第1601堀:商会として

商会として



Side:ラッツ



お兄さんからの要請で、人員を港に回してほしいという連絡、いや、正式な命令書が来ました。総合庁舎はもちろん、ウィードの台所であるお店、スーパーラッツも港に支店を出してくれと来ている。


「ま、当然ですよね~。町ができるなら、そこで暮らすための物資が必要になる。つまり売買するためのお店もいるというわけですからね」


最初はユキさんたちだけの支給制でいいかもしれませんが、発展を見込んでいるのですから、お店を出さないなんてのはありえません。

つまりスーパーラッツの新しい支店ができるわけですが、ま、どの程度の人員とかの前に、どのぐらいの規模の町を想定しているのかで決まりますからね。

勿論、最初は人は少ないでしょうから、売り場は小さいでしょうが、新しく店舗を建てるというのも時間がかかりますから、そこら辺を考えて最大とは言わなくても、ある程度予想ができる人口に対しての店舗を最初から頼むほうがいいでしょう。

ということを考えながら、私はお兄さんの執務室へとやってきました。


「どうもー」

「いらっしゃい。ラッツ」


ドアを開けて入ると真っ先に奥の執務机に座っているお兄さんが迎えてくれます。

それに合わせ。


「「「いらっしゃいませ」」」


そう言ってプロフやオレリアたちが慌てて席を立って挨拶をして、すぐに私を迎える準備を始めます。

具体的にはお茶とかですね。


「やっほーラッツ」

「ニーナも大変そうですね」


のんびりした声に振り向くと、そこにはお兄さんと同じぐらいの書類の山を机に置いているニーナがいます。


「ええ、闇ギルドの情報はまだまだいたるところにあるもの。ほとんどは、ただの噂レベルだけどね」

「そうじゃないと大変ですよ。ま、どのみち大変ですか」

「大変」


ニーナは聖剣組からお兄さんの所に派遣されて闇ギルドを専門で捜索する人員になっている。

おかげでスウルスの時やヒンスアなどの跡を追えたのだから実績は確かですね。

そんなことを雑談しながら、ソファーに座るとお兄さんもやってくる。


「忙しいところ悪いな」

「いえいえ、今回は私が聞きたいこともありましたからね。ですが……」


私はそう言葉を切って、ある一点に視線を向ける。

そこには机に突っ伏している女性が二人。

私もよく知っているシスアとソーナですが、あんな失態を見せるようなタイプじゃないと思ったんですけどねー。


「何かあったんですか?」

「何かあったというか、普通に町づくりで頭がドーンって感じだな」

「あー。そういえば2人が基礎設計するんでしたっけ?」

「そうそう。港町の必要な建物とか、どういう建築にするとかでもう大変なようだ」

「そりゃ、そうでしょう。たった2人ででしょう? ウィードだって、私たちはお兄さんたちを含めれば10人はいましたからね~」


私がそういうと、2人はバッと顔を上げる。

おや、頭がショートしていたのではないでのでしょうか?


「ラッツ様、今の話は本当でしょうか?」

「ですです」

「本当ですよ~。何せ、私たちはド素人ですから、村を作ろうにも何が必要かさえ最初は分かりませんでしたから」

「その時は一体どうしたのでしょうか?」

「私たちが到着した時には一通りそろっていましたよね?」

「それは、みんなと話しあって決めたんですよ。もちろんお兄さんはその後の修正役でしたけど」


私は特に隠すこともなく事実を告げる。


「つまり、私たちも相談してよいと?」

「でも、私たちと同じ部署の人いないよ?」

「そこが問題ですよね~」


そう、この2人が机に突っ伏していたのは相談する相手が存在しないから。

まあ、やろうと思えばプロフやオレリアたちはもちろん、私たちも協力するのはやぶさかではありませんが……。


「俺たちは経験者だし、なるべく最初は未経験者だけでやってほしいってのがあるんだよな」

「お兄さんがこう言っているとなると、口出しはなるべく控えたいですね~。とはいえ、お兄さん。港町の設計を2人でやらせるというのもいささか無理があると思いますけど?」


意図はわかりますが、状況的に無理がありすぎると言っておく。

私たちだって10人がかりだったのが、シスアとソーナ2人というのは……。


「ああ、そこはほら、ラッツがこっちに来た理由だと思うが……」

「ん? ああ、そういうことですか」

「「?」」


2人は意味が分からないという感じで首を傾げていましたが、私は納得がいきました。

これから人が集まる予定ですからね。

そこらへんも集まらないと、町の内容は決めにくいものがありますよね。

だから私は……。


「私はスーパーラッツの出店要請に関して話があって来たんですよ、つまり、この場に限り相談してオッケーってことですよね?」

「ま、いいんじゃないか?」

「「本当ですか?」」

「嘘をつく理由もないしな。じゃ、2人も起きたことだし、スーパーラッツに関しての話も進めるか」


ということで、2人も席について話しあいが改めて始まります。


「では、改めて、私がこちらに来たのは行政としてではなく、スーパーラッツの会長として、支店を出してほしいという要請を聞いて、こちらに来ました。商業課としては選出を行っている途中ですね~」

