第1604堀:お昼前の飲食店はギリギリ開いている

お昼前の飲食店はギリギリ開いている



Side:シェーラ



ユキさんから誘われて、私たちは回転寿司屋さんに来ています。

外からは少ないと思っていたお客さんも意外と入っていて、家族や友人と食べる用のテーブル席はもう残り数席となっているようでした。

逆にカウンターはがら空きという感じです。


「一人で食べに来るのはお昼からかな?」

「多分そうじゃないかしら。休みの人たちはテーブル席が多いし」


ユキさんやラビリスの予想は当たっていると思います。

だってクアルさんとかはお昼は一人でよく食べていると本人から聞いています。

もちろん仕事仲間と食べる人もいますが、一人で好きな物を食べる人もいるわけです。

休みの人に比べて働いている人の方が多いのですから、昼休みになれば人が溢れるのは当然のことですね。

そんなことを考えていると、レーン側に座ったアスリンとフィーリアがお茶やお箸、お皿などをとって私たちに渡してくれます。


「ありがとう。さ、何から食べましょうか?」

「そうだな。まずはレーン以外の物を注文するか」

「あ、それなら茶わん蒸しが欲しい」

「フィーリアもなのです」

「私もいるわ」

「定番ですね。私もです」

「俺もだし、全員だな。あとは汁物……」


そんな感じで注文をタッチパネルですると、回っているネタを確認して確保していく。

ないモノは注文だ。


「やっぱりたまごといなりだな」


なぜかユキさんはお寿司屋さんに来ると、この二つを必ず食べる。

子供向けの物なのですけど、あ、いえ、お稲荷さんに関してはカヤさんやカーヤさんも沢山食べますけど。


「そういえば、ユキっていっつも最初にそれを頼むわよね。何か意味があるのかしら?」

「あー、言ってなかったか。ま、これは回転寿司となると大量生産だからあまり意味はないんだが、たまごといなりってその店舗つまり職人の味が出るものだからな。とはいえ諸説あるが。最初に白身魚を食べるのがいいっていう人もいるな」

「玉子焼きで腕前が分かるのかしら?」


ラビリスが首を傾げると私たちも首を傾げます。

玉子焼きは私たちでも作れますし、そこまで味に違いはないように思うのですが?


「あー、なんというか、玉子焼きといっても厚焼き玉子でな。普通の玉子焼きにもネギ入れたり、ニラ入れたり、あるいは砂糖、塩だったりするだろう? 厚焼き玉子っていうのは、そういう感じでアレンジがかなりあるんだよ。特にあるのは出汁入りの玉子焼きだな」

