第1598堀:港町の設計について
港町の設計について
Side:タイキ
「……ということでな」
「なるほどー。そりゃ仕方ないですね」
「そうですね。これは私たちが最善でしょう」
急遽呼び出されて、なんだろうと思っていたのだが、ユキさんから聞かされたことを聞いて納得してしまった。
何せ……。
「港を作る。しかも防災、つまり災害に強いとなると、日本人が一番だろうな」
そう、タイゾウさんの言う通り、俺たちが集められたのは港を作るための案出しを頼まれたからだ。
「どうぞ、皆様よろしくお願いいたします」
「お願いします。私たちはどうしても、ユキ様のお話にはついて行けず……」
ユキさんの側には、今まで見たことのない女性が二人。
正統派騎士のような恰好。
まあ、それも事実。
何せクアルさん、つまりウィード近衛隊の人だからだそうだ。
港を作るうえで、管理する人がいるのだが、ユキさんのメンバーからはもう動かせないということで、クアルさんの部下の爵位持ちが転属してきたというわけ。
うん、いい加減人材不足だよなーとは思いつつも、ようやく部下からの昇進みたいな感じになって来たとも思う。
ウィードはあくまでも超狭い範囲の国であることはかわりない。
だからこそ、家族経営というと語弊があるが、一族運営ができていて、よそ者を迎え入れることはない。
それは必要でもあったからな~。
今のウィードの価値を考えると中枢に入り込んで、ウィードのかじ取りに意見できるようにしたいと思っている連中は山ほどいる。
悪意であろうと善意であろうと。
だから、なるべく身内で固めていたんだけど、今回の港の件でもう無理となって、身内には違いないけど、ユキさんの奥さんとかじゃなくて、クアルさんの部下を配置したというのが、決定的な違いだ。
これで多少、人不足の解決にはつながると思う。
勿論、今まで以上に防諜とかに注意しなくちゃいけないんだけどなー。
ランクスも本当に苦労している。
何せ、俺も王様やっているけど、ランクスでの知り合いなんてほとんどいなかったしな。
地方領主の選別とか、俺ができるわけもない。
と、話がそれたな。
俺たちが呼ばれたのはタイゾウさんが言ったように、港の防災に関してだ。
「シスアとソーナはロガリで暮らしているからな、分からなくても仕方がない。とはいえ、この場に一緒にいて、映像も見て災害時の被害とかをみて、防災の必要性を覚えてくれ」
ユキさんがこの2人を同席させたもの納得。
この2人が港を運営するんだから有事の、つまり災害時に何が起こるのかを把握していないとどうしようもないからね。
「それで、ユキ君。話は聞いたが港を作ろうとしている場所は、この地域で決定でいいのかな?」
タイゾウさんが場所の確認を改めてしてくる。
俺たちの目の前の空中モニターにはユキさんというかトーリさんとドレッサたちが調べた沿岸のマップが広がっている。
「一応、そのつもりです。今回の話し合いで駄目という判断が出れば変えるつもりではいます」
「なるほど。わかりましたが……正直な話、ユキ君もご理解していると思いますが、場所を変更するのは先ほどの話からすると現実的ではないですよね?」
「まあ、そうですね」
うん、ユキさんの話を聞く限りリテアの海側へと逃げた闇ギルドが潜伏して、ダンジョン化や辺りの掌握や戦力を整えることを考えると、ロガリ側でのんびりと土地の選定をしている暇はないよね。
まあ、こっちは幸いユキさんも同じようにダンジョン化は出来るから、構想、そして設計ができればDPがある限りあっというまに港は作れるから、建設によるロスは限りなく少なくできるからこその作戦なんだよね。
「ならば、現場の情報を見てどうするか、というわけだな。あとは、基本的な設計はそちらのシスア殿とソーナ殿が主導ということでいいか?」
「はい。少々災害に関しての知識がないので、その情報を与えてからということにはなりますが、その通りです」
「私としては、本来の領主であるユキ様が設計は行うべきだとは思うのですが……」
「私たちのためになるって、全部やってくれっていうんです。タイゾウ様たちから何とか言ってもらえませんか?」
シスアさんとソーナさんはちょっと困った感じで、こちらにお願いしてくる。
まあ、普通に考えればユキさんが所有する港になるんだから、ユキさんを中心に設計をするべきとは思うよね。
とはいえ、それだと知っているユキさんが作るということになる。
それは、シスアさんやソーナさんの力になりにくいと考えているんだろうね。
ま、外に色々考えてそうだけど今は言っても仕方がないし、ここは……。
「シスアさんとソーナさんの気持ちは分かりますが、ユキさんとしては防災の必要性を学ぶためにというのもあります。基本的にユキさんはもちろん、俺たちはいませんからね」
「タイキ君の言う通りだな。シスア殿、ソーナ殿は町を預かるんだ。いざという時は建物を破棄する必要性も出てくるだろう。その時にユキ君に話を通す暇もないだろう」
「ですね。その有事の際に、自由にやっていいのだと、思える状態にしておくのは必要でしょう」
