Recollection-14 「不穏」

(おいアレ、王女様だよな?)


(俺初めて見たよ!会えるといい事あるらしいね?)


(何しに来たのよ、私達を馬鹿にしに来たの?)


(綺麗な髪の色、、。)


(大きい人達だなぁ。絶対強いよアレ。)


(可愛いよな!話してみたいな。)


様々な呟きが聞こえてくる。


同教室内にいた、イェットとイグナ、マリーアンナやノーアは勿論、仲の良い男子のワッキとヤクー、女子のエーキスとトーラもざわついている。


唯一1人だけが冷めた態度で外を見ている。




他の教室の者達も顔を覗かせている。それくらい稀であり、幸運なのだ。


ざわめくのも無理はない、この国の王女が突然やって来た。しかも何故かこの教室に、だ。


勿論幾つか理由があった。アトレイタスが教室にいる事もだが、シーヤの強い希望もあった。


12歳の王女様の可愛らしい我儘を聞いてあげたのだ。




あと幾つ叶えてあげられるか分からない我儘を。




極少数ではあるが、国王や、それに従事している者達を妬みや嫉みから毛嫌いする者もいる。自分に何もない者程、努力している者を否定して、自分が努力しない、成長しない事を正当化する。


人間とはそういう生き物だ。



イェットにイグナ、マリーアンナにノーアも当然驚きを隠せなかった。


単純に「何故ここに?」が1番に頭に浮かんだ。


次に浮かんだのは


ある者の頭には「欣喜きんき」、


またある者には「好意」、


またある者には「不安」、


そしてある者には「憧憬しょうけい」。


若いなりに、彼等なりの想いがそこにはあった。


「今日はコルメウム城の王女、シーヤ・ワイトキング・エトナ様が一緒に見聞を深めたいとの事なので皆仲良くする様にね。」


翡翠色の長髪、山吹色の瞳をしたアトレイタスが和かに紹介する。


イグナがいつも通り声をかけようとした矢先、王女様が話し始めた。


「本日は皆様の勉学の邪魔をしてしまい申し訳ありません。ですが何卒、私も1人の人間として、皆様と同じ場所で見聞を深めたいのです。どうぞ宜しくお願いします。」


と、深々と頭を下げたのだ。


一国の王女様が、だ。


イェットとイグナ、マリーアンナは会ったことがあるので、こんな面もあるんだな、といった感じだったが、他の者達は違った。


王女とは、もっと傲慢で、高飛車で、民を見下して当たり前といった先入観が多少あった。


にも関わらず、こんな僕等、俺達、私どもに頭を下げられる度量。器の大きさ。


「誇りを持てる国、その国の民」


王女様のその振る舞いは、彼等にそう自覚させた。


その場にいた外を見ている1人の少年を除いて。




(か、可愛い、、透明感のあるお肌、あの艶のある鏡の様な銀が映える黒髪、まるでお日様みたいな目、、。だ、抱きしめたい!)


、、こう思っていたのは何を隠そう癖っ毛を後ろで結った、一際背の低い榛摺はりずり色の瞳のノーア・クリストファーだった。


彼女にそっちの気がある訳ではない。女性特有の、可愛いもの好きだ。


ノーアにはない、真っ直ぐな髪、綺麗な瞳、透き通る様な白い肌、独特な雰囲気のその佇まい、。


只々、強く憧れた。王女様の様になって、に振り向いて欲しい、、。


普段男勝りで口汚い彼女の心の中は、こんなにも乙女で純心だった。


(いつ見ても美しいよなぁ、身分が違うのは分かってる。アイツの気持ちも、、。いつか当たって砕けたいぜぇ、、。)


イグナも、憧れにも似た淡い気持ちを王女様に対し抱いていた。しかし彼は誰よりも友人思いだ。


(イェット君、王女様、、ううん、シーヤちゃんの事、、。私は、、私の方がイェット君の事、、。)


マリーアンナは誰よりも長くイェットと一緒にいた。誰よりも彼を理解していると自負していた。でも彼女は霧のかかった様な今の気持ちに複雑な感情を抱いていた。





王女様は皆が見惚れている中、頭をあげてチラリとイェットを見た。



ドクンッ


シーヤの口元が動いた。


(なーんて!)  


にこりとするシーヤ。


(君らしいよ、シーヤ。)


イェットの顔にも自然に笑顔が咲いた。




アトレイタスが付け加える。


「大男が4人いるね。彼等は『コルメウムの四神』と言われる、この国の生ける伝説だよ。怖そうに見えるけれど、大丈夫。皆優しい人達だから安心していいからね。」


そう紹介されると、全身を鎧で覆われ、蛇と亀の様な生物が彫られている兜を身につけたゼンが王女様に一礼し、次にアトレイタスに一礼し、口を開いた。


「ひょ、元い、ゴホン! 今日はぁ、えー、皆様と一緒に、学べる事をぅー、嬉しく?存じーあげます!」


皆キョトンとしていた。


あんなに、如何にも強そうな武人が、少年少女を前に緊張して言葉を詰まらせている。


「はははは!意外に照れ屋なんですね!いや意外だぁははは!」


イグナのこの一言で、どっと皆が笑った。


緊張の糸が切れ、空気が変わった。


イグナは知らずにそう言ったのかもしれない。彼の「場を和ます」能力は凄い。


アトレイタスも笑っていた。



イェットとシーヤは約2ヶ月振りの再会だった。でも、忘れた日、思い出さない日はなかった。


誰かを護りたいと、こんなにも強く思った事などない。彼女が王女様で、僕がエトナの民だからって、そんなものは関係ない。


自分でも不思議なくらい、何故なのか、いつからか分からないけど、


シーヤがどうしようも無い程、胸の中にいた。


14歳という、まだ世界の真実を知らない彼の心に生まれた感情、、。





、、、ほぼそれと同時刻、隣国のシニスタラム国とコーポリス国の国境、関所を外れた場所に3人の男達がいた。


周りに誰もいない事を確認し、しゃがみ込み休憩している様だ。


フード付きのマントに身を包んだ、、、。


「日の入り前に例の男に会い情報を得た。10月19日は城下町で祭があるらしい。護衛団の連中も準備に参加するみたいだ。」


青い目をした男が情報を得た様だ。


「祭か、、祭当日は護衛団の見張も厳しくなる筈だ。攻めるなら祭の準備真っ只中の前日だな。人手も分散し、見張りにも穴が空く筈だ。」


もう1人の青い目をした男が、その情報を元に実行を決める。


2人の話を聞いていた灰色の瞳の男が言葉を吐く。


「正面からでは勝ち目はないよ。戦力を分散させ、相手の準備が整う前に奇襲をかける。ゴメスに許可を得れば、後は『その日』を待つだけだね。」


灰色の瞳の男はフードを取った。


金髪の長い髪を首元で結った、美しい顔立ちの男。


「あの時こちらの気配に気付いたコルメウムの四神、、噂通りかなりの強敵だね。彼等とは決して対一で戦わない様に。彼等を排除しなければ『エトナノヒホウ』は永遠に我々は目にする事は出来ない。」


「はい。ヤクト様」  


ヤクトと呼ばれた男の口角は上がり、その双眸には何かしらの魂胆が垣間見られる。


(、、、これは始まりに過ぎない。私は私の中のモノを満足させられればそれでいい、、クフフフ、、。)





彼等の言う『その日』まで、後20日。


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