「出汁っていうと?」

「出汁は店舗それぞれだな。カツオ出汁、昆布出汁、あご出汁とか、それをブレンドしてとか、本当に色々だ。だからこそってやつだな」

「言いたいことが分かってきました。それで味が千差万別となるわけですね? それから、自分の舌に合うかどうかで、好みが似ているという話になるのですね」

「まあ、そういうことだ」

「「へー」」


玉子焼き一つで奥が深いんだなと思います。

でも、言われてみればユキさんが言うように玉子焼きでも種類があるし、おにぎりだってご飯をどう炊くかとか、具でも変わってきます。

と、そんなことを話していると、注文していたものを店員さんが持ってきます。


「お待たせいたしました。ご注文の……」


そう言って、茶わん蒸しとかお味噌汁とかをテーブルに並べていくのですが。


「店員さん。少しお話いいかな? 店長に許可はもらった方がいいかな?」

「はい? えーと、お話と申しますと? 時間を取られるのであれば、今は仕事中なので……」


ユキさんがその間に店員さんの男性に声をかけるのです。

早速情報収集をしているのですね。


「まあ、そうだね。よし、店長を呼んでくれるかな? ちょっと知り合いなんだ」

「ああ、店長のお知り合いですね。少々お待ちください」


そう言って店員さんは下がっていきます。


「はぁ、あの子。ユキや私たちの顔を見たことないのかしら」

「全くです。私やリュシはともかく、ユキ様はもちろんラビリス様たちもウィード創生に携わっていますし、冊子にも顔写真が載っているというのに」


ラビリスとプロフはちょっと呆れて言っていますね。

自分たちが住んでいる場所の領主を知らないなど、あってはならないというのは同意です。

まあ、ですがウィードに住み始めて思うことがありまして。


「あははー。プロフさん、私としては店員さんの気持ちは分かるかな。ここに本物が来るとも思わないし、関わりがあるとも思わないから、思い出さないんだよ」


そう、リュシさんの言う通り、一般の人は偉い人と自分が遭遇するとは思っていません。

しかも……。


「最近はお兄ちゃんも私もここら辺に来てないでしょ?」

「そうなのです。最近は学校で食事が多いのです」

「そうだよな。ウィードが出来たころとかはよく来てたが、最近は商業区の表通りはなかなか来ないな。偉い人たちとその手の専用のお店とかに行くからな」

「ま、それは仕方ないわよ。表通りを私たちが出歩けばそれだけで騒ぎになるんだし。今回だってユキが認識阻害をかけていたでしょ?」

「そりゃな。みんなの食事に商売を邪魔したいわけじゃないからな」


みんなが言うように、ユキさんは商業区に入ってから認識阻害の魔術を展開しています。

そうでもないと、さっきの店員みたいに見逃してくれるのはそこまで多くはありません。

私たちも帽子を被ったり認識阻害をかけて学校のみんなとは来ているもん。

それを一度忘れて、こっちに寄ってくれあっちに寄ってくれって大変だったものです。

と、そんなことを話しながら茶わん蒸しを食べていると、席に人がやって来きます。


「お待たせいたしました。私に御用とか? って、ああ、ユキ様たちでしたか」


そこに女性が立っています。

この人は、ユキさんから頼まれて回転寿司屋さんの店長をしている人で、私たちとも顔見知り。

ウィードが出来た時からいる人です。

つまり、私よりも少しだけですが古参の人なのです。


「忙しい時間帯にすまないな。ちょっと聞きたいことがあってな」

「聞きたいことですか? 報告書は出しますか?」

「ああ、そっちも頼む。けど今は直接話を聞きたいんだよ。座ってくれ。食べながらで悪いな」

「いえ。問題ありませんよ。店員たちはしっかり教育しているので、もう私が居なくても回ります」


そう言いながら店長さんは席に着く。


「食事は?」

「いえ、まだですので。海鮮丼を頼んでもらっていいですか?」

「任せるのです」


そう言ってフィーリアはすかさず注文をする。


「それで、お話とは?」

「ああ、一般にどこまで流布しているかわからないんだが、ある評判が聞きたいんだよ」

「評判ですか。その対象は?」

「港を作るってことに対して」

「その話ですか。それでこのお店に来たのですね」

「はい。一般の反応を伺おうにも海に興味がある人ではないと私が提案いたしました。お邪魔でしたら申し訳ございません」

「とんでもございません。ありがとうございますシェーラ様。最近はユキ様たちはこちらに寄らなくて心配とは違いますが、寂しさはありましたので」


確かにオーナーともいえるユキさんが顔を出さなくなると、店長としては少し心配になりますよね。


「さて、港を作ることに関してですが、まずは私を含めて店員やその関係者からは、どんな美味しい海の幸が出てくるのかというのが話題に上がっていますね」

「あー、そこに関しては心配ない。すでに一度狩って味見したところだ。とはいえ魔物に限るが、絶品だったよ。な、みんな」


ユキさんがそう言うと私たちは全員頷きます。

あの美味しさなら、ここに並べても何も問題はないでしょう。


「それはよかったです。しかし、魔物の素材は高値になりがちなので、こちらで卸せますか?」

「そこは俺が個人的に融通する。採算がとれるかは冒険者とかが集まるかってところで決まってくるからな」

「確かに、海の魔物は強いという話は聞きますからね。どれだけ流通できるかが肝ですか。しかし、ユキ様たちなら自力で提供できるのでは?」

「できなくはないが、それはウィードのダンジョンからになるからな。港の発展にはつながらない」

「あー確かに。私たちが素材が目的ですが、ユキ様たちは港が発展しないといけないわけですか」

「そりゃな。まあ、最悪軍港だけって案もあるが、人が住めるならそれに越したことはないしな。俺たちに何かあったときに海から素材を仕入れられる環境があるのはいいことだろう?」

「それはその通りですね。ああ、話の意図がわかりました。港の話を聞いて、そこで働きたいかという話ですね?」


流石はユキさんが選んだ店長なだけはありますね。


「まあ、経営側や食べる側としては、新しい港というのは興味をそそられているというのは先ほど申し上げた通りです。とはいえ、海の魔物が強力だというのは私たちみたいな戦いを生業としない者でも知っています。安全が保障されなければ、一般人は足踏みするでしょう」

「はぁ、ま、当然だな」


はい、当然だと思います。

ですが……。


「ですが、そのような安全を確保するなど、ユキ様にとっては朝飯前というか当然のことでしょう」


その通りです。

ユキ様が民衆に危険が及ぶ様な真似をするわけがありません。


「ですので、安全を宣言して港町への移住の募集をかければ集まるかと。魔物を確保するための戦力としての冒険者については分かりませんが」


私も同意見です。

今でもウィードは各国から見れば好景気の場所。

何より新しい技術が生まれてくるところでもあります。

各国がこの港が廃るのを見届けるわけがないでしょう。

むしろ、喜んで人を送り込んでくるに決まっています。

……冒険者についてはミリーさんたちが頭を抱えていそうですが。


「そうか。じゃ、人が集まらない時に相談するべきか」

「そうですね。その時はお魚好きの私たちから話すのが最適でしょう。あとはビーチとかで遊ぶ人たちとか」


そういうところから呼びかけるのは最適ですね。

そう思っていると。


「あ、それでもう一つ。港町ってなるとやっぱり新鮮な魚を卸せるってわけだ。まあ、ゲートでそこまで違いはないが、向こうにも寿司屋は開く予定なんだ。だから、そこでの人員は捻出できそうか?」

「規模はどうなる予定ですか? 一応、スーパー銭湯などや回らない本場寿司屋も私の管轄で人を雇って育ててはいますが、指導できる人物は簡単に増やせませんよ?」


そんな感じで、寿司屋からの人員確保のお願いもするユキさんなのでした。

しかし、魔物を使ったネタが出るかもですか。

昨日食べたものが出るとなると、あっという間に人が集まりそうですね。


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