第1608堀:提供してもらった資金資源について

提供してもらった資金資源について



Side:エリス



各国から提供すると言われた目録の確認と、保管の方法が決まったので、皆で集まって話していたのですが、その際にメノウさんと面会したユキさんの話になりました。


「……ということで、メノウから話があった」


内容は、メノウさんがユキさんへの求婚というか、子供が欲しいという話でした。

普通なら、贅沢したいとか、自分の欲を優先するためにと怒るのですが……全員沈黙してて。


「映像は事前に確認しているわ。みんなね」


セラリアがそう言って私たちも頷きます。

ユキさんへのそういう類のちょっかいに関しては妻たち全員で集まって相談しているのです。

ふさわしいかふさわしくないか。


「そうか」

「でも、貴方が私たちにそれを言ってくるっていうのは珍しいわね」

「ま、映像を見たんならわかると思うが、メノウからは本気を感じたんでな。セラリアたちはどう思った?」


ユキさんが、この手の話をわざわざ話すことはまずありません。

ですが、あのメノウさんの言葉に色々思う所があったようです。


「何を言っているのよ。本気に決まっているじゃない。メノウは自分の家族を家を、領民を守ろうとしているわ。自分の身を差し出しても」


その言葉に私たちはまた深く頷きます。

あれは、本当にその気です。


「メノウさんは立場が微妙ですからね~。今までお兄さんにその手の話をしてこなかったのは、こちらの様子を見ていたっていうのもあるでしょう。いくら同じ日本人だとしても、今所属している国は違いますし、立場も色々変わるでしょうし、それに左右されてメノウさんの家や財産を食いつぶさないと限りませんし~」

「だろうな。俺もラッツと同じ意見だ。でも、それは今からでも変わらないだろう? いつウィードが傾くか、そして俺がメノウの家や財産を好き勝手にするかはわからない」

「「「……」」」


その心にもない言葉で全員沈黙する。

はぁ、仕方ない。


「コホン。ユキさんがそのようなことは絶対にしないと確信したのでしょう。あと、いずれそういう時が来たとしても後悔しないと判断したのかと」

「そうですね。ユキさんを支えていくって決めたんでしょう」


私の言葉にミリーがそう付け足す。

うん、その通り。

メノウさんがそのようなことを言ったのは、本当にユキさんを信じられると判断したからです。


「ま、今すぐどうこうって話じゃないから保留ね。向こうから動き出してからよ。それともユキがメノウが欲しいっていうのなら手伝うわよ?」

「手伝うのか」

「そりゃ、手伝うわよ。貴方やタイキ、そしてタイゾウ、ソウタと同じ日本人よ? そして化粧品とか服での女の相談とかは貴方たちより圧倒的に頼りになる。性格も把握しているし、喉から手が出るほど欲しい人材よ。シーサイフォの動向をより詳しく知れるし」

「……はぁ、そうですか」


そう返事をしてぐったりとするユキさん。

相変わらずこういう話は嫌がりますね。

人の人生を背負うことになるのですから、当然と言えば当然なのですが……。

とはいえ、メノウさんや、ユキさんとの関係を望んでいる人たちは、文字通り死活問題ではあるのですが。

それで自分はもちろん家族が護れるのであれば、喜んで身を差し出すのは当然でしょう。

愛だけでは、お腹はもちろん、大事なものも守れないのですから。

ま、最初から言っていますが、ただユキさんを利用するだけの馬鹿を認めることはありませんが。


「貴方がそうなるのは予想出来たわ。で、話を港町のことに戻すわよ。たらふく供出された予算や物資については、シスア、ソーナに一任する。それでいいわね?」

「ああ、2人ともそれでいいな?」

「はい。このような大任を任せていただいて感謝いたします」

「ですねー。頑張らせていただきますー。でも、疑問として町や港はダンジョンのスキルでやってしまうので、予算も物資もそこまで使う所がないのですが……全く使わないっていうのは問題ですよね?」


ソーナの言葉に全員が沈黙します。

確かにその通りなのです。

お金に物資と各国からの恩着せというか、これからの利権に絡むために差し出されたものはありがたいのは間違いなのですが、使い道というと……。


「精々、人を雇うとか、その身支度金や物資を供給することぐらいしかありませんからね」


貰った資金や物資の使い道など、それしかありませんからね。


「ですよねー。セラリア的にはどう考えていますか? 必要なら別のことに回してもいいとは思いますけど?」


ラッツも非消費は厳しいと考えたのか、代案というか当然というか、別の所で資金や物資を使う案を出したのですが。


「ダメよ。わかって言っていると思うけど、港町の建設と維持のために出された費用よ。確かにウィードが未曽有の事態で資金や物資が必要な時ならばともかく、今はそうでもないわ。だから、正直使わないといけないラインに関しては、盛大にお祭りでもするしかないわね」

