第1596堀:釣った魚たちのお味は?

釣った魚たちのお味は?



Side:ルルア



私たちがドレッサたちから頼まれた毒持ちの魔物の調査を終えて、冒険者ギルドを訪れると……。


「よーし、これはどうする?」

「そうですねー。ひとまず、刺身と、焼き、後は鍋がいいでしょうね」

「なら、ユキ君に任せるぞい」

「わかりました。ほら、他のみんなも料理は出来るだろう、食材が傷む前にやるぞ」

「「「おー」」」

「ナールジアさんたちは、調査用の素材の管理や肉や血の保管をお願いします」

「任せてください。さあ、皆さんがんばりますよー!」

「「「おー」」」


そんな感じで、新種発見の会議や調査というよりも、お祭りの状態で、ついでには……。


「あら~、凄くいい匂いね~」

「うん、なんかお腹が空いてくる」

「……本当ですね」


リリーシュ様やハイレンの言う通り、この空間には物凄くお腹に語りかけるような香りが漂っています。

具体的に言うのであれば、美味しそうな焼けた魚の香りです。

ごはんと日本酒があれば、さぞかし美味しくいただけるのでしょうと……。

そう思っていると、旦那様が私に気が付いたようで。


「ルルア。来てたのか」

「はい。毒の箇所や成分が分かりましたので、こちらに来ました」

「ありがとう。面倒をかけたな」

「いえ」


魚介類をさばいているせいか少し生臭いのですが、その笑顔は何も曇りはありません。

楽しく仕事をしているようで何よりです。


「それで魔物たちはどこに置いたらいいかしら~?」

「流石に同じ場所はまずいでしょ?」

「ああ、そうだな。えっとまず最初に聞くけど、溶けるような毒か? それなら普通にまな板とかは無理そうだが?」

「ああーそういうのはないわよ~。神経毒とか、魔力阻害毒ね~」

「症状は主に、麻痺、方向感覚の欠落、痛覚の遮断、魔力に関しては魔力を上手く使えなくなるって感じね」


調べて分かったのですが、意外と魔物の魚たちが持っている毒は強力なものです。

とはいえ、旦那様が言うような相手に吹きかけて溶かすようなものはありません。

なにせ水中ですから、毒素がすぐに薄まってしまうこともありますが、水中だと相手に噴霧するというのが実質不可能です。

そこまでの水圧で放つのなら、そのまま攻撃してしまった方がいいですからね。

なので体内に注入して敵の動き、抵抗を弱める物が多いですね。

そうして獲物を食べるわけです。


「なるほど。ま、毒霧を撒いたところでって話か」

「そうね~。水の中で生きる生き物って意外と水質の変化には敏感だし、空気みたいに拡散はしないのよね~」

「うんうん。そういうこと。で、さっきからいい匂いがするんだけど、食べるの?」

「そりゃな。素材だけはぎ取って、肉質とかは処分する前に食えるか確認だ。ラッツも呼んでいるし、これも財産だよ」


なるほど、ただ美味しいお魚を食べるための会ではなかったのですね。

ふう、それならば……。


「でしたら、私たちも同席してよいでしょうか? いい匂いですし、私たちが知らない毒での症状が出るかもしれません」


ちょっと無理があるかとは思いつつ、旦那様にそう提案をすると……。


「ああ、助かる。この手の初めての食べ物はアレルギーもわかったもんじゃないからな」

「そうよね~。アレルギーだと本当にわからないもの~」

「いい加減、アレルギー検査とか導入しないわけ?」

「導入する前に、知識が俺にはない。何をどうすればいいのか、なんとなくはわかるが、具体的には知らん。ハイレンはわかるか?」

「そりゃーわかるわよ。基本は血液検査でしょ、後は皮膚の反応とか……」

「その血液検査の機械、あるのか?」

「ないわよ」

「……それの使い方習熟とかどれぐらい一日で検査できるとか、わかるか?」

「全然」


えーと、ハイレンの答えに私もリリーシュ様も苦笑いをするしかありません。

事実なのですが、この状態で導入しろとはとても言えませんから。


「はぁ。とはいえ、あった方がいいのは事実だ。ルルアとリリーシュたちも忙しいとは思うが、アレルギー検査の話、まとめてみてくれるか?」

「わかりました」

「いいわよ~。いずれ必要だとは思っていたし~」


旦那様から提案されたとなると、予算の心配はいりませんね。

私たちもアレルギーに関しては調べていたのですが、病院の予算的には難しかったのです。

量産の指定された種類を調べる機械はそこまででもないのですが、なんでも調べられるタイプは値段が跳ね上がりますし、その使い方はもちろん、病院の職員に教えるという手間もありますから、その補填などを考えるとものすごく色々な手続きはもちろん費用も掛かるわけです。


