第1599堀:人の確保のために

人の確保のために



Side:ユキ



シスアとソーナに災害についてのことを教えて、港づくりを始めているのだが、一日二日で出来るわけがない。

まあ、構想さえしっかりできれば、箱というべき建物や土台はそのままダンジョンの能力を使ってあっという間にできるんだが、世の中、町を作ったからと言って人が簡単に入ってくるわけでもない。


「ユキ様。町の設計はいいのですが、この港町に来る人に関してはどうする予定なのですか? そちらも私たちが手配を?」


執務室に戻ってきて、ソーナと相談しながら港町の設計を始めていたシスアが不意に思い出したようにそう聞いてきた。


「あ、そういえばそうでした。護衛の兵士とか警察とかもそういうのはどうなっているんでしょうか?」


そう、二人の言う通りであり、入れものを作れば人が勝手に住み着くというわけでもない。

俺も今それを考えていたところで……。


「流石にそういう人集めは俺の仕事だな。二人は設計に集中してもらっていい。とはいえ、二人と連携がとりにくい一般人は避けたいよなー」

「それは、そうですね。初めての場所ですし、何より強力な魔物が生息している区域です」

「一般人は安全が確認できてからですね。税収はその間はなしということになりますね」

「税収に関しては、ここは基本的に港での漁港関連が動いてからだな」


これに関しては意見が一致する。

何せレベル30台の魔物が闊歩している地域だ。

町や周囲に関してはダンジョン化によって、ある程度安全を確保できるが、上に存在している土地。

つまりダンジョン外については、外から魔物が入ってくるわけで、どこまで町に影響があるかさっぱりわからないのだ。

そのデータもないままウィードからの移民を募ることは流石にできない。

危険すぎるというやつだ。


「そうなるとだ。行政関連と軍部関連から引っ張ってくるしかないな」

「まあ、その通りですが……」

「引き抜けるんですか?」


うん、二人の言う通り、人材という面ではどこでも枯渇気味だ。

どこから人を引っ張ってくるんだって話になる。


「……とりあえず相談してくる」

「お願いします」

「本当にお願いします。私たちじゃ、人なんて引っ張ってこれる権限はないですから」


だよなー。

いや、今回の件を知っているから駄目とは言われないだろうが、使えるかというと微妙なところだろう。

実績のない二人に付ける部下だからな。

相応の人物をということになる。

だが、俺が行けばそれなりにとなる……と思いたい。



「それで私の所に来たと……」


目の前には執務を止めて、不機嫌ですーって顔でセラリアがこちらに視線を向けている。


「そんな顔されても、必要な話だしな」

「それは分かるわよ。でもね、私に回さないでくれないかしら?」

「そんなことは出来ないな。総合庁舎の責任者、というか国の責任者はどう考えてもセラリアだしな。なあ、クアル?」

「はい。それは間違いございません」


クアルの答えにさらに不機嫌になるセラリア。


「わかってて言ってるわよね。私の許可を貰えば、ヘイトは私に向くって」

「ヘイトというか、人材の出し渋りは困るからな」

「それなら、あなたが直接エリスやラッツ、トーリたちに相談すればいいじゃない。あなたの権限だって私に次いでよ?」

「上に話を通さないとかまずいだろう。ちゃんと書類を頂いた方がいいに決まっている。だよな、クアル?」

「ユキ様の仰る通りですね。夫婦仲が睦まじく仲たがいなどありえないと私は言えますが、傍から見れば独断で動いているようにも見えかねません。こういう時の陛下からの書状、許可証は必要不可欠です」


