第1607堀:この世界で生きる覚悟
この世界で生きる覚悟
Side:ユキ
「よう、久しぶり?」
「なんで疑問形なのよ」
「いや、意外と顔を合わせるだけならしょっちゅう合わせているなーって」
「ま、確かにね。あ、座るわよ」
「どうぞどうぞ」
そんなことを話しながら、メノウとシーサイフォの御一行は席に着く。
オレリアたちがその周りでせっせとお茶の準備をしている。
「では、改めて今日は此方の呼び出しに答えていただき感謝します」
「いえ。こちらから持ちかけたことなので何も問題はありません。港町が出来れば両国の発展にも繋がります」
形式張りの挨拶を終え、今度は俺の両隣に居るシスアとソーナに視線を向ける。
「で、また綺麗どころを囲っているわね。追加?」
「失礼なことを言うな。どちらも旦那と子供持ちだ。セラリアの近衛のクアルの部下だよ。爵位だけ持っているってやつだ」
「なるほど。それは失礼しました。とはいえ、あんた子供少ないんだから、もっとつくりなさいな」
なんかメノウは会うなりとんでもないことを言ってくる。
そして、その言葉にシスアやソーナはもちろん、後ろに控えているプロフたちもうんうんと頷いている。
「いやいや、子供だけでも10人は超えているんだが? 十分子だくさんだぞ?」
俺は普通に言い返すが、メノウの目は鋭くなって。
「本気で言ってる? そういう所は本当に地球の日本に引きずられているわよね。私が言っているのは奥さん1人につき2人、いえ3人は作れって話」
「倍どころじゃないな」
「当たり前よ。今のままだとウィードの跡継ぎだけで終わるでしょうが。余りというのもなんだけど、勢力を広げたり地盤を固めるのは血縁で固めるのが、どこでもどころか地球でも定石よ? むしろ身内にだって裏切られるんだから、最低条件ってところね」
「あー、そういわれるとそうだよなー」
何を無茶苦茶をと思ったが、確かに今の子供たちは奥さん1人につき1人しかいない。
つまり、子供たちの将来としては跡継ぎが最有力だ。
だが、各国も俺たちの子供たちは欲している。
何せウィードとの繋がりを持つことになるからだ。
一応今も繋がりはあるが、子供たちとも縁ができれば、それは未来もということになる。
だから、外国からすれば子供が多ければ外に出る子もいるということになるから、望むところなんだろう。
とはいえ、それは子供たちに外交手段になれってことなんだよなー。
「……珍しいわね。表情に出ているわよ。そんなに子供を使うのが嫌い?」
「ま、当然だわな。無理やりに押し込めば反動がでかい。望んでこの世界に足を踏み込むならともかく、親が押し付ければ破綻は目に見えている。それに不幸にするためにこの世に来てもらうわけじゃない」
俺は素直に意見を述べる。
別に正しくもあり、間違いでもあるというのを理解したうえでだ。
それをメノウも見てから大きくため息をつく。
「はぁ……。そうね言っていることは正しいわ。心情的に圧倒的に賛成。でも、その地盤、国が無くなる可能性もあるとなると正しくはないし、為政者としてはダメだと私は思うわ」
「そうだな。そっちの意見もわかる。俺たちが参考にしている地球の民主、共産主義だってグダグダだしな。何が正解というより、人は腐るってことだろう」
「そうね。汚職が出るのは避けられないものね。そこに対してどう対応するか……って、そこはいいとして、私が余計なことを言って悪かったわね」
「気にするな。そっちの言い分はわかる。で、余計なことついでに俺からも質問が」
「なによ?」
「メノウって子供いたか?」
俺に色々忠告をしているのはいいが、メノウに子供がいるという話はついぞ聞いていない。
というか俺よりもメノウの方が立場的に深刻じゃないのかと思って聞いた。
すると、メノウは笑顔になって。
「何かしら? あんたもお家の乗っ取りを狙う馬鹿を迎え入れろっていうわけ? こっちは女王陛下の命で何とか抑えているのに、下手をすると自分の子供を養子として押し込んでくるような馬鹿もいるのよ」
「あ~、そりゃうかつに動けないな」
「今じゃ、あんたたちとの繋がりもあるから、なおのこと結婚か養子かって話が上がっているのよ。なに、それともあんたが私との子供作ってくれるのかしら?」
「どうしてそんな話になる」
「本当に子供が絡むと頭が回らないというか、思考しないわね。私から見て、家の乗っ取りとか考えない相手が最上なわけよ。そして子供を作ってくれるっていうね」
「……そういうことか」
「わかったみたいね。あなたなら今更シーサイフォの私の利権とか立場とか知識を欲しないでしょうし、現状維持をするぐらいの器量はあるし、立場も十分。むしろあんたとの子供でもできれば万々歳で周りも喜ぶでしょうね。何より、子供は沢山作っているからそっちの意味でも実績がある。ほら、私からすれば最上の相手なわけ」
特に気にした様子もなく、俺が結婚相手として素晴らしいというメノウ。
「別に、こっち、シーサイフォに来いともいわないわ。私がほかの奥さんと同じで側室の一人、最悪妾というか遊びで子供作ってもいいわよ。というか当然ね。今あなたを下手に一国にとどめると不和の元だし。私は子供ができれば跡継ぎが出てきて万々歳」
「メノウ、お前元日本人だよな?」
「記憶はあるわね。でも、それじゃやっていけないっていうのは前も言ったでしょう。私は、この世界で生きているの。そして家族を、友を、領民を、国を何としても守るの。そのためなら何でもするわよ」
その言葉を聞いたシスアやソーナ、そしてプロフたちもその鋭くなった眼光に息を飲む。
流石、ここまでこの世界で生き抜いてきたことはある。
で、その反応をメノウも見ているので、すぐにまた笑顔になり。
「それに、日本でも恋愛結婚で離婚している連中も山ほどいる。私たちは目的があり、そしてお互いをおもんばかれる。愛なんて後で育てればいい。……何より、あなたなら孕ませた相手を放置なんてしないでしょう?」
そう言うと、俺以外のメンバーはうんうんと深く頷く。
「あと、若返る方法もまだいろいろ持っていそうだし?」
「そりゃあるな」
「私も三十路近いし。若い体に戻れるならそれに越したことはないのよ。何より副作用がなさそうなのを選べるのがいいわね。どう? 奥さんたちには負けるけど、それなりに体には自信はあるのよ?」
「はぁ。最後にちゃかしてくれてありがとう。ま、俺はノーだ。若返りに関してメノウが長持ちするのは此方としてもありがたいからなんか探しておく。で、仕事の話だ」
「ありがとう。助かるわ。さて、いい加減本題ね」
ということで、あっさり若返りの薬を渡すことを確約されてしまった。
ま、メリットもあるからいいが、今の話はセラリアとかに確実に伝わるな……。
「何、まだ子供の話する? それともベッドにいくかしら?」
「馬鹿。さっさと支援の内容の話に移るぞ」
本当にぐいぐいとくるな。
俺が結婚の話をしたせいか?
