第1600堀:港に冒険者ギルドは?
港に冒険者ギルドは?
Side:ミリー
ユキさんが、いやこの魔物たちはトーリたちの地上班と海のドレッサたちの海班が持ってきたんだけど……。
あれ? 支払いとかどうすればいいのか難しいわね。
ま、そこはいいとして、この沿岸、そして海の魔物の調査が終わって冒険者ギルドも会議が行われていた。
「魔物の脅威度としては上位だな。高ランクからすれば余裕であるが……」
「高ランクの冒険者は資産はそれなりに持っていますからね。呼びかけても来るかどうか」
「ま、無理じゃな。確かに高ランクなら十分に倒せるが、海の魔物は特に面倒じゃ。それの労働に見合うかというと微妙じゃ」
そう、今話し合っているのは、港に冒険者ギルドを置いて魔物退治を行えるかという話だ。
確かに退治はいける、海の魔物に関しては陸地の魔物よりは高く買い取れるというのは、先日の調査兼食事会で確認できた。
素材にしても希少で、利用価値も高い。
肉に関しても十分美味しかった。
だが、高ランクの冒険者が割にあうかというと……グランドマスターの言う通り、討伐難易度が高いのがあって、あまり美味しくない。
かといって金額を上げるというには、微妙だ。
その手の高ランク冒険者は文字通り狩るときは物凄い勢いで狩る。
財源が尽きることはないが、素材が大量に溜まって供給過多になり、結果的に一時的に対象の魔物の価格が下がる。
そうなると高ランク冒険者はうまみがなくなっていなくなる。
うん、金額を上げるのは悪循環に陥るからありえないわね。
「でも、ロックさん、グランドマスター。高ランクじゃないと死ぬでしょ。あれ」
「まあなー。水中戦が主体なうえに、今までの魔物とはまた違うからな」
「同レベルだと難しいじゃろうな」
3人の言う通り、じゃあ、その魔物が狩れるであろう同レベル帯だと死者が結構出るという話になる。
何せ、水の中がメインだものね。
余程特殊な人でもない限り、あの海の魔物たちを倒すのは難しいでしょう。
「ということは、今の所港に冒険者ギルドは作らないってことですか?」
「ウィードの軍が倒してきたのを仕入れるっていうのも手だが……」
「まあ、アリと言えばありじゃが、そうなると売り先はそこまで多くはないじゃろう。何せ、ウィードはそう言う品物は他の国に卸すし、自国の市場でも売る。冒険者ギルドを仲介する必要が無い」
「そうなると、海の魔物を冒険者ギルドが扱う理由がなくなりますよね?」
そうなのよねー。
この海の魔物の狩りを国に任せてしまえば当然、その資源はウィードという国の物になる。
そうなれば冒険者ギルドはそれを買うしかないのだけれど……。
「そこについては絶対量が少ないから、冒険者ギルドが扱っても需要はあるとは思いますが、収入源として見ていた海の魔物に多額の金額を支払うことになります」
私はそう答える。
そう、ウィードは別に海の魔物を狩ってうっぱらっての商売は考えていない。
あくまでも闇ギルドを追う上で必要なことなので、今回は海の魔物を提出したのはその付属でしかない。
勿論、港町を魔物が襲うというなら自衛で倒しはするけど、進んで海域の魔物を退治するかというと……ラッツや港町を運営するシスアとソーナ次第だけど、漁業をする際に護衛が付き添って、襲ってくるぶんぐらいだと思う。
「仲買をして売るんだから当然だよねぇ」
「ま、あまり旨味はないが、やらないよりはマシだろう。絶対量は少ないんだろうし」
「そうじゃな。その絶対量が少ないということで、多少は高値を付けてもいいやもしれんな。あまり高ランクが来てはあれじゃが、そもそも船も必要になる。そこらへんで採算がとれるか?」
「どうでしょう。私たちも未確認である怪物リヴィアサンなどという規格外も存在していますし、何より元来ロガリ大陸に住む人々は海の認識は恐ろしいモノとありますからね。冒険者ならなおのことその手の噂があるところに来るかどうか……」
私は正直にそう言って口を閉じる。
確かに、イフ大陸やハイデン地方、ズラブル地方では海での漁業は一般的にやっていて、魔物とうまく付き合いつつという場所もある。
そして、それはロガリ大陸でもごく一部では魔物が弱い地域で港を構えてやっているところもあるが、今回調べて分かったように海の魔物はやはり強力だということには間違いはなかった。
「そこは……これからじゃないかな? 私たちは海の向こうに別大陸があるって知っているし」
「そこからの人もやってきているのは事実だしな」
「それを上手く刺激して人を集めてみるかのう。あと、需要が少ないと思うなら多少初動は買取を高くしてみるか」
そんな感じで、話はまとまることになったのだが……肝心なことが一つ抜けている。
「それで、港に冒険者ギルドを作るかもという話はウィードの上層部には話していますが、実際誰がそこの運営を行うのですか? そこが一番大事というか、心配している点ですね」
「「「……」」」
私がそれを問うと全員沈黙する。
ウィードにも人材不足には間違いはないけど、冒険者ギルドだってそう簡単に新設のギルドを任せられるほど人材に余裕があるわけじゃない。
何せ、向こうから支部を立ててくれっていう、語弊があるけど請われて支部を出すのと、ウィードの港での支部はこっちがどうしても出したいという違いがある。
海に面した冒険者ギルドを出すというのは、それだけ今後の発展が見込めているということを本部が認めている。
当然よね。
未開発だった海への第一歩ともいえるところ。
小国が細々やっているのではなく、各国が承認していてなおかつ、ウィードが主導。
失敗するとは露とも思ってはいないでしょう。
傍から見れば、ユキさんにおんぶにだっこで、冒険者ギルドはいい思いをしようって感じで、腹は立つんだけど、流石に海だし、利用するだけじゃないからね。
何より、私がその冒険者ギルドを管理するウィード側のトップでもある。
と、そこはいいとして、そういうことで今回の支部は発展が見込めている。
だから、下手な人物を派遣してトラブルは起こしたくないというのがある。
つまり、優秀な人材を送りたいところだが、昨今のスウルスの侵略という名の大氾濫が起こって以来、冒険者ギルドは蜂の巣をつついた様子の大騒ぎで、各地のダンジョンはもちろん、魔物の動きを調べるために大忙し。
ウィードとしても無能を送られて足を引っ張られるなんてのはしたくはない。
それもこれも闇ギルドがダンジョンコアを用いて大氾濫なんか起こしたから……。
いえ、そもそもを考えるとその騒動が無ければ海への道は開かれなかったのだから、これは闇ギルドに感謝するべき?