うんうん、クアルはよくわかっている。

俺が許可を取りに来たのはそういう政治的な意味合いも含まれる。

まあ、一番の理由は……。


「はぁ~。正論過ぎてつまらないわ。とりあえず、私が割を食うんだし、妙な引き抜きはしないでよ」

「したくはない。だからこっちに来たんだよ」


そう、セラリアのいう妙な引き抜きを避けるためにもここに来たわけだ。


「まあ、ユキ様から直々の要請となると昇進云々の前に名誉と思うでしょうし。それに……」

「貴方って甘いものね~。それで職員がごっそり抜かれたらとんでもないというか、職員たちから恨まれるわよ」

「だからだよ。一筆にその手の懇意での昇進などはないって書いてくれ。あと、引き抜きの対象の人数の指定も」

「ああ、そういうことね。ここで制限をかけておけって話か」

「確かに、ユキ様についていくという部下を止める上司はユキ様に気を遣うでしょうし、言いにくいですね。そうなるとその作戦はよいかと」


ようやくセラリアたちは納得して書類を用意し始める。


「話は分かったけれども、どうしても若造ばかりになるわよ? 場所が場所だけに」

「周辺の脅威度が違いますからね。護衛の部隊は置きますし、監視はするのでしょうが、そこで熟練の職員を送り込むのは……」


うん、そこは難しいのはわかる。

熟練の職員を下手すれば失う可能性があるのは避けたいだろう。

まあ、そこまで心配はしていなくても、職務上そこまでの職員を引き抜かれるのはまず避けるだろう。


「そこらへんは、一時的な指導員として送り込んでもらえればとは思う。だが、シスアとソーナが実際にやってみてにはなるが」

「確かにそうね。あの二人とその部下たちがまずはやってみないといけないモノね~」

「当然ですね。確かに指導員はあった方がいいですが、最初は自分たちでやってみるべきでしょう。それがあの二人の糧になります。そういえばあの二人はどちらに?」

「今あの二人は港町の設計をやってる。人材の引き抜きに関しては俺の名前でやるから、俺だけで来たってわけ」

「なるほどね。まあ、あの二人が私のところの許可を取りに来ても、ちょっと微妙ね」

「私のように要求を押し通せるかというと難しいですね。どちらとも陛下や私のフォロー役でしたから。それに恨みが陛下やユキ様よりも向きやすい……」


だろうな。

あの二人が今までそこまで有名でなかったのはそういう所からだろう。

ちゃんと近衛隊としての立場を意識しての立ち回りをしていたわけだ。

下手に主張するのではなく、隊長というか女王であるセラリアとその副長、近衛隊長のクアルとのバランスを保っていたんだろう。

我侭暴走姫とそれを押さえて支える副隊長。

うん、バランスが大事だよな。


だからそんな間にいた二人が、この女王と上司の前に出てもちゃんと希望を通せるかというのが分からなかった。

まあ、できなくはないだろうが、最善とは言いにくいだろう。

どっちにも遠慮して、そこそこの許可証がだされて、人員は少なくなった可能性がある。

別に二人とも意地悪というわけではない。

ウィードでは今一番枯渇している人員だ。

さっきもセラリアが言ったように、下手をすると女王にだって恨み言が出かねないほどの人員不足。

つまり、引き抜きに来た二人にも恨みが向きかねないってこと。

そうなれば港町の運営が立ちいかなくなる可能性があるわけだ。


「そういうことを考えると、あなたが来たのは最善かしら?」

「さあ、これから俺に対して大反乱がおこるかもしれない。結果なんてやってみなけりゃわからないな」

「……ユキ様に対しての反乱ですか。うーん、思いつきませんね」

「そうね~……。あなたに対しての反乱って何があるのかしら?」

「いや、さっきの例え話だしな。まあ、起こるとしたら……美女を集めている暴君とかで?」


あるとすれば、実績のあるこれだろう。

俺の周りには美女を侍らせているからな。

この手の恨みは買っているのは事実だ。


「「あー……」」


2人も俺の言っていることは分かったのか、少し空を見て考えているようだが。


「うん。ないわね」

「ないですね」

「いや、実際に嫁さんたちの件でトラブルは起きているだろうに」


なんか速攻で否定されたので、俺としては否定しておく。

可能性はゼロではないのだ。

すると二人はしらーっとした顔で。


「そうね。確かにトラブルは起きている。モテない男どもの妬みはね」

「ええ。確かに存じておりますが、そのために反乱が起きるなら、ほかのことで反乱が起こる可能性が高いでしょう」

「あー……納得」


確かに、俺が美女を囲っているだけで反乱が起こるような状況なら、その前にほかのうっぷんで反乱が起こるよな。


「そもそも、美女を囲っているって言っても、仕事のためにってのが大きいのよね」

「いえ、事実仕事、政治のためでしょう。というか、そこで考えるなら囲っているのは陛下になっていますし」

「事実ね。ま、あなたが私の知らないところで、旦那がいるとか彼氏のいる女性を無理やり金や権力で奪ったとかいうなら話は別だけど……」

「そんな面倒なことはしない。恨み買う代表例だし、やっちゃいけない国家運営の一つだろう」


民の家財、そして命に手を出せば早晩に国は滅ぶってな。

何せ国の土台となる民衆を自分たちの手で踏みにじるんだ。

手足を自分でもいで食べているのと同じ。


「あっさりとそういうことを否定できるユキ様が美女を囲っているのに反乱が起きるわけないですね」

「むしろ、この手の女は基本嫌いよねあなたは」

「女っていうと言い方は悪いが、色恋、男女関係にはトラブルがつきものだしな。何より立場があればあるほど、被害も甚大になるから避けて当然」


せっかく作ったウィードを俺の女癖で潰すわけにもいかない。

何より、そんな胃が痛くなる環境にいたくもない。

物語とかでよくある、他人の女を取るとか、一緒に寝ることだって怖いだろうに。

死んででも刺し違える覚悟もあるだろう。


「と、俺への反乱はいいとして、書類はできたのか?」

「ええ。はいっと。クアル」


セラリアは雑談しながらもペンを動かしていて、書き上げたものをクアルに確認させる。


「……はい。確かに間違いございません。こちらをコピーして関係各所に配布しておきますので、そうですね、明日いや、せめて明後日に訪ねてみるのがいいでしょう」

「流石に今日は無理があるもんな」

「そうね。告知をして今日明日ですぐに決まるわけもないものね」


俺が許可をもらったとしても、いきなり訪ねても募集ができるわけもない。

各部署で報告と相談をして、希望や候補を絞る時間もいるだろうな。

何より、抜けた穴の対処もだ。

それを考えれば……。


「明後日でも難しくないか?」

「まあ、難しくはあるけれど、時間をかければいいってものでもないわよ」

「ですね。こういうのは時間を長く与えればいいわけではありません。これぐらいが最適でしょう」


と二人が言うので俺は納得して執務室に戻って港町づくりの準備を続けるのであった。


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