落とし穴外伝:2023年末スペシャル 行政の状況
2023年末スペシャル 行政の状況
Side:ラッツ
「おーい! こっちの書類。搬入はどうなっている?」
「荷物が届いてないって連絡が来たぞ! どこにあるのかわかるか?」
「なんか今更、屋台だしたいとかねじ込んできてる馬鹿がいる? ほっとけとか言いたいが、勝手に商売されても問題だな。ちゃんとフリースペースに誘導してくれ!」
「なんだこんな予算申請! こんなの会計課で落とされるぞ、初めてじゃあるまいし、やり直せ!」
いつもながらの年末年始。
総合庁舎の商業課はまさに戦場だ。
なんだ商業課っていうのはと思うかもしれませんが、別に不思議な事ではありません。
商業ギルドという外部の商人の補助組織があるのと同じなように、国内での商人のルールを制定している部署があるのです。
まあ属にいう商業区ってことになっていますけどね~。
マジでこれは大変なんですよ。
何せ国内の商売の許可とかルールの制定とか、国が保有する物資の管理とか、それの資産価値をはじき出して、会計課と連携するとか、文字通り物凄く大変な部署なのです。
何より、お金が関わる会計課との連携が必須ですから、少しの隙も認められません。
まあ、別にエリスが厳しいというか、国のお金を適当な書類で使えるわけがないので、当然の話なんですけどね。
「ラッツ様~。なんか一人のんびりしていませんか~?」
そんな感じで忙しい風景を眺めていると不意にノンから話しかけられる。
「してませんよ~。というか、もうノンが代表なんですし~、ちゃんとやっていますか~?」
そう、私がそこまで焦らずに見ていられるのは、すでに私がこの課、商業区の代表ではないから。
目の前のデスクに座っているノンが今は商業区の代表であり、商業ギルドとの交渉事の決定権を持っています~。
それだけ立派になったってことなんですよね。
と、思っていると不意に書類の束を私の机に置いて……。
「やっていますよ~。ということで、これお願いできますか?」
そういわれて、私は即座に書類を確認すると、その内容は……。
「はぁ~。ノン、貴女はいまだに会計課は苦手ですか?」
そう、その書類は完成された会計提出書類だ。
まあ、具体的に言うなら、物資を供出する申請書ってやつですね。
会計課にも確認してもらい、印鑑をもらってセラリアに提出するものです。
それでようやく、物資を予定通りに提供できる書類なんですが、どうやらその会計課の印をもらうのがどうしても苦手のようです。
「別に苦手ってわけじゃないんですけど、今の状況でテファとぶつかったら喧嘩で長引きそうで」
「そこ迄含めて苦手ってことなんですけどね~。ま、今滞るのはよろしくないので承りますが、今後の改善点ですよ。身内の苦手でいざという時、必要なところに物資が届かないとか承知しませんよ?」
流石にそんなことにはならないだろうとは思っていますが、注意はしておかないといけません。
たかが苦手程度で、下手をすると支援を待っている人たちが震えているなど認められませんからね。
「わかっています。今、私がここを離れるともっとひどいことになりそうなんで、よろしくお願いします」
ノンの言う通り、年末の地獄のさなか、一番の責任者がいなくなるとか書類仕事が終わらなくなるのはわかりきっているので、それ以上は何も言わず私は会計課の方に向かいます。
幸い、同じ建物であり上に向かうだけなので移動時間は変わりませんが……。
「失礼します、あのこの荷物はどちらに?」
「搬出したんじゃなかったっけ?」
「会場の用意はどうなっている?」
「いま、発熱があって明日の人員に欠員が……」
などなど廊下でも、慌ただしく人が行きかっています。
年末ですからね~。
本当に色々ありますから。
もう、見慣れた光景ではありますが、その場で働いている人からすれば目まぐるしいの一言でしょう。
目の前の仕事を片付けて、何とか予定をこなす。
今年最後の大一番と。
そんな風に考えながら、会計にやってくると。
「こっちの計算間違ってる。やり直せ!」
「年始には予算会議があるからな。方々にちゃんと書類出しとけよ」
「書類がないのに、予算なんて出せるわけないですよ。ちゃんと提出書類は守ってください」
こっちもこっちで大忙しのようですね。
最後に聞こえた内容とか、受ける側としても物凄く困ることですよね。