そんなことを考えていると、沈黙していた中でロックさんが口を開く。
「正直な所、というか俺の個人的な意見なんですが、その前にグランドマスター。本部の方では話し合いなどは?」
確かに、ロックさんの意見の前に本部はこの港町の支部に関してはどう考えているのかを聞いてみたい。
「本部の方か。まあ、私の言葉が……というのは?」
「ダメですよ」
「ダメですね」
グランドマスターの言葉をバッサリ斬るロックさんと私。
まあ権限はあるけど、本部をグラントマスターの一存で動かせるのは本当に有事の際だけ。
こういう支部を出すような話は、他の幹部との摺り合わせが大事だ。
「はぁ、ま、頼もしくあるか。さて、冗談はいいとして本部の意見としては海に面した支部は利益が見込めると言っておるが、人材に関しては閃いているのがおらぬというのが状況じゃ」
「でしょうね。そんな人物がいればグランドマスターの横にでもいるはずですし」
うん、ロックさんの言う通りだ。
ウィードの冒険者ギルドというのは今では、稼ぎ頭の支部だ。
文字通り頭。トップ。
何せダンジョンを好きに作れるし、アイテムだって自由に作れる。
もちろん、混乱が起きないように内々で流通の調整をしているんだけど。
だから、ウィードの冒険者ギルドにいる私たちは本部から、好意的にみられてはいない。
本部に勤めているのはエリートだと思っている連中からすれば、本部以上に稼ぐ私たちのウィード支部は妬ましいそうなのよね。
実際、ヒンスアについてのことを本部で調べようとしたら、邪魔が入ったし、あれなのよね……。
ああ、だからこれを機にウィードの冒険者ギルドに捻りこむチャンスで人を出さないというのはありえない。
だからついてきていないというのは、本当にあちこち大変なのだろう。
「まあ、下手な新人を送り込んで被害を出せばウィードからの評判もおちるからのう」
そう、エリート様たちはウィード支部の連中が嫌いなだけで、ウィード自体は膨大な資源と金銭をもたらしてくれるお得意様と思っているのよね。
だから、ウィードを大事にしてくれる。
「えーと、話は分かりましたけど、結局人は来ないってことですよね? それでロックさんは個人的意見があるんですよね?」
話がそれそうになるのをキナが止めて本題に戻す。
そうだったわね。
本部がウィードの海に支部を出すのは賛成だけど、人はいないっていうのは分かった。
なら、ロックさんは?
そう思って視線を向けると。
「本部が人を出す余裕が無いというのはわかりました。それならば、ウィードの支部から人を出すのが道理として通りますかね?」
「「え?」」
その発言に私とキナは言っていることがよくわからなくて首を傾げるが、グランドマスターは特に考えることもなく……。
「通るのう。何せ本部が人をださないのじゃ。なら、どこからか出す必要がある。そうなると筆頭はウィードの支部じゃな。何せウィードが港町をつくるのじゃからのう」
「ですよね」
普通に話をしているけど……。
「いやいや、ロックさんどうやればうちの支部から人がだせるんです!?」
キナが叫ぶように言う。
うん、確かにウィード支部から港の新しいギルドを作れるような人材は……。
そう思っていたけど、私もロックさんの意図に気が付いた。
「ねえ。ミリーも言ってよ」
「ああ、うん。多分わかった」
「え? どういうこと?」
この場でキナだけが分かっていないようだ。
そして、ロックさんは素直に。
「そりゃ、お前が港のギルド長ってわけだ」
「はぁぁぁあぁぁー!?」
その瞬間のキナの叫び声は冒険者ギルドにいた全員に聞こえたような大きな声だった。
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