「お祭りですか?」

「ええ、シスア。お祭りならどうしても予算や物資を使うし、出資してくれた人たちへの出迎えとしても使えるからね」

「なるほどー。盛大にやればいいんですね?」

「まあ、上の人だけってわけでもないけれどね。初めての町だからウィードから人を引っ張ってくる必要もあるでしょう。移住を進めるためのサポートとかね」

「そういう方法もあるのですね」


セラリアの言う通り、祭りなどに乗じて、人の移住も募る。

そして費用は此方が出す。

そう言う風な好条件を出す必要があるかは分かりませんが、宣伝をする必要もありますし、国としても港町完成はみんなで祝う方が良いです。


「そうなりますと、意外と資金や物資はギリギリになるのでしょうか?」

「そこは試算しなさい。ま、一任とはいっても夫や私には許可を貰う必要はあるからね?」

「わかっていますよ~。この書類に記載されている額と物資を許可なしにぶん回せるとか恐ろしくてかないませ~ん。というか、陛下やユキ様、そして各部門のエリスやラッツたちはよくこれを扱えるよね~。何か心構えとかない?」


ソーナが珍しく笑いながらアドバイスを求める。

あれでもそつなくこなせるタイプだ。

旦那と子供もいて家計も握っているので、そこまで金銭感覚がおかしいというのはないはずだけど、桁がまあ、違うモノね。


「そう……ね。確かに扱う額は大きいかもしれないけど、実際計算すると意外と常識の範囲内に落ち着くものよ?」

「ですね。エリスの言う通り、莫大な額ではありますが、セラリアが言うように試算すると案外足りないってのはよくありますよ~。そして言うなら、ソーナたちにあてがわれたのは港町全体の額ですからね? それから部門に応じて分けなきゃいけないです。つまり、一部門の額からさらに必要なものに……ということになるわけです」

「なるほど。そういわれると、額は落ち着きそうですが……思い出しました。今回は各国から提供されたものについてはいいとして、ウィードからの提供というか費用に関してはどうなるのでしょうか?」

「あー、そういえばそれは聞いてないですけど、どうなるんですか?」


2人の言うように、今回は各国から提供された資金や物資の報告とその運用についての話でしたから、ウィードからの資金などの話はありませんでした。

とはいえ、全くのなしかというと……。


「初期費用と一年分の運用費ぐらいは出すけれど、それからは基本的に港町からの税金で補わないといけないのよ? そこは分かっているかしら?」

「はい。町のことは町で賄えということですね」

「わかっていますよ。でも、税収もどうするかを考えないといけないんですよね?」

「当然ね。そこはエリスから聞きなさい」


そこで私にみんなの視線が向きます。

いえ、まあ、当然のことなのですが、気になることが一点。


「その通りですが、今の話からすると税収に関することはまだ手を付けていないように感じるのですが?」

「早急に港の建設を進めていまして、箱は出来つつあるのですが中身が追い付いていないのです。官僚、いえこの場合は町の高官ともいえばいいのでしょうか? その人たちの選出もまだ終わっておりませんし」

「あ、シスアの言う通りで、そういえば、庁舎からの希望者とかどうなっていますか?」

「そっちの方は、ちゃんと予定通りに呼び掛けて今選別しているところね。そこから、そちらに回すってことになるけれど、まだ港町の箱も出来てないわよね? そこらへんはユキはどう考えているのかしら? 先に人をそっちに送る? でも場所もないでしょう?」


そうなんです。

確かに私たちの所で、港町作りに向かわせる人選はもうユキさんに書類を回せるほどは済んでいますが、面接を行う場所ですら用意できていないのです。

勿論、ウィード内で作ることは出来るでしょうが、仕事を行う場所などは港町なので作るだけ損になる可能性が高いのです。

その所をユキさんたちはどう考えているのか。


「そこに関しては、どれだけ候補がいるかだな。百人単位の面接でわざわざ港町まで行ってもらってもな」

「ああ、そういえばそうよね。とはいえ想定では一万人規模でしょう?」

「最終的にはな。最初はまずは準備や調整もいるからな。安全の確保も整ってない」

「安全確保が整っていないとかいうけど、それはありえないわよ。ま、無理は言わないけど」


ですね。

セラリアの言う通り、ユキさんがその手のことでミスをすることはないでしょう。

人命がかかわっているのですから。


「それに、一応港町の図面は出来たが、いきなり全部作るわけじゃないんだよな。特に居住区とかは、人が集まらなければ掃除とかが追い付かないからな」

「あー、それは確かにそうですね~。しかも、掃除にも人がいりますし」


納得の話ですね。

確かに、維持には人手がいります。

勿論ダンジョンスキルでそこまでも補うことはできますが、そこまでおんぶにだっこでは意味がありませんし、人を雇うということもありますからね。


「しばらくは、採用した職員はウィードから港町への出勤ってことになるな」

「……ふむ。そうなると、こっちで採用場所は用意する感じね?」

「まあ、別に一斉に集まるわけでもないからな。総合庁舎の会議室一室借りて部署ごとに決めて、当日出勤に集まってもらうって所だな。現地採用っていうのもあるだろうし」

「それって移住した人からよね? いえ、当然か。増えたから、対応するために人を増やす」

「そういうこと。基本だろう?」


うん、言っていることは至極当然です。

という感じで、私たちは採用に関しての会議も詰めていくことになるのでした。


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