落とし穴外伝:2023年末スペシャル ただいま今年最後の16時

落とし穴外伝:2023年末スペシャル ただいま今年最後の16時



Side:ユキ



本当に気が付けば、今年は最後の日となっている。

時刻は16時であと8時間で新年となる。

そんな年の瀬に何をやっているのかというと……。


「ほぅ、炬燵はあったかいわ~。とろけるわ~」

「わかります。外は寒いですから」

「寒かったけど、楽しかったよね~」

「みんな、年越しでワクワクなのです」


そんなことを言っているちびっこ4人組を見ながらお茶の用意をしているわけだ。

幸い、今年も俺たち政務者たちは何とか部下をつかって年末の前に大きな仕事は終わらせ、今日という日をのんびり自宅で迎えられたわけだ。

もちろん、現場に向かわなくてはいけない行政のメンバーたちはいるが、俺はそれに当てはまらなかった。

何せ王配だからな。

ほいほいと現場に向かえばそこが混乱してしまう。

こういう時だけは感謝しよう。

まあ、年明けはあいさつ回りで忙しくはなるんだが、そこは今は考えないようにしよう。


「おつかれさん。外の様子を見てきたんだよな?」


俺はそういって淹れたお茶をみんなに出す。


「ありがと。まあ、そうね。私たちは見ての通り学生で子供だから、動き回るのにちょうどいいし」

「大人が下手に関係各所に行くと、目が痛いですからね」


確かに、忙しくしているところに、仕事のない大人が行くというのは、あまりよろしくない。

殺意の目で見られるだろう。

まだ、これが商店街とかなら買い手と売り手で済むが、ほかの工事現場とかそういうのになると、本当に目が痛いからな。

視察と言っても、人をつけないといけないし、邪魔でしかない。

その役目にされた人はひどく胃が痛くなるだろう。

かといって、家に残っているラビリスたちとは違う大人の嫁さんたちは、ウィードにおける重臣たちだ。

視察された側が逆に胃が痛くなるだろう。

だからこそ、容姿は子供であり、ちゃんと視察もこなせて、周りが気にしないとなるとラビリスたちが適任だったわけだ。


「ちゃんと、ばれないように隠密だったよ~」

「ナールジア姉様の秘密道具がうまくいったのです」


そう、ラビリスやシェーラ、アスリン、フィーリアもウィードの重臣だ。

だから、その姿が見えないように光学迷彩装置をつけての秘密視察だったわけだ。

それならほかのメンバーでもいいじゃないかってなるが、ほかのメンバーは自分たちの部署の仕事でピリピリしている。

つまり子供たち以外は空いていないわけだ。

もちろん、俺のように家で待機しているメンバーはいるが、何かあれば即時動けるようにという意味もある。

つまり、視察なんぞに行っている暇はないということだ。

だから、ラビリスたちに白羽の矢がたったのだ。

もちろん、外で遊ぶというのも含まれてはいるが。

その証拠に……。


「お兄ちゃん。はい、お土産」

「たこやきとたい焼きなのです」

「ありがとう」


年末に出現する屋台で持ち帰りできる食べ物の定番と言えばこれだよな。

ある程度温かさも持つし、俺たち以外の人も買うだろう。

寒い時にはなおのこと。

まずは、たこ焼きを一つ、つま楊枝で刺して口に運ぶ。


「あふあふ……」


アスリンたちはアイテムボックスに入れているので時間経過がなく、思ったよりも熱かった。

それを見てラビリスたちも笑っている。


「あらあら、落ち着いて食べなさいな」

「お水いりますか?」

「いや、大丈夫だ。あー、出来立てのたこ焼きは侮れないな」


俺はそういいつつ、お茶を飲んで口の中の熱を取る。

やけどにはなっていないな。


「はふはふ、たこ焼きは危険だよね~」

「はふはふ、口にすぐ放り込みたくなるから、兵器なのです」


二人の意見に同意だな。

美味しいからすぐに食べたくなる。

そしてやけどのコンボだ。

これは兵器と言ってもいいだろう。

と、そこはいいとして……。


「見てきた感じはどうだった?」


そう、本題はウィードの状況だ。

別に秘密組織が年末年始に合わせて動いているとかそういうのは無い。

ただの様子見ってやつだ。


「いつもの年末って感じね。慌ただしく動いているわ。まあ、その顔に不幸は無いけどね」

「ええ。新しく新年を迎えるために、良い明日のためにですね」

「あとね~。仕事が終わったら飲みにいこうって言ってたよ~」

「今日は早めに終わるんだーって言ってたのです」