「ラッツも大変なのに申し訳ないな。二重、いや三重か?」

「あー、まあ、代表としてはノンが動いていますし、スーパーラッツの経営に関しても最近はノンも含めて後進が育っていますから問題はありません。個人的に経営しているぬいぐるみ店もニーナたちがしっかりやっていますからね。あ、学校は別ですけどねー」


そう、私が担当していることは多いですが、殆どが既に私の手から離れています。

いや、部下が育っているってことですね。


「学校も含めると四重か。いや、俺の細々なお願いとかもあるからもっとか。悪いな」

「いえいえ、先ほどもいいましたが、大丈夫ですよ。お兄さんの方がもっと大変ですから。で、私としてはお兄さんとラブラブするのはやぶさかではないのですが、そろそろ本題にいきましょうか」


お兄さんが私を気遣ってくれるのは嬉しいのですが、シスアとソーナは問題をさっさと解決したいようですからね。


「そうだな。じゃ、話を進めてくれ」

「はい。では、お二人に聞きたいのですが、私の運営するスーパーラッツに出店をお願いするお手紙というか要請が届いております。それは御存じですか?」

「はい。今回港を作るに当たり、町を作るうえで必要だと判断される施設に関しては、ご連絡をしているとユキ様から伺っています」

「私たちからご挨拶に行けなくて申し訳ございません~」


うんうん、資料の方はちゃんと読みこんでいるようで何よりです。

あと……。


「挨拶については大丈夫ですよ~。今回の港発案は、闇ギルドを追うのがメインだったわけだし、いきなりすぎです。計画の許可が出てまだ3、4日ですからね~。普通ならてんやわんやで何も進んでいませんよ~」


そう、まだ港を作ると言ってから数日。

まずはどう動くかという所から始まるレベルですが、そこはお兄さんが主導していたおかげでこの数日で港を作る場所も見つけていますし、こうしてシスアとソーナがどういう町を作るのかということを考えられているレベルなわけです。

なので、傍から見れば総じて優秀なわけです。


「ありがとうございます。それで、お店についてですか?」

「商業課からの人員の話ではなく?」

「そっちは庁舎の方からまとめてきますね。ですので、それとは別でスーパーラッツの支店をつくる件について詳しく聞こうかとおもいまして」

「詳しくといいますと?」


シスアとソーナは首を傾げます。

あー、まあ、初めての町づくりとなると当然ですね。

ユキさんも苦笑いをしています。

さて、ここは私がフォローする役ですね。

ま、ウィードが出来て以降、治安維持に努めてもらった2人です。

手助けができるのはむしろ喜ばしいこと。


「町の規模はどの程度をお考えで? 最初は確かに住人は役所の人たちだけでしょうけど、機能し始めると多くの人が出入りします。そのたび店舗を開店や改装して、人員を送り込むとなると二度手間ですからね。発展が見込めないのであれば様子を見ようとは思いますけど、今回に限ってはそういうことはないでしょう?」


私はそう言ってお兄さんに視線を向ける。


「港は調査も兼ねるからな。一般人相手の周囲での安全が確保できるかは別として、町としては機能させるから、人は一定数住むことになる」

「うん。でしたら、その予定数を聞かせてください。それに合わせて店舗の大きさを提示させていただきたいのですが」

「そういうことですか。……確かにその通りです」

「足りなくなったからって後で追加できるかっていうと結構大変だよね。まっててください。地図出します」


そう言って、ソーナが机から港の地図を持ってきます。

それには既に四角で囲っている空間が見られます。

その中にさらに丸で囲っている場所が3つ。

そこに軍港区、港区、居住区と書かれています。


「なるほど。基本的にはこの3つに分けているのですね?」

「はい。これは初めての会議で決まりました」

「初めての会議というのは?」

「それは私たちが港町をつくるということで、ユキ様が災害を想定して、有識者であるタイゾウ様、タイキ様、そしてソウタ様を招聘して決まりました」

「ああ、なるほど」


確かに災害に関しての対策は日本が一番ですからね。

私も色々映像を見せてもらいました。

自然災害は本当にどうしようもなく、そしてその酷い中でも、人が手を取り合って生き抜き、信じられない速度で復興をしていくというのを。

そんなことを思い出しながら、シスアとソーナの説明を聞いていく。


基本的には軍港や漁港は町から離していると。

まあ、当然ですね。

津波や海からの魔物の攻撃という災害を気をつけねばなりませんから、距離というのは絶対的なアドバンテージです。

町の位置は港や軍港がある海から直線距離にして2キロ。

これだけあれば、津波が来ても逃げる時間も稼げるでしょう。

最悪、シスアたちが判断してダンジョンシステムを使い防波堤を作ってもいいわけですし。


そして、次は二つの港、軍港と漁港。

これはどうしても仕方がないです。

軍艦はどうしても大きく、そして整備も専用の施設が必要で機密性も高い。

対して漁港はあくまでも商売の場所ですからね。

応じて船も小さくなりますし、取った魚や魔物を水揚げする場所というのはまた軍港とは違います。


「こういうことから、基本的に先ほど3つに区画を分けています。そして、規模としては1万都市を想定しています」

「あはは、大げさだとは思いますけどね」


そういって少し恥ずかしそうにしている二人をみて……。


「甘いですね」


と、私は速攻で否定するのでした。


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