第1606堀:どこも考えることは同じ

どこも考えることは同じ



Side:ジェシカ



「ん?」


私はジルバの領事館から伝えられた内容をユキに伝えるために、執務室へと向かっていると、途中の談話室?廊下の途中でちょっと広く取ってある場所で憮然とした顔のクリーナとそれを苦笑いで見ているサマンサを見て足を止めました。


別に2人がこういう所で雑談しているのは珍しいことではありません。

休憩がてら、談話室でのんびりするのは私でもオレリアたちでもあるからです。

どうしても執務室にいると仕事の話になることも多いですからね。


とはいえ……。


「どうしたのですか? クリーナ、具合でも?」


あのクリーナが露骨に憮然とした表情をしているのは珍しい。

彼女は無表情がデフォルトで、感情が読めないタイプだ。

ま、付き合いは長いのでどういう風な感情なのかはわかるのだが。

だからこそ、心配になったというわけだが。


「あら、ジェシカさん」

「……ジェシカ」


私が声をかけて2人とも気が付いたようでこちらに顔を向ける。

クリーナの表情も元の無表情に戻ったので、体調が悪いというわけではないのだろう。


「どうも2人とも。休憩中ですか? と言いたいですが、あのクリーナの表情。何かあったのですか? 体調が悪いというわけではないのですよね?」


とりあえず、確認だけは取っておく。

すると、クリーナはすぐに首を横に振り否定する。


「ただ単に、私の感情の問題。体調は万全。イニス姫とじじいにいいようにもてあそばれた」

「どういうことでしょうか?」

「話術に振り回されて本題をあっさり飲まされたと指摘してあげたら、こうなのですわ」


詳しく話を聞いてみると、イニス姫とファイゲル殿に子供の顔見せの話でペースを握られ、そのあとユキに要件を話してくれるように言われてあっさり受け入れてしまったと。


「まあ、良くある話ですし、基本的にそういう話を通すために嫁入りしたというのもありますから、何も問題はないのでは?」

「私もそう思うのですが……」

「私は元々政治利用しないっていう約束があった。まあ、今となっては形骸化しているけど」

「その約束ですか。ま、それはどちらかというとイニス姫の落ち度ですわね」

「ですね。ユキ殿をただの傭兵と見誤っていましたから。ふたを開けてみれば、ウィードの王配。国としての実力は大国をもしのぐと」

「その繋がりを持つイニス姫やファイゲル殿はその繋がりであるクリーナを使わないわけにはいかないでしょう。それは理解していますわよね?」


そうサマンサがクリーナに視線を向ける。


「……わかっている。とはいえ、こっちの要望はほとんど通らない。それは不公平」

「それはクリーナさんを通じて政治干渉をするなというほぼ無理な要望だからですわ」

「ですね。気持ちは分からないのでもないですが、向こうとしても通せない要望を言ってもクリーナが不機嫌になるだけです。向こうとしても、叶えられるものは叶えてクリーナの機嫌は取りたいでしょうから」


そう、別にクリーナとの仲を悪くしたいわけではない。

だからこそ、子供のこととかに意識を割いているのだろうが。

最初の約束を反故にしているのが、かなり引きずっている。

このままでは、クリーナというかイニス姫やファイゲル殿の立場も悪くなるでしょう。

となると、クリーナが納得する要望を通すというわけですが……。


「政治利用をするなという以外に、何か要望はないのですか?」

「……お金も、資材も、場所もユキに全部用意されているから特に必要性を感じない」


ですよね。

お金も資材も場所もユキが揃えてくれます。

母国よりも、圧倒的に完璧に。


「強いて言うなら、宇宙監視衛星が欲しい。このアロウリトを宇宙から監視出来たら、それはとても便利な事」

「それはそうですが、無理ですわね」

「ウィードでもようやく宇宙進出に取り掛かっているところですからね」


そう、ウィードではハヴィアを中心として宇宙進出というか、その手前の組織づくりが始められている。

とはいえ、宇宙はあらゆる分野の総合ともいうべき場所なので、未だ人員は足りず、地道にまずは知識をためているところらしい。

それを宇宙すら知らないアグウストに求めてもできるのは資金提供か、資材提供、あるいは……。


「あ」


私はそれであることを思いついた。


「「あ?」」


私の言葉に2人とも首をかしげてこちらを見る。

何か思いついたのかと聞いている顔なので、そのまま口にする。


「先ほどの宇宙進出に関してですが、足りないものがありました。まあ、ユキでも用意できなくはないでしょうが、場所は多い方がいいとは思うモノです」

「何?」

「何が足りないというのでしょうか?」


2人は続きを促す。


「土地です。別に領地としてほしいという話ではなく、ロケット発射場です」

「ああ、そういうことですわね」

「……確かに、ウィードの地上で出来なくもないけど、人が寄るのは避けられない」

「はい。その通りです。安全を確保してのロケットの発射地点の確保は難題でしょう。ですが、それが別の大陸の土地であれば……」

「確かに、誰もいない土地をもらえればそういう使い道もなくはないですわね」

「……でも、何に利用するかは絶対に聞かれるはず。そしてユキも安全の面を考えて教えないというのはありえない」

「まあ、それはそうですが、そこは既にクリーナに下賜された領地ですし、当初はクリーナやウィードの実験場や野外軍事訓練場とでも言っておけば普通に許可はとれるのでは?」