「そらよかった」


現場もちゃんと年末は仕事は早く終わる予定か。

これがいつもの時間帯までならまだしも、年越しまで働くとなると辛いからな。

もちろん、トーリとリエルがいる警察は年末年始も夜番もあるというか、むしろ年末年始は人でごった返すから、警察は大忙しだ。

冒険者ギルドもダンジョンへの探索者などは減るが、町での仕事が大幅に増えるためそちらの対応が物凄く忙しい。

比較的暇と言えるのはシェーラのような外交官の立場のメンバーか。

それでも年始の調整とかがあるので、楽かというと違う。

カグラとかミコスは今頃キャリー姫のところで年始の打ち合わせをして胃が痛いことだろう。


年明け後の、各国の挨拶と今年の方針とかを話し合うのだから、下手をすると、いや下手をしなくても物凄く胃の痛い各国のしのぎ合いが始まるわけだ。

その中で矢面に立つ外交官組の苦労はとんでもないものがある。


と、そこはいいとして……。


「町中、商業区とか、居住区とかはどうだった?」

「そっちは平和そのものね。子供たちは走り回っているし、奥さんたちは掃除をしていたり買い物をしていたり」

「いつもの福袋の相談とかもしていましたね」

「1日に開店しているお店は限られたから助かったっていっていたよ~」

「まとめてやられると回れないのですからフィーリアたちも助かったのです」


どうやら、一般世間は平和その物らしい。

あと、年始の福袋販売については、何と1日の販売は再開されていた。

まあ、もともと1日は休もうというのは休みがないお店で働く人に対してだった。

とはいえ、お店が休みだと困る人がいるのも事実であり、人が殺到する理由は福袋ということで、休みをちゃんと取らせることと、日にちをわけて福袋の販売する店舗の数を調整することで混雑を避けることで一応の解決を見たということだ。

まあ、福袋のために徹夜で並ぶ人がこちらにもいたというのが驚きだ。

どこまでも人は同じだということか。

しかし……。


「フィーリアやアスリンも福袋は欲しいんだな」

「うん。何が入っているか楽しみなんだ」

「そうなのです。意外な出会いがあるのです」

「そうね~。買い物って自分で選んで買うのが主だし、こういう刺激って面白いわよね」

「はい。思ったよりも、使える物があったり、服なら意外なコーディネートが見つかります」


どうやら、ラビリスとシェーラも福袋は買うみたいだ。

人の趣味はそれぞれだし、言っていることもわかる。

が、それはいいとして。


「結局世間は平和か。そりゃよかった」


そう、年末、今年最後の日も毎日と変わらないぐらいってことがわかっていい。

もちろん年末年始に向けての賑わいはあるが、明日を心配するモノじゃない。

ウィードを作った側としては何よりな話だ。

正直ほっとする。

毎年、毎日のことだが、ウィードに来たことを後悔しては欲しくないからな。

そんなことを考えていると。


「心配はいらないわよ。ウィードに来て幸せにはなっても後悔なんて、自業自得よ」

「そうですね。後悔する人は、努力を怠っているからです。事故などの文字通り不幸な人に限っては最大の支援をしていますから、その心配は無用です」

「うんうん。怪我とかした人は病院で治療するし、お仕事も紹介しているもんね~」

「働きたくないお馬鹿がダメなだけなのです」

「何も言っていないんだが?」

「「「見ればわかる」」」


と、あっさり断言された。

そんなにわかりやすいかね俺は。


「そんなお馬鹿を心配するぐらいなら、私たちと遊びましょう。今日はゆっくりなんでしょ?」

「ああ、年末だし。しっかり休みだ。とはいえ、何をして遊ぶかっていうと……」

「ユキ様、これ、どうやって遊ぶんですか?」


タイミングよくリュシがやってくる。

手に持っているのは、オセロ、リバーシというボードゲームだ。

リュシが知らないというのは驚きだが、まあいい機会だ。


「よし、じゃあ。オセロ大会でもするか」

「いいわね。このメンバーの中で一番を決めましょう」

「いいですね。一試合の時間も短いですし、今日中に結果はでるでしょう」

「まけないよー」

「オセロ勝負なのです!」


こうして、年末の夕方はオセロ大会が開かれて、嫁さんたちやほかのメンバーも参加し、年明け以降も続くリーグになるのであった。


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