第1597堀:港を作る前に前提の確認

港を作る前に前提の確認



Side:ニーナ



「えっぷ」


膨れたお腹をさすって、執務室で休憩していると、ユキたちも戻ってきた。


「お帰り」

「ただいまーって、お前もなぜか食べてたよな?」

「そりゃ食べる。というか海の調査結果は私も闇ギルドを追っているんだから必要」


そう、ただ食べただけなら食事だが、あの場は新種の魔物を調べるための場所。

私はこのロガリ大陸で闇ギルドを探すという任務を請け負っている。

ということはつまり、沿岸に逃げた闇ギルドが海の魔物を利用することも十分に考えられる。

単純な戦力として、あるいはその素材を売り払って財源にするなど。

つまり、今回のことは絶対に必要なことだった。

しかし……。


「とっても美味しかったのは事実」

「……そうだな。意外と美味かった。なあ、みんな」

「はい。とても良いお味でした。ラッツ様も喜んでいましたし、財源としては十分かと」

「プロフさんの意見に同意ですわ。あれだけ美味しいのですから」

「……ん。捕った魔物たちはどれも美味しかった……」


そう、プロフやサマンサ、そしてクリーナの言う通り、海で捕れた魔物はかなり美味しかったのは事実。

私としては刺身と天ぷらが良かった。

勿論焼きも煮込みも美味しいけど、素材の良さを引き出すには工程が少ない調理法があっている気がした。


「……じゃなくて、研究対象としてもとても興味深い。あとは、ナールジアさんたちが素材をどう利用するのかを期待」

「ナールジアさんたちもご飯を食べながらも気合を入れて調べていたからなー」

「傍から見ている私たちからは妙な動きでしたわよ」

「……ですね。おわんとお箸を持ったまま素材の周りをまわっているのを見ると、何かの儀式かと思いましたよ」


サマンサやジェシカの言う通り、あの姿は変だった。

食べるのと調査を同時にこなしていたって感じ。


「あとは、ルルアたちが血肉を中心に持って帰って薬に転用できないかって調べているな」

「そういえば聞いたことがあります。魔物などの素材には魔力が豊富にあるので、それで薬や武具に使うと効果が上がるとか」

「そうだな。オレリアの言う通りだ。素材が内包している魔力が多いから、色々加工ができるみたいだな。新しい薬とかができるかもしれない」

「それなら、闇ギルドがいる場所がわかる薬が欲しい」


私は素直にそう言ったが……。


「そんなのが出来れば嬉しいな。とはいえ、俺たちには便利グッズができるのを待っているのほどのんびりは出来ない。海の魔物の一次調査は終わったし、これから港に関しての話を進めるぞ」


ユキがそう言って、全員の顔が引き締まる。

まあ、その通り。

そんな希望をただ待つなんて余裕はない。


「しかし、ユキ。まだ調べたのは予定地の一つですよ? そこに港を作るのですか?」

「そこまで性急な話じゃないが、魔物の強さは分かっただろう。あれを平均と考えると、下手に弱い所を探して作っても……」

「……他の地域に足を延ばすことができない。というかむしろ弱い地域が怪しいってことになる」

「クリーナの言う通り。あの地域が平均とすると、あそこを平然と治める方法を模索しないとどこにも港は置けなくなる。弱い地域については、何か守護となるものがいるのではという疑問もある」


確かにそうね。

と、思っていると、リュシが手を上げて。


「その場所だけが強いという可能性はないのですか?」

「あー、まあ突出して強いという可能性はあるが、ロガリ大陸では基本的に沿岸に国は作れない、住めないっていうのが定説だからな。つまり……」

「海の魔物が弱い可能性は低いということですね」

「そっかー……」


うん、海の魔物が弱いというのであれば、もっと沿岸に町ができていて情報が集まっている。

地域によって魔物の強弱はあるとは思うけど、町や村が出来ていない時点で、普通の人が暮らすには厳しい環境、つまり魔物が強いということが分かる。


「さて、ということで魔物の強さが分かったわけだが、ここを平均として考えてどう港を作るべきかってことだが、シスアとソーナはどう思う?」


ここでユキは話をクアルの近衛隊から異動してきた二人に話を振る。

この2人も先ほどの魔物調査にはついてきていて、しっかり食べている。

まあ、そこはいいとして、この2人もこれから作る予定の港で代官をする予定なのだから、こういうことを考えることは必要不可欠だろう。


「そうですね。情報が少なすぎて何とも言えませんが、今分かっている魔物の強さを平均にするのであれば……どうしても周囲の掃討は必要ですね。そうでもしないと一般人が住める環境ではありません」

「私もシスアに賛成ですね。とはいえ、野生となるといつでも発生するのでしょうから、危険地域には近寄らないなどの警告を発することと、周囲に護衛や巡回の兵士を置くぐらいですかね? 海に関してもシーラちゃんたちの部下を置けば港の湾ぐらいは行けるのではないかと」


