第1602堀:ワクワクする町作り

ワクワクする町作り



Side:ヤユイ



「甘いですね」


ラッツ様の即断での否定ともとれる言葉で、シスアさんとソーナさんはぽかんとしていました。

私も流石にラッツ様がそこまで否定するとは思わなくて、執務を止めてラッツ様に視線を向けます。


「甘いとは?」

「やっぱり、一万人は多く見積もりすぎですか?」


私たちは町の運営にはそこまで詳しくないので、先ほどの二人がいった想定の数が適正なのかはさっぱり分かりません。

ですが、ラッツ様が「甘い」というほどですから、何かがいけないのでしょう。

やっぱり、魔物が強く多い地域ですから人は集まらないとかでしょうか?

そんなことを考えつつ、ラッツ様の回答を待っていると……。


「いえ、逆ですよ。ダンジョンの安全地帯は確保できるのであれば、観光客は山ほど来ます。そして、それに伴い飲食店はもちろん、通常のお店もできます。それはその土地で生活する必要があるからです。単純計算として、まず私が予定している支店の最低人数は店長、副店長、そして売り場の担当が4、5名。そしてアルバイトが10人前後。全員が家族持ちというわけではありませんが、それでも数は3倍程度にはなるでしょう。そしてそれは、港で勤めることになる役所の人たちも当然。ここで最低100は超えますね」


確かに、その計算だと軽くあっという間に100は超えて村レベルになります。

でも、1万を超えるモノかなと思っていると。


「軍関係者、そして漁港関係者、さらには魔物退治の冒険者たちに冒険者ギルド、それで買いつけに来る商人たち。ホテルなどの宿泊施設もできるでしょう。つまり、スーパーラッツでは補いきれないというか、稼ぎ時を感じて移動する人も沢山出てくるでしょう。それに、一番の理由は繁栄が約束されている理由。というのが、お兄さん。できた暁には各国の王たちを招き寄せますよね?」

「そりゃな」


あ、それで納得しました。

各国の王たちが来ることが確定しているのなら、それはつまり各国の王たちがその港を認めているということです。

少なくとも、そう簡単に終わる、または寂れるとは思えない。


「ということは、各国の王たちも注目しているロガリの港。それに目を付けない商人はもちろん、冒険者たちもいないでしょう。冒険者ギルドが色々悩んでいるとはミリーから聞きましたが、各国の王たちが来れば、その問題も解消されますよ。海の魔物の買い取りをしたがるでしょうし」

「ああ、確かに。つまり財源ができるわけか」

「はい。それに冒険者にとっても王命での仕事をこなすのは名誉なことでもありますかね。箔付けにもなりますし、今後の活動を考えるとメリットは大きいでしょう。もちろん、そういうのを嫌う冒険者もいますけどね」


うん、その通りだと私も思います。

冒険者というのは名誉とか富を求めています。

中には、文字通り冒険を楽しんでいる人もいますけど、名誉も富も冒険を続けていく上であればあるほどいいモノです。

とはいえ、ラッツさんの言う通り、名誉や富を得るということはそれだけ注目を集めるということで、貴族とか、そういうことへのかかわりが増えるということにもなりますので、嫌う人がいるのも事実ですが……そんなのはごく少数です。