「ふむ。なるほど」
「あー、まあ。それはそうですねー」
俺やタイゾウさん、ソウタさんの言葉を聞いて2人もようやく納得する。
言っていることも本当だしな。
ユキさんが作ったと思うと、部下のシスアさんとソーナさんじゃ簡単に放棄を決断できないだろう。
災害時にそれは致命傷だ。
だからそういうのを無くすためにもシスアさんとソーナさんが主導で作っていいわけだ。
「しかし、それほど災害というのは問題なのですか?」
「ですね。ユキ様も仰っていましたが、ロガリ大陸では魔物の災害以外は、基本的に聞いたことがありませんよねー。まあ、本当にごくまれに大雨による水害ぐらいですか?」
2人は町を作ることには納得しつつも、災害に対しては首を傾げている。
まあ、ロガリ大陸って基本的に魔物以外の自然災害って聞かないからな。
飢饉はあるけど、それって雨不足というより魔物の被害で畑が駄目になったりとかそういうのだ。
それだけこのロガリ大陸は安定しているんだろう。
いやー、よくよく考えれば日本ぐらいのもんだけどな。
あそこまで自然災害が多く起こるのは。
だって、地震なんて日常茶飯事だし、震度1、2なんて気にならないもんな。
「まあ、2人が分からないのも当然だ。だからこの映像を見せよう」
ユキさんはそういってモニターに日本で起きた地震と津波の災害を映す。
俺もよく見た有名な映像群だ。
大きな地震の後津波で町が飲み込まれていく様が映っている。
もちろん、このチョイスにもタイゾウさん、ソウタさん、そして俺も関わっている。
「「「……」」」
それを見たシスアさんとソーナさんだけでなく、ユキさんの付き添いや護衛としてついてきたプロフたちも絶句。
まあ、そりゃそうだよな。
魔物どころの話じゃない。
この手の災害は文字通り退治もできないからな。
何より、自分たちが目指すべき国と思っているユキさんや俺たちの国での出来事だ。
ここをはるかに超えた技術力を持ってしても自然災害は如何ともしがたいというのが嫌でも伝わっただろう。
「とまあ、色々感想はあると思うが、これに対して退避、あるいは阻止できるような港町を作ってもらいたい」
「「「いやいや……」」」
ユキさんの言葉でプロフたちも含めてそんな無茶なという顔をして否定してくる。
うんうん、気持ちはよくわかる。
でもね……。
「災害はいつかやってくる。というか、こっちの世界じゃ魔物っていう生き物がいて、海にはシードラゴンなどの巨大な生物がいるのも確認できているし、そのシードラゴンからはさらに巨大なリヴァイアサンとかいう腐った魚もいるという証言がある。その手合いが波を意図的に起こす可能性もゼロじゃない。だが、できようができまいが、港は作る。これは決定だ。それに際して無防備でいるか対策をしているかっていう話だ」
「「「……」」」
ユキさんの鋭い返しというか、事実を言うと全員黙るしかない。
そう、俺たちがどうしようが、災害というのは勝手にやってくる。
それに対して俺たちがどうするかという話なだけだ。
無残に蹂躙されるか、少しでも対策を取るか。
「……失礼いたしました。災害というモノを聞いてはいましたが、映像を見て想像を絶するものだったので呆けてしまいました」
「うん。ごめんなさい。これなら確かに対策を取らないなんて馬鹿だね。再建の費用だってただじゃない。何より人の命には代えられない」
我に返った2人はそうはっきりと答えた。
うんうん、流石クアルさんの部下ってところだね。
これは理解できないからとかそういう問題のレベルではないって理解したんだろうね。
まあ、魔物とか盗賊とかそういう連中と戦ってきたからこそそういう判断になったんだろうね。
これが日本の政治家とかならそもそも港を作らなければとか言いそうだし。
「理解してくれて何よりだ。じゃあ、これから港をどう作っていくか話し合おう。まずは必要な建物の前に、どこに町を作るかだな。シスア、ソーナはどこに作るべきだと思う?」
「……そうですね。先ほどの映像を見て疑問に思ったのですが、あれは最大規模の災害ということで間違いありませんか?」
「ああ、記録としては最大規模だな」
「そっかー。でしたら、あれを完全に防げというわけではないんですよね?」
「完全に防げるのが理想だが、まあ厳しいだろうな」
うん、あの災害を防ぐって地球の断層、地殻とかをどうにかするレベルの話だしな。
「でしたら、なるべく海から離したところに拠点を構えて、津波を軽減する壁を幾重かおいて、逃げる、或いは避難する時間を稼ぐというのがいいかと」
「だね。とはいえ、港の運営もあるから、船や海産物などを確保するための施設は海の近くに置く必要はある。今のところはこういう使い方かと」
シスアさんとソーナさんはそういって、港の使う土地を、一般が住む場所と、漁港、軍港という別の場所で分けて見せた。
俺たちはそれを見てから、どんどん話を進めていくのだった。
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