Recollection-13 「裏側」
ドスゥ!
「ア゛ォッ!」
ドスゥ!!
「ア゛ア゛ォッ!!」
ドスゥ!!!
「ア゛ア゛ア゛ォッ!!!」
ズウゥゥゥン!
イグナは計3回、剥き出しの尻を羊毛棒で殴られた後、悶絶しながら「お嫁に行けないッ!」と、よく分からない事をほざいていた。
「、、、次、お前だ。」
翡翠色の髪、飴色の瞳の隻眼、無表情な男は無情にドルチスを指差す。
「、、出せ。」
「フゥー、流石に出すしかありませんね。」
長く黒い前髪をサラッとかきあげた後、栗皮色の瞳の彼は羊の皮を鞣して作ったショートパンツと下着をオラァ!と力強く下にずらす。
「来いやァァァッッ!」
フォエナに対して何故か強気のドルチス・モルテンは両手を壁に付き、その赤ん坊の頬の様な臀部を突き出した。
「、、いい度胸だ。」
フォエナは羊毛棒を握る手にペッと唾を吹き、しっかりと握り込みを確認。
羊毛棒の持ち手の下部を握り、肩幅に足を広げて構えた。
「どうしました?流石に気が引けますか?綺麗でしょ俺の尻。割れてるん
ドパアアァンッッ!
「ダゼッッッ!」
ズウゥン!
よく分からない奇声を上げてドルチスは崩れ落ちた。赤い横線が入った尻を突き上げ、うつ伏せの状態だ。
「、、立て。もう1発ある。」
「ハァッ、 ハァッ、、や、やれるモンならやれよ、え?ポエナさんよ、流石に
ドパアアァンッッ!!
「ロナウジーニョッッ!!」
ズウゥン!!
起き上がる前のドルチスの尻に問答無用で羊毛棒を振り抜いた。ロナウ、、何だよそれ。
ドルチスは目を見開き真顔で口から魂が飛び出ていた。(様に見えただけ)
それらを見ていた僕とプロディテオさんは大笑いしていた。
オスクロさんは腕で顔を隠し震えている。絶対に笑いを堪えている。
これは僕とプロディテオさんの大勝利なのだ。
そう、後半に行った訓練で、相手に羊毛棒を当てられた数が多い方が負け。
負けた方は今の通りフォエナさんに羊毛棒を当てられただけ尻を思いっきり叩かれるのだ。
僕達はこれを「尻羊毛棒」と呼んでいる。
これを絶対に喰らいたくないので必死になって避けていたのもある。
因みに、プロディテオさんは1回当てられた。僕も1回だ。
羊毛棒が当たった回数だけ「死んでいた可能性」がある。人間など、喉や頭に剣が3cm刺されば死ぬ事だってある。
これは、僕等に「痛み」を教え、「死」とはこれよりも遥かに辛い事だと教えてくれている。
死ぬ気で逃げて、活路を見出せ。
これも護衛団の教えの一つだ。
格好悪くても、生きて愛する者達のいる場所へ帰るのだと、教えてくれている気がする。
「グッドだ、強くなったな!俺もお前に負けない様に頑張るぜイェット。」
プロディテオさんがポンと僕の肩に手を置いた。
「ありがとうございます!でも、僕は今より強くなりたいです。」
尻を出したまま気絶している2人を尻目に2人は熱い会話を交わしていた。
情けない臀部を晒していた2人も目を覚まし、4人は各々学び舎へ向かう準備をする。
「ありがとうございました!」
見習い達は声を揃えて感謝を伝える。
フォエナは冷めた表情のまま何も言わずに見習い達を見るだけだ。
オスクロも同様、何も言わずにフォエナの横に立っていた。
4人がディギトゥス・ミニムス山を降りる為に木々に囲まれた山道へ消えて行くのを横目で確認したら、彼等の今日の指導は終了だ。
20歳のフォエナとオスクロはこの後、城内の見回りや、コーポリス国の国境に設けられている20〜30箇所の関所の報告確認作業を行う。
主にフォエナが城内の見回りで、オスクロが関所の確認・報告管理だ。
「、、、時々遠くの関所まて行くんだろ?悪いな、楽な方で。」
フォエナがそう言うと、オスクロは首を横に振りにこりと笑う。
フォエナには、関所に行けない理由があるのだ。