ふむふむ。

今のところはそれぐらいしか言えないわよね。

別に敵が強い弱いにかかわらず、基礎的な対応方法。


「そうだな。それが基本になるだろうな。あと付け加えるのなら港を出入りする船に関しては、一定以上の条件が必要って感じか」

「そうですね。小型の船なら粉砕すると聞いていますし、人を餌としか思っていませんからね」

「うんうん。その魔物たちを倒すぐらいは必要だよねー。つまり、試験とかもいるかー。うわっ、なるほどこういうのを先にやっておけと?」

「まあ、出来ることがあるならな。魔物をダンジョン産として出現させて訓練させることはいいが、どこからそういう人材引っ張ってくるかっていう話にもなってくるしな」

「……なるほど。そういう基本的なところからですか。確かに、何も決まってはいませんでしたから、どこから手を付けていくべきかと悩んでいたところです。ユキ様はこうなると分かっていて連れていったのですか?」

「うーん、どうだろうな。正直わからん。人材確保についても魔物の強さが分かっても、確保できるかというと微妙だしな。立てる必要がある建物の選別もいるし、どこから手を付けるかって話だな」


うん、港を作るとか簡単に言っているけど、町と同じ。

いや、むしろ海という環境がある分、下手な町よりも色々面倒になる。


「そもそも、港の設営は大前提として、海での漁獲の目的は二の次ですよね?」


プロフがそう確認を取る。


「ああ、沿岸を調査するためなのは、闇ギルドの発見のためが第一だ。魔物の調査とか漁獲に関しては、表向きの理由だな」


そう、今言われて改めて思い出した。

裏と表向きの理由。


「ふむ。プロフさんの言いたいことはわかりました。まあ、二の次としてもやらなくてはいけませんが、魔物の強さが分かったのですから、言い訳は立つということですね」

「あー、そっか。魔物が強いんだから、漁ができるまでには時間がかかるって話か。港を作るにしても、船でわざわざ広範囲の海域を調べなくてもいいってことか」

「その通りです。確かに理想の地形というのはあるでしょうが、そこはユキ様のお力で環境を整えられます。ドレッサ様たち海軍の拠点を作るというのが先ではと思ったのですが、いかがでしょうか、ユキ様?」

「まあ、一つの手段ではある。今回のことで港を作る際の調査には沿岸の陸地部隊と、海の中を調べる二部隊がいるのが分かったからな。一か所を調べるのにも時間がそれなりにかかるのが分かったってのはありがたいことだよな」


なるほど、表向きの理由を盾にして、さっさと港を作ってしまおうっていうのがプロフの意見ってことか。

確かに適正なところを調べるとなると時間がかかるのは当然。

だけど、港を作る本当の目的は、闇ギルドを追跡するため。

敵の移動したルートを霧華たちの諜報員たちが追っているけど、やっぱりリテアの沿岸が怪しいと報告が来ている。

つまり、いくらロシュール沿岸の調査をしても意味がないとは言わないけど、本当の目的からそれているし、時間が大事というのもある。

後手に回っては被害が大きくなりかねないから。

そして、それは代官であるシスアとソーナも理解できたようで。


「確かに、港を作るというのは建前上はロガリの海岸と海の調査ですが、本当の目的は闇ギルドの追跡ですからね」

「ですよねー。とはいっても、簡単に作ってしまえばそれはそれで怪しまれないですか?」

「ああ、ソーナの言うとおり怪しまれる可能性も十分にある。だからそのバランスだよな。正直な話、ドレッサたちの補給拠点とか言ってはいるが、空母からのゲート移動は可能にしているし、補給が出来ないとかそういうのはない。とはいえ、そんな性能があると知られるのもまずいというのもある」

「あはは、確かに見た目無補給でずっと運用できる船があるなど、世間に知られればどれだけ騒ぎになるか」


ジェシカが空笑いしながら答える。

確かに、このロガリだけでなく、イフ、ハイデン、ズラブルでもこの存在がバレればかなりの騒ぎになるのは目に見えている。

とはいえ、空母クラスの巨大艦が必要なんだけど。


「えーと、あの、そもそもな話、港が出来てないのに、船が浮かんでいる方が怪しくないですか?」

「「「……」」」


ヤユイの言葉に全員そりゃそうだって感じの顔になる。


「まあ、ユキのようなアイテムボックスを使ってっていうのは簡単だけど……」

「いやー、流石に空母規模の大きさを出し入れするとなると……知っている大国はともかく、小国たちは騒ぐだろうな。運搬やれとか……」


ユキはげんなりした顔をしている。

確かに大型船までも簡単に輸送できる力とか、どこの国でも利用したいだろう。


「ウィードの立場を考えると絶対言い出しますね。フィオラ様には悪いですが例が存在していますし」

「あはは、プロフの言葉に反論の余地もありません」


フィオラはユキというか、ウィードに水不足の解消に来て、それを解決してもらった実績がある。

それから水をという国は多いが、色々な制約、契約、特に王女であり将軍であり、国の中核でもあったフィオラを表向きメイドとしてウィードに取られるということにしてものすごい犠牲が必要だということにしたので、なんとか要請は払いのけられている。

普通なら無理な願いを聞き届けた結果というやつ。

だからフィオラは何とも言えないってこと。


「フィオラの件は仕方がない。下手をすると戦争だったしな。今回のことは闇ギルドを追うってことがあるから、ばれるわけにはいかないっていうのがある。となると、早めに港を建設する方が吉か」

「はい。そのように思います」

「私も賛成です。となると今回調べた場所を港にするってことでいいですか?」

「だな。トーリやドレッサたちには、名目上色々周囲を調べてもらうが、建設地はそこで決定だ」


ということで、港の建設場所はあっさりというか諸事情で決定せざるを得なくなったわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る