落とし穴外伝:2024年明けスペシャル SHINOBI

2024年明けスペシャル SHINOBI



Side:タイキ



「うきゃー!?」


そんな悲鳴と供に……。


ドポーン!


水に落ちる音が辺りに響く。

つまり、人が水の中に落ちたわけだ。

だが、慌てる人はおらず。


「「「あー……」」」


という、残念そうな声が響き……。


『おーっと! びっくりだ! 何と序盤も序盤でジェシカが落ちた~! そして思ったよりも叫び声がひどかった~!』


ミコスの絶叫ともいえる実況が届く。

そう、先ほど水の中に落ちたのは、ユキさんの奥さんの一人であり、軍事も預かっていて決して運動神経が劣るわけではないのだが……。


「大きな胸が仇になったな」

「普通はセクハラの言葉なんですけど、マジでそうでしたね」


そう、ジェシカさんが落ちたのは大きな胸のせいだ。

彼女がジャンプしてつかみ、上りに行ったローラー坂、そこで一番に接触したのは胸だった。

そして、ローラーが回転してしまい、踏ん張りがきかずそのまま水に落ちたわけだ。


「というか、なんでSHINOBIやっているんですか?」


色々コメントはあるが、その前に、なんで日本でよく年末にやっているアスリート番組をここで再現しているんだという疑問をぶつけた。


「ルナが年末のテレビ見て思いついたみたいでな。俺は、魔力による身体ブーストがあるし、獣人たちとかは基礎身体能力が違うから無理だっていったら……」


『そんなのは魔力封じすればいいわ。そうなれば獣人たちも身体能力も落ち着くわよ。あれも魔力ブーストがかかっているんだから。ほぼ同じ体格で、出力がそこまで違うわけないじゃない』


「って、返された。まあ、言っていることは道理だった」

「それで、設置したわけですね」

「ああ、それで誰が見返りもないのにやるんだよって言ったら」


『何を言っているのよ。私がいるのよ。大抵の褒美は与えてあげるわよ。ということであのアスレチックSHINOBIをクリア出来たらご褒美上げるわよ! そしてあの程度クリアできないとかないわよね!?』


「そのあおりで、嫁さんたちや部下も参加になったわけだ。もちろん、魔力での身体強化が無くなるから、別の練習用で多少はやったんだが……」

「え? 練習用があってジェシカさん落ちたんですか?」


そう聞いていると不意に後ろから……。


「いえ、あるにはあったのですが、その時は運よく胸がローラーの隙間に行きまして……」


ずぶぬれになったジェシカさんがタオルを首にかけたままやってきていた。

白いTシャツにジャージズボン姿なので、シャツが透けて大きな胸が見えている。

普通なら、もっとウハウハになるんだろうが……。


「ルナ様、もう一度挑戦を!」

「んー? ああ、別にご褒美云々は抜きになるけど、後で自由にやっていいわよ」

「ありがとうございます!」


なんか、軍人というかアスリートの顔になってそういう気持ちは吹き飛んでいる。

何より、ユキさんの奥さんだし。


「意外と負けず嫌いなんだよな」

「軍人として、命令には従いますが、負けて悔しくないわけではないので。再チャレンジです。というか、胸はやっぱりこういうことには向いていないですね。まさか、ローラーに接触して回してしまうとは」

