第1603堀:海の噂はどうですか?

海の噂はどうですか?



Side:アスリン



今日は学校もお休みで、お仕事の方も落ち着いているから、のんびりお休みかなーって思っているとお兄ちゃんから呼ばれて、喜んで私たちはお兄ちゃんの所に向かった。


「来たよーお兄ちゃん」

「来たのです」

「珍しいわね。休日に呼びつけるなんて」


うん、ラビリスちゃんの言う通り確かに珍しい。

お兄ちゃんは休みの日はお仕事を絶対にしないっていうタイプだ。

エリスお姉ちゃんやラッツお姉ちゃんは色々書類を見ている時はあるけど、お兄ちゃんは何か緊急事態がない限りは休むもんね。


「ゆっくりしないとだめですよ」


最後にシェーラちゃんがそう注意をする。

お兄ちゃんって休むときは休むけど、緊急でやらなければいけない時は、文字通り休みなしでやるからね~。

皆そこは注意しようって言っている。


「わかってるよ。それで今日はお昼でも一緒に食べながら、仕事のことを少し混ぜつつ話があるんだ」

「お昼とお仕事?」

「不思議なのです。お仕事ならここで話せばいいのです」

「そうね。プロフにリュシもいるし、問題はないように思えるけど?」

「そうですね。何か事情でも?」


お兄ちゃんはこういうことは分けるほうで、お仕事の話を共用の場所、お店とかで話すことって滅多にない。

他の国の王様たちとご飯するぐらいかな?