「確かにその通りですわね」

「むぅ。それなら取れるとは思うけど、そういう話ならサマンサはもちろんジェシカやほかのみんなの母国だって土地を提供したがるはずじゃ?」


そこは確かにその通りです。

とはいえ……。


「今回に限ってはクリーナがもらえるというのが強いです」

「ですわね。私たちの国が動いた場合は、どうしてもウィードに貸し与えるとなるでしょう。もちろん建前上は私たちの領地にという手順は踏む可能性もなくはありませんが……」

「そんな面倒なことをする理由がないということ?」

「その通りです。それに別に宇宙開発のために使わなくてもいいわけですし、イフ大陸の魔力が少ない土地のデータ取りにも使えるでしょう。ベータン、ランサー魔術学院、それの各国の首都などとわかりやすい場所はありますが、無人の土地というのは珍しいですから」

「そうですわね。ま、結局のところはユキ様に話を通してからでもいいのではないですか? ここでウダウダしていても結局のところここだけのお話でしかありませんし」

「ですね。今は港町のことが先決かと」

「……その通り。ここで腐ってても仕方がない」


クリーナもようやく決心がついたのか、重かった腰を上げて立ち上がる。

私とサマンサはその姿にホッとしつつ、一緒に執務室へと向かう。

一仕事終えたような気分だったが、実のところ全然仕事は終わっていないのが悲しい。

ま、クリーナがこのまま機嫌を損ねたままよりはマシだろう。


「失礼します」


そんな言葉とともに、私は向こうの答えを待つことなく扉を開く。

いつものことだ。

何せ、このユキの執務室は私たちにとっても仕事場だから。

部屋の主であるユキが居る居ないに限らず、私たちは仕事をするだけ。

とはいえ、時間帯的にはいるはずと思いつつ部屋の中はというと……。


「やはり、町をまず作るべきですね」

「どうだろう? 目当ての軍港がないとドレッサ様たちが寄れないでしょ? 展開的には一瞬だし」

「そうですね。ダンジョンのスキルで全部同時にできるのですから、修正は容易いので、どちらかではなくどちらも作るべきです」

「「なるほど」」


なぜか、執務室の隅にある会議用のテーブルとホワイトボードを囲んで全員でなにやら話し合っていました。

さて、何か緊急のことでもあったのかと考えましたが、話をちょっと聞けば簡単に答えは出ます。


「港の話をしているようですわね」

「……ん。あそこはなるべく早く作るべき。拠点があればやれることは広がる」

「とはいえ、2、3日で出来るようなものでもないのですが」


そう、港町なのですから、簡単に出来るものではなく、ダンジョンのスキルで建物や土地は整備できるとしても、それは事前の準備、設計があってのこと。

設計のミスが大きければ、港町の機能は著しく低下します。

だからこそ、ここでしっかり話し合って、問題は洗い出しておいた方がいいのは当然でしょう。

と、そんな風に話しているとユキが気が付いたようで。


「お、3人とも来たな。各国はどうだった?」


その言葉で、他のメンバーもこちらを向く。


「失礼いたしました。ホービス、ヤユイ、リュシお茶の準備を」

「「「はい」」」


そう言って準備を始める4人を止めることはしない。

いつものことであるし、止めると逆に気を遣うから。

で、そこはいいとしてユキの話だが。


「ええ、港町の進捗とこちらも港の開発を考えているようですよ」

「あら、そちらもですか。ローデイも同じような話が上がっていますわ」

「……アグウストも同じ」

「ま、港での収益が出るのはハッキリわかったからな。魔物が少ないイフ大陸は動きだしても不思議じゃない」


ユキはまるで私たちの報告内容を予想していたように、特に驚くこともなく納得しつつ、書類を受け取り内容を確認していく。


「港を作るためのノウハウを教えてくれねー。ま、こっちが教えられることがあれば教えるが……。あ、そういえば、シスア、ソーナ」

「なんでしょうか?」

「何か?」

「そう言えば、ノウハウに関してメノウから、ああ、シーサイフォから何か聞いているか?」

「いえ、そういえば港に関しての情報提供をしてくれるとか?」

「なんか会議の時に言ってましたね。あれ? これって私たちから行くべきですか?」

「まあ、向こうもこちらの進捗はわかっていないだろうからな。打ち合わせの話を持ってくるのを待っている可能性は高い」


確かに、港を作るためのアドバイスなどをするとシーサイフォは言っていましたが、どのタイミングとなるとサッパリですからね。

資金提供は各国もするということで、お金を預かってはいるようですが、そういう知識は会わないと話が進みませんね。


「なるほど。ですが、港の基礎設計もできていないですが? 良いのでしょうか?」

「そこらへんは完璧っていうのはないからな。この前ラッツと話したこと、今回のこと、そして今来たジェシカたちの話を聞いてある程度まとめたら会議の日取りを決めていいんじゃないか?」


ですね。

シーサイフォもいつ会議になるかと気をもんでいるでしょうし、それぐらいがいいでしょう。

ということで、私たちも港町の設計会議に参加するのでした。


あ、後でクリーナの要望に関しては話しておかないといけませんね。



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