それとも実際かなり問題か?
セラリアには俺から伝えた方がよさそうだな。
そんなことを考えつつ、メノウは書類を取り出してこちらに出してくる。
俺はその書類を手に取り軽く目を通す。
「……意外と、いやこんなに出していいのか?」
書類に書かれている援助項目は、びっくりするほど多彩だった。
お金はもちろん、指導の人員、果ては船まで出すと。
「もちろん。出したら駄目なものは項目に書かないわよ」
「そりゃそうだが、シーサイフォがここまですると結構財政に響くんじゃないか? 漁船が10隻、軍船3隻とか凄いことだぞ?」
そう、船とは言っても1隻の特別船というわけではなく、複数隻なのだ。
一体いくらかけるんだと。
「そうね。漁船はともかく、軍船に関しては1隻でもとんでもない金額なのはそちらの予想通り。しかも型落ちとかじゃなくて、最新船をそちらに提供するわ」
「そりゃまたなんでだ?」
「もちろん、ロガリの魔物とどれだけ戦えるかの実験でもあるのよ」
「あ、そっちか」
「そっちよ。もちろん港町の発展を願うものでもあるわ。シーサイフォの需要は今じゃかなりの物だし。ウィードがロガリの需要をどれだけ満たせるかで、他国への販路も増やせるわけ」
「なんだ。こっちの海進出での販路が減る関係で問題は起こってないのか?」
「無いかと言われると、あるわよ? 今の収入源が無くなるんじゃって話は。でも、実際今は需要を満たせなくてこっちも大変なわけ。そっちでの突き上げもあるんだけど、かといって船を増やせば漁獲量が上がるわってわけでもないのよね」
「確かにな」
漁業は当たりはずれがある。
魚は種類によりけりだが、それでもいる場所いない場所が存在する。
現在の地球じゃ魚群探知機があるから船の上からでも確認できるが、こっちはそうじゃない。
「それに遠方、沖合に出れば出るほど魔物の被害も出てくる可能性が上がる。そうなると、やっぱりロガリの港開発に協力した方が、結果的にいいって判断になったのよ」
「なるほどな」
つまり、こちらに提供する軍船やその人員は、シーサイフォにとってはありがたい知識と経験になるってわけだ。
「とはいえ、いきなり戦わせられないぞ?」
「そこは分かっているわよ。先日回してもらった魔物のレベルと強さを見てびっくりよ。本当にロガリ大陸は魔境ね。ズラブルの方でもここまではないって話よ?」
「そうなのか? オーレリア港は比較的おとなしかったからな」
「でしょ。その程度なのよ。でも、ロガリは木船だと穴を空けられかねないんでしょ?」
「だなー。そういう報告はある」
サイズとレベル的に普通にできるからなー。
「ということで、訓練も含めて実戦で使えるようにして頂戴。そうなれば、こっちでも沖合に出るのに多少は安心できるでしょう」
「話は分かった。とはいえ、そこらへんは港町の開発具合によるからな。確約はできないぞ?」
「そこは当然ね。だから、早く作っちゃいなさい」
「お前な。入れ物は簡単に作れはするが、だからこそ会議をしないといけないんだよ。いらん風に町の道がごちゃごちゃしてもいやだろう?」
「何を言っているのよ。初めてのことなんだし、地形によりけり、とりあえずやるしかないわよ? いくら会議を重ねても完璧なんて出てこないんだし」
「確かにそれは分かる」
「なら、時間制限つけてさっさと作ってみることね。というか、それぐらいは考えているでしょう?」
「まあな。失敗はつきものだしな。余裕は持っている」
「じゃ、シスアさんとソーナさんが恐れずに進むだけよ。結局の所、作った人の色は少なからず出るからね」
と、そんな感じで、前半の話は何だったのかという感じで、メノウは真剣に仕事の話をしつつ、シスアとソーナにアドバイスもしていくのであった。
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