で、その疑問にお兄ちゃんは。


「そこが微妙なんだよ。ほら港開発に関することでな。周りの話も聞いてみたいし、学校での話も気になってな」

「港? ドレッサちゃんたちが頑張っている話だよね?」

「そうそう。仕事と言えばそうなんだが、ウィードの町や学校としてはどうなっているのかなーって」

「ああ、納得したのです。そういう噂を知りたいならお家じゃ無理なのです」


うん、お兄ちゃんが外に出たい理由がわかった。

ウィードに住んでいるみんなの話が聞きたいんだ。

だから、お仕事かどうかっていうと微妙なんだ。


「なるほどね。ま、私もそういえば港を作るって発表はしたけど、評判に関してはあまり聞いていないわね。大きな騒ぎとかもなかったし」

「いまだに詳しい話も伝わっていませんからね。でも、いつか港町に関する募集があるのではという話がでていて、シャ―ルお姉さまからも話を聞かれました」


うんうん。

だって町一つ作るって話だし当然だと思う。

私たちが今入学して監視も兼ねている国際交流学校についても、事前に各国から問い合わせとかが盛りだくさんだったのは私も知っている。

だから、今回の規模を考えるとどこもかしこも気になっているに決まってる。


「あー、もう各国も気になっているか。そうなると、やっぱりウィード内部が気になるな。ということで、お昼食べにいかないか?」


うん、お兄ちゃんが外に行く理由が分かったから断る理由はない。


「うん。楽しくお食事デートだね」

「デートなのです」

「そうだな。今日はデートだな。ま、フィーリアの日になっているけどそこはいいか?」

「問題ないのです。これから兄様と仲良くするつもりだったのです。みんなで」


そう、フィーリアちゃんの言う通り、今日はお兄ちゃんの日だから一緒に遊ぶつもりだった。

そうでもしないと、今じゃお兄ちゃんと遊ぶのって一か月に一回ぐらいになるもんね。

もちろん、フィーリアちゃんを優先して独り占めにする時間もあるから心配なし。

こうしてお休みの日に重なることも珍しいしね。

お兄ちゃんはそう言う意味で大変だから、ちゃんと休まないといけないんだよね。


「そうか。ならよかった。じゃあ、さっそく……といってもなー。何が食べたい?」

「んー。これと言って食べたいものはないのですが……。今のお話からすると、お寿司系がいいのではないのです?」

「そうね。港町の話なんだし、そういう話題が集まりそうな場所で食事をした方が噂は集まりやすいでしょう」

「そうですね。私もそう思います。あとは高級か、回っているほうかですが……」

「今日は一般の反応が見たいから回転するほうかな」

「じゃ、商業区の方にいこう」



ということで、私たちは商業区の飲食店街に来た。

ここは、ウィードで一番食が熱い場所。

美味しそうな香りがあちこちから漂ってくる。


「相変わらずお昼前なのに賑やかだな。いや、思ったより多いな」

「これでも少ない方ですよ」

「そうですね。私も初めてお昼に来た時はどこにも入れなくてびっくりしました。どこも小一時間待ちでした」


一緒に来たプロフお姉ちゃんとリュシお姉ちゃんの言う通り、この賑わいはまだ大人しい方。

お兄ちゃんも知らないわけはないと思うけど……。


「あ、お兄ちゃんって学校始まってからこっちに来てなかったっけ?」

「あー、そうか。それで学校の生徒や関係者たちも来ているってことか」

「そうなのです。フィーリアたちやトーリ姉様たちも案内とかしているのですよ」

「トーリって警察だろ? そっちも動くのか?」

「具体的には、警察主導の一般の国際交流会での話ね。文化の違いを知ろうっていう」

「そこで、やはり話題になるのは食事になりますから」

「なるほどな。それで気に入ってくれたってことか」


そういうこと。

国際交流学校の生徒はもちろん、関係者も気に入ってくれたようで、今じゃ自分たちが個人で色々歩いて食べまわったり、買い物をしたりしている。


「ラッツお姉ちゃんやエリスお姉ちゃんは人の出入りが増えたから、嬉しい反面、忙しさも増えたから大変だってこともあるんだって」

「そりゃそうだ。トーリたちはもちろん、冒険者ギルドにも協力してもらって治安維持をして貰っているしな。あれとか」


お兄ちゃんが視線を向ける先には、黄色い腕章を付けた人が歩いているのが見える。

あれは、冒険者ギルドから派遣されている治安維持の巡回の冒険者。

モラルがちゃんとある人である程度腕が立つ人じゃないとだめっていう意外と厳しいんだって。

試験もあるし、それを受かってようやくできるお仕事。

でも、その分お給金はいいし、人気はあるんだって。

警察官じゃ手が回らないからところを任せるんだから、それだけ大事な仕事ってこと。


「そういえば、そこらへんで騒動とかは聞いたか?」

「そこら辺っていうと、文化の違いで飲食店や物品販売でのトラブルかしら?」

「そうそう。学生さんは特にその違いに戸惑うことは多いだろう?」

「違いと言いますが、金銭を支払いサービス、あるいは物品を買うというのは代わりありませんので、そこまで問題はありませんよ。まあ、学生の中では貴族用の場所があればというのは聞きましたが。列に並ぶのは慣れないそうです」

「確かにな。それはそうだろう」

「あ、それなら私も聞いたかも」

「フィーリアも聞いたのです。でも、事前に予約しておけばいいことなのです。それはどこの貴族界隈でも同じなのです」


うんうん、確かに並ぶのは慣れていないだろうけど、フィーリアちゃんの言う通り、元々そういうのは予約とかをしているから対応できるんだし、それは買う人の落ち度だよね。


「フィーリアの言う通り、こういうことは貴族のお店でも当然のことなので、そういったおバカはみんなから注意されて反省していたので問題はありません。なにより、そういう列に並ぶことも教えていますので、ただの落ち度です。と、つきましたね」


シェーラちゃんの言う通り話しているうちに回転寿司屋さんに到着した。

まだお昼前なので、お客さんはそこまでいない。


「人は他の場所より少ないな。やっぱりまだお寿司はそこまでっていうことか?」

「うん、やっぱり生魚を食べるっていうのはあまりなじみがないみたい」

「ロガリよりも海の幸が手に入るのに不思議なのです」

「別に不思議じゃないわよ。ほとんどが内陸の国よ。海に面しているのなんてシーサイフォか、ズラブルぐらいで、しかも急速冷凍とか輸送方法が万全じゃないし、新鮮な魚なんてユーピアだって食べたことなかったって言ってたでしょ?」

「あ、そうだった。ユーピアちゃん、お刺身食べて美味しいって喜んでたもんね」


初めてゲートを使ってオーレリア港に連れて行って食べたのが感動したみたい。

勿論、一番はカレーだけど。


「そういうことか。いや、当然だな。地球でも同じだったな。内陸の魚は基本寄生虫とかがいるからしっかり焼かないと当るんだった。というか海でもよくあるしな。そして生臭い」

「はい、その通りです。ですので、海の魚をそのまま食べようという意思が無いようなんです。とはいえ、海の幸として、調理したものは何度か食べていますし、その際に海の魚と認識してお刺身も出して好評を得ていますよ」

「そうなのか?」

「はい。海という存在を知らない人たちも多くいますからね。ビーチにも行って海というモノを体験もして貰っています。食事もその一環で出してもいます」

「ああ、そういうことか」


そうなんだよね。

国際交流学校では、ウィードの能力、つまりダンジョンの力を存分に体感してもらっている。

シェーラちゃんの言うように海とか、雪山とか大自然はもちろん、ウィードの技術力が詰まった町とか。


「そうなると、まだ学校が出来て三か月ぐらいか……。授業で海に行って振る舞われても、すぐお店にってわけにもいかないだろうし、手が伸びるのはまだ時間がかかるかな?」

「そうね。とはいえ、今回の港開発のことは広がっているし、美味しい海の幸は紹介する予定なんでしょ? それだったら、それが起爆剤になるんじゃない?」

「私もそう思うなー。あの魔物たちもお魚たちも美味しかったし」

「ロガリの海も地球に負けていないのです」


うんうん、トーリお姉ちゃんたちやドレッサちゃんたちが取って来た海の幸は美味しかった。

だから、港町を発展させるつもりなら、あの美味しさを伝えない手はないと思う。


「そうだな。ま、そこらへんも聞いておかないといけないし、中に入って食べながら話をするとしよう」


そういうことで、私たちは回転寿司屋さんに入っていくのだった。

今日は、何がおすすめかなー?

個人的には鯛かな? あ、茶わん蒸しは食べないといけないよね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る