Recollection-3 「遭遇」
ガシャッガシャッガッシャ、、、
鉄製の漁具を持った14〜5歳位の少年2人。
1人は歳の割には長身で体格の良い黒髪に
もう1人は歳相応だろうか。少し細身の、翡翠色の髪に
涼を得つつ、魚を獲ろうと城下町より西側に流れるサングイネンバ川へと向かっていた。
あの「遭遇」から約5年と9ヶ月。
今思い出しても遭遇という言葉があれほどお似合いな状況はない。
7月の夏ともなれば蝉は短い命を全うし、次の世代へと歌を奏でる。
頭上の太陽は夏らしく、否が応でも2人の肌を射し続けていた。
イグナは道端をみて何かを探しながら歩きつつ
「暑いなぁおいぃ、、。こう暑くちゃ敵わんぜ。」
と愚痴を零す。
「そうだね。目的池まであと少し頑張ろう。」
イェットはにこりと微笑みながらイグナをなだめる。
「お優しいこった、イェットさんよ! 、、おっ!あったあった!」
イグナは道端の草むらに入り片手で何かを採っている。
採った「それ」の根っこ部分を噛みちぎり、ペッと威勢よく吐き出し煙草の様に口にした。
それとは「蜜草」である。
この地域固有の植物であり、長い茎の先に円錐を逆さにした様な葉を持つ。そこに茎から出された蜜を溜め、寄ってきた昆虫を餌として育つ食虫植物である。
その蜜はこの時代の若者達には最高のご馳走になる。
「ところでよイェット。」
蜜草を咥えながらイグナは続ける。
「お前さっきあの時のコト思い出してたろぉ?」
「、、、ぇ?」
「、、、ぇ?じゃねぇよイェットさんよぉ!顔に書いてあるぜ?」
「ばっ、ばかお前何言い出すんだよ!」
そんなワケないだろ?と言い訳をしようとした矢先に、鼻元に蜜草を突きつけられた。
「何動揺してんだよ?お前は分かりやすいんだよ!ホラ、やれよ。」
「あ、ありがとう、、。」
イグナはぶっきらぼうでガサツに見えるが、よく気がつく鋭さがある。
イェットが鈍感なだけかもしれないが。
確かに何も動揺することはない。だけど思い出してた事を言い当てられて照れ隠しであんな風に口走ってしまった。
イェットもイグナと同じ様に根っこを噛みちぎり、ペッと吐き出した。自分では格好良くしてみせたつもりだったが、サマにはなっていなかった。
蜜草の純然たる甘みに気を取られながら歩いていたら、目的地に到着した。
このサングイネンバ川は岩と砂利で挟まれた河川で、上流は海に繋がっており、汽水域にちょうど良い中洲がある。その水深は浅瀬で約60cm 、深場では3mを超える。
この場所がいいのは、流れが穏やで汽水域のため海と淡水両方の魚が狙える事と、水深のある場所にちょうど良い高場がある。その高場から飛び込むのが彼等の、この時代の若者の娯楽なのだ。
「ヨゥッシ!イェット、さっさと罠仕掛けて、や・ろ・う・ぜ・!」
やろうぜとは、飛び込みの事だ。
「そうだね、そうしよう!」
イェットもそれが大好きなのだ。
持って来ていた鉄製の罠は
2人はほーれ、ほぅれ!やめろよぅ!と、わざと熱い部分を相手の皮膚に当てがいじゃれあう。コレがお約束なのだ。
中洲を中心に浅場、深場に計6個の筌を張る。あとは魚が入るのを待つだけ。
2人で高場へ行こうとしたその時だった。
ガサガサ、、ガサガサ、
何かいる。近い。
2人は立ち止まり顔を見合わせた。
猪か?まずい、この距離では突進されたらひとたまりもない。
ガサッ ガサガサ、、
あの牙で裂傷でもしようものなら軽くても重症、最悪失血で命に関わる。
ガサガサ、、ガサガサ!
年間に数人が猪の突進に遭い大怪我、又は命を落としている。
ガサガサガサガサッッ!
武器も置いてきてしまった、、。
イェットは考える。
グーか?グーでいけるのか?いやパーか?チョキで目をいくか?それ指折れる多分。指がアレになるヤツだ。いや勘弁して下さいよクソッ。
などが脳裏をよぎる。マズい完全に焦っている。
イェットは焦りを隠せない顔で(どうする?)という意味を込めてイグナを見る。
イグナはスゥーッと右手をイェットに見せた。
チョキだった。
(マジか、、。
仕方ない、チョキだ。もうこうなったらチョキでいこう。うん死ぬ。死んだ僕。はい死んだ。)
イェットは震えながら右手をチョキにした。
やるしかない。
あまりの恐怖に2人は言葉を交わさずとも以心伝心。
後にイグナはこの時の事を「チョキの奇跡」と語っている。
「フオォォォォォォォーーーッッッ!!!」
「「!!?!??」」
イェットとイグナは、その鳴き声?奇声?に心底驚いた。
彼等の右手はチョキのままだ。未だかつて、これほど力強くチョキをした事などなかった。
ガサァッ!
と、藪の中から白い影が現れ、高場と向かい凄い速さで駆けていく。
タタタタタッッ
白い影はそのまま高場から川へと飛び込んだ。
ドパアアァァァァン!!
(あ、あのコは!?)
2人は唖然として高場の方を見つめる。
(人、、人間だ!それもあの時の女の子だ!!
「「「「シーヤ様!」」」」
重なった叫び声と、その名前には聴き覚えがあった。
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