何のためのルールなのかと言いたくなります。
とはいえ、そこで私が何か言ってもトラブルに巻き込まれるだけですし、私が解決しても彼女たちの成長の妨げになります。
なので私はそれは放っておいて、そのまま会計課の代表の机へと向かっていると。
「あら、ラッツ」
「ども~、エリス」
代表のテファが気が付く前に副代表の席で仕事をしていたエリスが先に声をかけてきました。
その机にはやはりというか、大量の書類。
そして、その挨拶で代表の机でさらに大量の書類をさばいているテファも気が付いたようで顔を上げます。
「ラッツ様。こんな中ですがようこそ。おもてなしができずに申し訳ございません」
そして、書類作業をしながらも返事をしてくれるという器用なことをする。
「いえいえ、私も仕事をしに来ただけですから。商業課からの書類です」
そういって、私は一旦エリスに渡す。
ノンなら一番嫌がるでしょうが、こういう忙しいときにエリスに渡すことこそトラブルが少なく済みます。
なにせ、一番この手の書類の精査は得意ですからね。
「確認します。……ああ、年末に提供する甘酒、お茶、お汁粉、お餅、ポタージュと。ふむふむ、……適正ですね量も問題ありません」
すぐに受け取った書類に目を通して、今存在している在庫のデータベースと相違がないのかを確認も済ませる。
素早いですよねー。
まあ、これで違いがあれば大騒動になるのですが、それがなくてよかったです。
ちゃんと書類ができているようで何よりと思っていると、エリスは確認した書類をテファの方にもっていき。
「テファ代表。商業課からの年末年始の提供物資の許可書類です。確認をしましたが不備はございません」
そういって、書類を渡すエリスと受け取ったテファはその書類を受け取ってしっかりと内容を確認します。
「なるほど、いつものやつですね。とはいえ、毎年毎年供給量が増えていきますよね」
「ま、毎年毎年それだけウィードの評判が上がっている証拠でしょう。大陸間交流同盟の人たちも今年はいますし、そういう初めての人には良い印象を持ってもらいたいですしね」
そう、無償提供したものを帰りにお土産として販売する。
それで完璧。
儲けが上がるわけですよ。
タダで配り、それ以上の儲けを出す。
薄利多売と申しましても、その数が膨大になれば馬鹿にならない儲けになります。
それで、原材料を作っているウィードの農業区も儲けが増えるというわけですね。
「いいことではあるのでしょうが……。いい加減私たちでは難しくなってきますよね……」
そういってテファは私とエリスに視線を向けてくる。
「一応、陛下の方には人員の増員を頼んではいるのですが、どうなのでしょうか?」
「採用に関してはまだ何も。おそらく、来年の春に採用枠を増やすんじゃないかしら? ラッツは聞いているかしら?」
「いえ、今年のことに関しては全然。まあ、増員を頼んでいるのは毎年のことですからね。その要望自体は通るかと思いますけど、どれだけ増えるのかは不明ですね。人材の育成具合というのもありますし」
「確かに、人を入れたからってすぐに使えるわけでもないからね」
そう、人手不足はわかるけど、人を増やしたからと言ってすぐに使えるわけではないのだ。
「そこはわかってはいます。そもそもどこも新人がいきなり活躍などできるわけがありませんし、来年末年始までにそれなりに使えるようになればいいのです」
「そうねー。って、これ去年も同じ話してなかったかしら?」
「どこも人手不足は同じですからね~。去年どころか、スウルスの件で軍部の方も人をいつもよりも取るって言ってましたし」
「ああ、私も伺いました。となると、今年の人材確保はもっと大変になりそうですね。はぁ……。あ、書類どうぞ。あとは陛下にもっていけば搬出許可証がもらえます」
テファはため息をつきながら、印鑑が押された書類を私に返してくる。
それを受け取って確認してから……。
「ありがとうございます。では、年末年始は目前です。何とか踏ん張っていきましょう~」
「そうね。やるしかないわ」
「ですね。よろしお願いします」
ということで、私も忙しく動き回って年末年始の行政の準備を進めるのでした。
まあ、年明けはのんびりする予定ですが。
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