Recollection-4 「重なる思惑」
あまりの緊張から、まさかの遭遇、、2人の身体は弛緩すると同時に、水を浴びた様に汗を吹き出した。
4人の大男と少年2人は一斉に高場へ駆け寄り下を覗いた。
そこには、滑らかな素材に美しい刺繍の施された服を身につけたまま水面に浮かぶ女の子がいた。
彼女は以前よりも女性らしさを増した身体を空に向け眼を閉じ、それでも笑みが溢れているのが分かる表情だ。
前よりも長くなった
太陽の光を美しく反射させる限りなく透明な青は、彼女をまるで浮遊させている様で、その光景はまるで、、。
「王女様ぁ!ご気分如何ですかぁ!?」
イグナが良く通る声で叫んだ。
5人が一斉にイグナを見た。
彼の表情は高揚や興奮、歓喜を全て詰め込んだ様だ。
イェットは、いつも誰よりも率先して自分のやりたい事を包み隠さず行えるイグナを尊敬していた。自分に出来ない事を自然に行える彼が最高に格好いいと思うのだ。
「ここ、最高の場所ですよね!」
5人が一斉にイェットを見た。
(へぇ、イェットにしてはあんなデカイ声出すなんて珍しいな。)
イグナは笑みを浮かべて彼を見ながら思った。
小さな頃からずっと一緒にいる幼馴染の1人で、共に笑い、共に叱られ、共に学び、共に成長してきた。どんな時も屈託のない笑顔を絶やさずに、こんな俺とつるんでくれる最高に珍しいヤツだ。
イェットは自分でも驚いていた。きっと普段体験しない様な事が起きて気分が高揚していたのだろう。
彼女は眩しそうに唐紅からくれない色の右目を開けて声のした方を見た。
数秒見つめた後、ザバァッと水中で身体を起こした。
「あなた達は、、!」
彼女は彼等が6年前に出会った「彼等」と気付くのに時間はいらなかった。
「ねえ!おいでよ!」
彼女は満面の笑みで叫んだ。
イェットとイグナは顔を見合わせ頷くと、掛け声もないのに息ぴったりで川に飛び込む。
ドパドパアアァァァァン!!
2人は水中に沈んだ身体を水面に向けて水を掻き、ぷはぁ!と今までの人生で最高に美味い一呼吸をする。
「お久しぶりです王女様ぁ!ご機嫌麗しゅうようで!」
「こんな場所でお会いできるなんて光栄です!」
2人が彼女をコルメウム城の城主であるオズワルド王の一人娘で王女様と知ったのは、約6年前の出会いのすぐ後だった。
「おいボウズ達!幸運だぜ。四神護衛団と王女様に出会えるのは稀なんだ。今日という日に感謝するんだな!」
そんな言葉を大人に言われたのを憶えている。
「ちょっとあなた達!」
?!
2人は真顔になる。
「王女様はやめてよ!私はシーヤ・ワイトキング・エトナ。シーヤと呼んで頂戴。」
ワザとツンとした顔をした後にニコッと笑う。
2人はその笑顔に少し頬を紅潮させたが、日に焼けてシーヤには気付かれなかった。
「分かりましたシーヤ様ぁ!」
お調子者のイグナは対応が早い。
「じゃあ、シーヤ様で!」
イェットにしては頑張っている。
「もう!「様」をつけるのもやめてよー! 私は私なんだからっ。じゃないと、アイツらに言ってヒドイめに遭わせるよ〜っ⁉︎」
シーヤは悪い顔をしながら両手の指をワシワシと動かして脅す。
アイツらとは四神護衛団の4人である。
えっ⁉︎と2人は顔を見合わせた後、4人の方を見上げた。
4人もシーヤと同じく両手の指をワシワシと動かしている。
この時、2人はやっと気付く。
四神護衛団の4人は兜にバイザー、ベンデール、ビーバーが付いており顔は見えない。しかし何故か4人とも裸だったのだ。筋骨隆々の身体、下半身の下着のみ。
その風貌にやっと気付いたイェットとイグナは顔を見合わせてから大笑いした。
「ははは!確かにこれは幸運だぜ!なあイェット!ひひひっは、腹が痛ぇ!」
「そうだね、ははは!でもきっと強いよアレでも!あはは!」
「そうだよー?アイツらマジでヤバイんだから!」
実際、彼等は過去に近隣国との戦いの際、たった四人で160人を斃した伝説があり、コーポリス国を知る者であれば「コルメウムの四神」の話を知らぬ方がおかしいと言われる程だ。
3人で大笑いた後、シーヤが高場にいる4人を見て笑顔でスッと手を挙げた。
すると4人は待ってました!と言わんばかりに手や身体を叩き高場より水面へ飛び込んだ。無邪気に泳ぎまわっている。
3人は浅瀬に辿り着き、心地よい疲労感を得た身体で立ち上がった。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったよね、聞いてもいい?」
あっそうだった!2人は顔を見合わせて笑いながら自己紹介をした。
「俺はイグナ・シーガード!14歳だ!宜しくな!」
「僕はイェット・リヴォーヴ・エトナ。宜しく。」
「これからも宜しくね!」
シーヤは
これからも。
この言葉がこんなにも心に響き嬉しい事だとは思いもよらなかった。
この時偶然、陽射しがシーヤを後ろから照らした。
逆光により濡れた衣類に透けて浮かぶ、以前よりも大人に近付いたシーヤの身体のシルエット。
濡れた半黒半銀はんこくはんぎんの髪は実年齢よりも大人らしさを感じさせた。
影を纏った顔には神秘的な
2人は固唾を飲んで見とれてしまった。そう、その光景はまるで天使が舞い降りた様な、、。
そんな誰もが思い付く陳腐な表現しか、若過ぎた僕達には思い浮かばなかった。
12歳になっていたシーヤは、初めて「美しい」という意味を僕等に突き付けたんだ。
その時だった。
遊んでいた筈の4人の大男、四神がシーヤを囲む。
「シーヤ様、我々の側から離れぬ様くれぐれも、、」
先程のふざけた態度とは違い、ゼンが得も言われぬ雰囲気を放つ。
「何か」が近くに迫っていた。
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