「、、、そうだ、またリンゴ酒が手に入ったんだ。仕事が終わったら一杯やろうぜ?」
無口な男は黒い瞳を輝かせ大きく頷く。
「、、、そう言えば、この間城下町でさ、、」
、、、およそ見習い達が耳にする事はない会話内容だった。
もしこんな他愛もない会話をしているのを知ったら見習い達は気が抜けるだろう。
フォエナとオスクロは敢えて嫌われ役を演じていた。緊張感を持ち訓練に励む様仕向けるのは、いざと言う時のために。
彼等もまだ20歳、本当は遊びたい盛りの青年だ。そんな彼等が、不器用ながら考え、良かれと思いそうしている。
本当に不器用な2人だ。
フォエナは見習いの1人を思い出し、真面目な顔になる。
「、、、今日のあいつのアレ、見たろ? お前に出来るか?」
フォエナはオスクロに尋ねる。
首を強く左右に振るオスクロ。
「、、、アトレイタス隊長に伝えなきゃな。『纏霞まといかすみ』の要、、基礎となる『
無口な男も真面目な顔で頷く。
「、、、リヴォーヴって、あのリヴォーヴだよな、、。確か、、、『
この国に、「リヴォーヴ」と言う苗字は一家族しかいない。
学び舎へ着いた見習い達は、年齢別に分かれて教育を受ける。プロディテオとドルチスとはここで一旦別れる。
「じゃあ、また明日な。授業中寝るんじゃないぞ、イェットにイグナ!」
プロディテオは笑顔で左手をあげて自分の教室に行く。
「流石に尻が痛いよ、、。じゃ、また明日なチョンノにポッキムンコ。」
「誰だよ。」
「誰ですか。」
イグナとイェットに苦笑いでハモられなが指摘を受ける。
「あ! ドリーさん、よくも嘘つきましたね⁉︎ おかげで僕だけ今まで無茶苦茶走らされてましたよ⁉︎」
イェットは皆が走るのが早く、全く追いつけないと思っていた。実際は1人だけ麓を走っていたのだ。
「流石の俺も悪いと思ってる!すまなかったな!じゃ!」
「ははは!ドリーさん逃げやがったぜ。フォエナさんに質問されてた時のドリーさんの焦り方、笑えたぜ!」
イグナはきっと痛いてあろう臀部を摩りながらいう。
「さ、教室に行こうぜイェット。一眠りしようぜぇ!」
「イグナ、学び舎は寝るとこじゃないからね。」
教室といっても、窓や個人の机はない。屋根と椅子が人数分あるだけだ。
物を書く為の道具は高級で手に入らない。授業は全て口頭で行われる。
教室内には10人程の少年少女がいるが、これで全員ではない。家の手伝いや仕事をしている者もいる為、全員揃う事の方が珍しい。
「おっ!終わったか!今日もしごかれたみたいだな。お疲れさン!」
「おはようございます、イェット君、イグナ君。」
ノーアは彼女らしく、マリーアンナも彼女らしく挨拶をする。
「おぅっす!ノーア、朝飯いつもありがとな!マリーは今日もお淑やかだな!」
「別にお前の為に作ってねーンだよ、、。」
「ノーアもマリーも、今日の授業の内容知ってる?」
イェットは2人に質問する。
「いえ、私達もまだ何をするかまでは聞いていませんよ。昨日の『すうがく』の続きかもしれませんね。」
マリーは相変わらずお淑やかだ。
パンパンッ!
いつもの授業を始める為の手を叩く音。
先生が来た。
それはアトレイタスだった。
彼等の先生でもあり、護衛団の総隊長。
だから尊敬の念も込めてこの教室の皆は先生隊長と呼んでいる。
「よし、皆座ってくれるかな。授業を始める前に、今日は一緒に授業を受けたい方がいらっしゃるから紹介するよ。」
へえ、わざわざそんな事伝え、、る、、
えぇ⁉︎
そこには、この学び舎には不釣り合いな、鎧を装備した4人の大男と、彼等に囲まれた1人の少女がいた。
一瞬、教室内がどよめく。様に感じた。
いや、僕だけがだったかもしれない。
ドクンッ
透き通るような白い肌、可憐と言う表現を具現化したかの様な、
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