を蓄えた青い瞳の中年兵がやってきた。
「エリーナよ、ヤクト達はまだか? 早く『エトナの秘宝』を手にし、我が希望を叶えよ!」
「分かっておりますアギ王。間も無くヤクト達も戻って来ましょう。彼等が帰り次第、『エトナの秘宝』を手に入れに行きましょう。」
「早くするのだ!エリーナ、儂は、、儂はもう待ちくたびれたぞ⁉︎」
「はっ!承知しております、暫し、暫しお待ちを、、。」
中年男は部屋を出ると軽い舌打ちをした。
(あの馬鹿が、、早く逝けば良いものを、、『エトナの秘宝』は貴様には渡さぬ。俺が、俺が世界の王となるのだ!)
シニスタラム国の軍隊隊長、エリーナ・ゴメスは苛立っていた。
(老害めが、俺をエリーナと呼ぶな!人が気にしている事を馬鹿の一つ覚えの様に連呼しおって、、!)
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