「なるほど。それなら人は確実に集まるな。武器屋に防具屋、道具屋、魔道具屋とかその他もろもろ」

「もちろん、スーパーラッツの支店を出すついでにどういう図面の予定なのかも見に来ましたし、その手合いの呼びかけもしようとは思っています」

「それが効率的だな。シスアとソーナはどう思う?」

「確かに、そういう今後を考えると人が集まらないわけがないと思いますが……」

「集まらなければ損失は計り知れませんよ? まあ、DPでやる予定ですから補填はできるでしょうけど、ユキ様の汚名になりませんか?」


お二人は心配そうにユキさんへと視線を向ける。

そうか、確かにここで港町が失敗に終われば、ましてや王たちの不評を得てしまえば、それはウィードはもちろんユキ様の汚名になります。

それは、部下である私たちも好ましいことではありません。

ですが、ユキ様は特に気にした様子もなく。


「俺の名前が落ちるぐらいは特に気にならないな。わざと失敗はダメだが、別にそんなことをするつもりもないんだろう?」

「それはもちろん」

「ありえません」

「なら、問題はないさ。俺の失敗談とかむしろダメ王配としての箔付けになる。その程度でシスアとソーナの経験が稼げるなら安いもんだな」


むしろ、どんどとこいという感じで笑います。

確かに、シスアさんやソーナさんにとっては良い経験ではありますけど……。


「「「はぁ……」」」


ユキ様の反応に室内にいた大半がため息をつきます。


「相変わらずのお兄さんですねぇ。部下のみんなは心配というか呆れてますよ?」

「別にいいんだよ。で、俺とばかり話さなくていいし、なによりほかのみんなも港町づくりに関して興味が出てきたようだ」

「確かに動きが止まっていますね」


その言葉にはっと我に返って視線を辺りに向けると、オレリアやホービスも同時に視線を変えていたのか目があって苦笑いしてしまいます。


「え? 私は特に?」


その中でニーナさんだけはそのままパソコンをカタカタしています。


「ニーナは好きにしてくれ。ということで、町づくりに意見をくれ。みんな気になっているんだろ」


そうユキ様が言うのでプロフさんがみんなを代表して……。


「私たちはあくまでもユキ様の補佐で各々業務を抱えているのに、いいのでしょうか?」

「いいぞ。気になっているんだろ? そして、俺の補佐っていうなら、港町づくりも補佐していいことになる。ああ、もちろんシスアとソーナの許可はいるけどな。どうだ?」


そう聞かれた2人は此方を見て。


「ええ、構いません。他の仕事をしているからこそ、町に必要だと思えるものが見えてくるでしょう」

「ですね。私たち2人じゃどうしても行き詰まりますし」


私たちが口を出すことを許可してくれました。


「よかったな。とはいえ、今後はみんなでちゃんとスケージュール組んでくれよ」

「え? ユキ様、これ一回きりじゃなくてですか?」


リュシが驚いたようにユキ様に聞き返す。

私も同じ顔だったと思う。


「一回だけで町ができるわけがないからな。それに中途半端な口出しはよくない。自分の仕事をこなしつつ、シスアとソーナの手伝いだな。それにこれから俺の一部負担とかじゃなくて、こうして町の運営とかにもかかわる可能性もあるからな。その経験にちょうどいいだろう」

「「「え」」」


あまりの発言に私たちは驚いてしまいます。

その中でプロフさんは特に驚く様子はなく。


「まあ、いずれそういうことはあるとは思っておりました。私も住民課と情報課を担当しておりますし、町の運営にも関わっておりますし、オレリア、ホービス、ヤユイ、そしてリュシがそういうことに関らないというのも難しいでしょう」

「わぁ、私も町作りをやっていいんですか?」


私たち3人とは違ってリュシは町作りに関われるのがうれしそう。


「リュシはこういうのに興味あるのか?」

「はい、あります。村ではああいう施設があればとか思っていましたし、それで村長たちと揉めてたりもしました。だから、調べたら村で徴収していた税金ちょろまかしてたりとかあって……」

「そうか。ま、そこらへんはまた後日だ。今は町に関しての話だしな」

「そうですね。あんなクソな村より、いい町を作る手助けができればと思います」


なるほど、そういうことがあったんですね。

それで対立してあんな姿に……。

いや、どう見ても村長側がやりすぎなのは明白ですけど。


「うん。やる気があるのはいいことだ。それに全員初めてのことだし、色々やってみるといい。オレリア、ホービス、ヤユイもな。失敗は成功の母っていうしな」

「「「はい」」」


そこまで言われては私たちも嫌とは言えない。

むしろ、私個人としてはリュシと同じで町を作るということに少しワクワクしている。


「よし、じゃあ経験者のラッツさん。どうやればいいでしょうかね?」

「あはは、お兄さんはそう言うノリなんですね。では、ホワイトボードを用意して、それとは別に書記も用意した方がいいですね。記録って大事ですから」

「でしたら、その役目は私が」


そういってオレリアが手を上げる。

うん、確かにそういう記録に関してはオレリアが一番かも。

するとプロフさんも手を上げて。


「では、私もその補佐を行いましょう。そうすればオレリアも私も意見を言う暇が出来ます」

「うん。良い考えです。では、場所は……」

「ここで良いぞ。みんなやる気だしな。そういえばいつもの業務はどういう感じだ?」

「あ、はい。私は既に終えていて闇ギルドの情報精査の方に入ろうかと」


私がそう答えるとみんなも同じ状況だったようだ。

いつものように午前中にはいつもの業務は終わらせているようだ。

プロフさんが提案した仕事のやり方がすっかり身についている。


「ならいいな。今日は闇ギルド関連の情報精査は終業時間一時間前でやるとして、それ以外は町作りに時間を当てよう」

「そうなるとあとは3時間って所ですね。じゃ、ちゃっちゃと始めましょう」


ユキ様がそう言うと、すぐにラッツ様がホワイトボードの前に立ってペンを持つ。


「さあ、現在できていることを書き込みますよ。シスア、ソーナ、そしてお兄さんいいですか?」

「ああ」

「「はい」」

「では、まず、全体の流れを確認しておきましょう。ここはお兄さんですね」

「わかった」


ユキ様はラッツ様に言われて、港町作りの流れが書かれた書類をラッツ様に渡します。


「ふむふむ。大まかに行きましょうか」

「ああ、詳しく書くといくらホワイトボードがあっても足りない」


そう言ってラッツ様が書類を持って、流れを書いていきます。


港町を作る上で必要なこと

1、土地の選定、調査

2、町、港の位置の決定

3、町、港の大きさを決定

4、町、港の建築

5、人の移住

6、港町活動開始


大まかすぎる気もしますけど、確かに細かく書くとどうしようもありませんねと納得する。


「現在、1から3まではシスアとソーナが決めています。災害などのことも考えていますので、そこは口を挟む余地はないでしょう。もちろん、説明はして貰いますが」

「そうだな。そこら辺の説明も俺やラッツしか知らないから説明した方がいいだろう」

「はい。わかりました」

「じゃ、こちらを」


そう言ってシスアさんとソーナさんから説明を聞いて町作りについて考えていくのでした。





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