「流石に鎧をつけるわけにもいかないしな」


うん、ユキさんの言う通りだ。

鎧なんてつければ重しが増えるだけだしな。

と、そんなことを話していると……。


『おっと! ここで初クリアがでたー! トーリだぁー!』


そのミコスの声に振り返るとそこにはトーリさんがゴール地点て手を振っていた。

おお、あの難易度をクリアしたのか。


「胸がないせいでしょうか?」


真っ先に出たジェシカさんの言葉にどうしたもんかと顔を見合わせるが、そこは流石旦那であるユキさん。


「別に胸ってわけじゃないと思うぞ。もともと細身だしな。ジェシカは騎士だし、トーリやリエルは斥候タイプだからな。そこの違いだろう」

「で、ですよね。身軽さの違いですよ」

「そうですか?」

「そうだよ。というか、胸のせいだとして、どうするんだよ? 俺はその胸も含めて好きだからな。不慮の事故でもない限り、胸を削るとかするなよ?」

「ユキがそういうならしませんとも。自慢の胸でもありますし。とはいえ、クリアはしたいですが」


フォローしてもらってもやはりクリアはしたいらしい。

まあ、その気持ちはわからないでもない。

とはいえ、身体能力が制限されているだろうしな~。

そんなことを考えながら見ていると……。


「クリアするのです!」

「がんばれーフィーリアちゃーん」

「がんばりなさーい」

「怪我には気を付けてー」


そんな声とともに、なぜかフィーリアちゃんが出場していた。


「え? 体格的に無理でしょ?」

「そう? 別に重量挙げ系があるわけじゃないし、行けると思うわよ?」


ルナさんにそういわれてみてみると、確かに体が小さいからと言ってクリアできないような障害物はなさそうだ。

とはいえ、心配なのは変わりないので、見ることはやめない。

改めてコースを確認する。

最初は下が池の壁蹴り4回。


「よっ、ほっ、なのです!」


ここは体が軽く、身のこなしもあるフィーリアちゃんは簡単にこなしていく。

そして次はジェシカさんがおちたローラー坂。

とはいえ、フィーリアちゃんにとっては彼女以上の大ジャンプを試みなきゃいけない場所だ。


「とう!」


でもフィーリアちゃんは恐れなく飛んでいく。

だが、着地地点は、ローラーとローラー間ではなく、ローラーの中腹ど真ん中だった。

これは滑ると思っていたが……。


「ほい」


あれ?

ローラーが回ることなくフィーリアちゃんはそのまま上っていく。


「なんでローラーが回らなかったんです?」

「ああ、あれは上下に力がかからず、中心に押し込んだんだろうな。そうすれば回転はしない」

「あー、そうか」


言われてみればその通りだ。

ローラーを回さない方法はそれがある。

とはいえ、簡単ではないけど、フィーリアちゃんは体が小さいからその分軽いからローラーにかかる負荷が少ないから回り辛くはなるんだ。


『フィーリアちゃん、ジェシカが落ちたところを悠々と超えていく! だが、次はジャンプ力が必要な場所。対岸まで届くのか!』


ミコスの言う通り、ローラー坂を超えたのはいいが、そのあとは結構距離のある対岸へのジャンプだ。

いや、これって……。


「フィーリアちゃんの体格じゃきついんじゃ?」

「普通にきついとは思うが、いけない距離でもないんだよ。ほら、タイキ君がキツイって言っているだろ? 無理とは思わないだろ?」

「あー、確かに」


無理とは思わない。

体の使い方を知っている子ならやれるとは思う。

そう思っていると、フィーリアちゃんは位置取りを決めて、ローラー坂の下り坂の意外と中腹から……。


『とんだー! 届くのか! 届いた!』

「「おー」」


フィーリアちゃんが対岸に見事着地したのは、俺もユキさんも驚きの声を上げた。

ちゃんと全身をばねにして飛んだのだ。

そして無事に着地。バランスも崩さず次の障害物へと向かう。


『次は一本吊りスライダー! タイミングよく着地することが求められます!』


ミコスの言葉の通り、フィーリアちゃんの目の前には一本のロープが下がっており、そして水路の先にポツンと陸地が存在している。

ロープの上が滑車のようになっており、人が乗ればそちらに進むというわけだ。

これは、身体能力も必要だとは思うが、タイミングが一番重要だろう。

なぜなら。


「いくのです!」


そういってフィーリアちゃんがロープにつかまり、滑車が速度を上げて進んでいくのだが……。

思ったよりも速度が速い、あれじゃ……。


「とうっ!」


掛け声とともに、フィーリアちゃんは手を離す。

着地地点は見事にど真ん中。

多分狙い通りなんだろうが……。


「にょ!?」


どぽーん!


速度がついていて、踏ん張れず水路に顔面から突っ込んでしまった。


「あらら」

「フィーリアちゃーん」

「タオル用意しないと」


ラビリスちゃんたちは急いでフィーリアちゃんが上がってくる位置へと走る。


「魔力による補佐がないからな。慣性の法則が働きまくるからなー」

「ですねー。まあ、でも楽しそうですけどね」


水路から上がってきたフィーリアちゃんは笑顔だ。

それを迎えている3人も、そしてそれを見ているみんなも。


「正月の余興にはいいだろうさ」

「ですねー」

「何のんびり楽しんでるのよ。あんたたちもいきなさい」

「「は?」」


この手のアスレチックは見ているのが楽しいのであって、自分でやるのは……。

濡れるし。

何より、ご褒美とかもらってもなーと思っていたんだが。


「ほらほら」


有無を言わさず出発地点へと押し込まれ。


「あなたー頑張って」

「タイキ様頑張ってください!」

「二人とも無理はせずにな」


セラリアさん、アイリ、そしてタイゾウさんからの声を受けて引けなくなったわけだ。

それで、結果はというと……また次回?でいいのか?


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