「まあ、忙しいのは分かっているし。無理はしない程度にな」

「はい。アレルギーの件は無理をせず進めさせていただきます。それで、今から食べる魔物というのは?」

「ああ、そうだった。オレリア、資料を渡してくれ」

「はい。こちらになります」


横に控えていたオレリアが私に、ホービスがリリーシュ様に、ヤユイがハイレンに渡してくれます。


「うげっ。なんかこれ食べられるのって感じのがあるんだけど?」

「あはは~。なんかエビみたいね~」

「あ、そうか。エビって言われると似ているわね。ぱっと見ムカデかと思っちゃった」


どうやら、このエビに似た魔物を見ての感想のようです。

確かに、エビというよりもムカデの方がイメージが先に立ちますね。

私も先にリリーシュ様に言われなければ、顔をしかめていたでしょう。

とはいえ、ムカデは意外とその毒性もその身も薬剤として扱われることもあるので、一概に嫌われているというわけではありませんが。


「まあ、気持ちはわかる。むしろ美味しいかも不明だしな。誰も食べたことがないものだ。毒は無いっていうのは確認できているし、感知できないものに関してもここに医療専門者が3人もいるから何とかなるだろう」

「うげっ、私たちって毒味?」

「でも~、香りからするととても美味しそうよ~」

「そうですね。ハイレンは無理して食べる必要はありませんよ。全員毒になってしまっては治療も遅れるでしょうし」


嫌味ではなく純粋に誰かが食べなければ安心できるという意味で言ったのですが……。


「いや、私も食べる。ルルアひどいよ。そう言って私を除け者にする気?」

「いえ、そういうつもりはないですよ」

「そうだ。ルルアがそんなことを考えるわけないだろう。俺なら考えるが」

「何をー!? 相変わらずそういう所は意地が悪いわね!」

「そう思うなら、普段の自由奔放をどうにかしろ。ということで、ほれ」

「ふぐっ!?」


旦那様が私に絡んだハイレンの注意を引き受けつつ、そのまま何かを口に突っ込みました。

流石のハイレンも口に食べ物が入っている状態で文句を言うことはなく、そのまま咀嚼をはじめます。


「ほら、ルルアにリリーシュも」


差し出されたのは、何かを天ぷらにしたものです。

なるほど、これなら元の外見などは気になりませんね。

ということで、さっそくお箸を持って、天ぷらを素のままでまずは一口。


「あら~。美味しいわね~。でもこれって似た感じのを食べたことがあるような~」

「ですね。私も覚えがある味です。旦那様この天ぷらの素材は?」

「ん? ああ、今話題に上がっていた、エビ、というかムカデというか、アノマロカリスというか」

「あれなの~? やっぱりエビっぽいのね~。まあ、でも独特の風味があるというか~」

「そうですね。私たちが食べたことのあるエビと比べて、なんというか厚みがあるような気が?」

「そりゃそうだろう。この新種のサイズは8メートルクラスだからな。その分中身も多いってわけだ。しかし、美味いんだよなー。地球じゃこういう大きい生き物は、アンモニアなどの成分が多くて食べ辛いって聞いたんだが、まだサイズが小さいからか? ダイオウイカとか数十メートルクラスだしな」


……私が言うのもなんですが、本当に地球の人たちは魔術もないのに、よく見知らぬ生き物を口にしますね。

逞しいというか、恐ろしいというか。


「うまーって、ユキ! あんた食べられないようなものを口に入れたわけ?」

「いや、香りからして食えるっていうのは分かっていたしな。そして食べづらいってだけで、食えるから嘘は言ってないからな」

「むきー!? なんでそんなに口が回るのよ! ソウタでもあるまいに!」

「いやー、ソウタさんと同じ国出身だしなー。それに美味かったんだろ? それとも味見やめるか? 止めないぞ?」

「食べる! あと、ご飯! それと塩と天つゆ!」

「あいよ」


文句を言いつつもハイレンは旦那様に要求して、がつがつと天ぷらの山を食べ始めます。

そして、その欲求をあっという間に飲んで、取り出すのも準備がいいというか、本当にどうなっているんでしょうか、旦那様のアイテムボックスは?

食料品はもちろん、完成した料理がずらっと……スウルスの旧ヴィノシアではスープ物が確か入っていましたね。

ということは、きっと他の食べ物が入っていても何も不思議ではありませんね。

なんというか、いつも思うのですが貴重品どころかこういう食料品も入れているのは旦那様たちぐらいでしょうね。

そんなことを考えていると、旦那様がこちらに振り向いて。


「ルルアとリリーシュも塩とか天つゆとか、何か希望はあるか?」

「それなら~、私は塩と天つゆ~、あとごはんといかの塩辛に~、お味噌汁かしら~」

「私も同じものを」

「了解。でも、天ぷらだけじゃないから、そんなに食べて大丈夫か?」

「いいのよ~。おなかが一杯になれば、また後で食べればいいんだし。取っておいてね~」

「無理でなければ私も同じようにお願いします。食べた後は皆さんの経過観察をしますので。まあ、殆どが食べ過ぎになりそうですが」


私はそう言いつつあたりを見回すと……。


「美味しいわね……。油断ならないわ」

「流石、強力な海の魔物ということですね」

「ドレお姉もヴィリお姉も食べながら言ってもただのおバカに見える」

「おいしーねー」

「そうね。これなら十分に売り物になると思うけどどう?」

「十分ですね~。これならシーサイフォやオーレリア、あとはイフ大陸から持ち込まれる魚介類とはかぶりませんしいいですねー」

「いやー、日本酒があうのう~」

「ですねー。これは美味い」

「いや、グランドマスターにギルド長が仕事で飲んでどうするんですか……」


そんな風にワイワイ沢山食べているみんなの姿があります。

というか、ラッツはいつの間に。

あと、キナさんはご苦労様です。


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