第1569堀:遠足前には体調を確認します

遠足前には体調を確認します



Side:エノラ



「じゃ、みんな行く前に体調確認をするから、じっとしてて」


私はそう言って、ユキたちお城探索メンバーの体調を確認していく。

なぜ私がここにいるのかというと……。

午前中、ユキが休んでいるときにデリーユとエージルから、冒険者ギルドの荒れ具合、汚れ具合を聞いて、お城も同じ可能性が高く、病気の予防のためについてきてほしいと言われて、私がユキたちについていくことになったのだ。

まあ、ルルアやリリーシュ様が離れるわけにもいかないし、ハイレンは論外、セナルも候補だけど体調管理となると私が一番だったわけ。

ユキが寝不足だったのはわかっていたし、これ以上の体調悪化は避けるべきってことなのは全員意見が一致していたからあっさり決まった。

だからこそ、やるべきことはちゃんとやる。

とくに……。


「ユキ、見た感じは寝不足は治っているけど、体調はどう? だるかったりしないかしら? 朝寝昼寝って熱が出る子は結構いるけど?」


そう、朝の二度寝、お昼寝の後って発熱する子供たちは意外といる。

眠るっていうのは、体力が落ちているっていう意味でもあるからね、習慣化していないのに寝てしまうというのはそれだけ疲れているってこと。

つまり体調が悪化しているわけ。

それで発熱する。

今回のユキは突発的に寝ている。

疲れがたまっているのは、常に知っているし今回の遠征。

体調を崩しても何も不思議じゃない。


「いや、発熱とかはない。大丈夫、寝不足で寝てすっきりしたから。な、リュシ?」

「はい。寝てすっきりしました」

「そう? まあリュシたちも見た感じは健康的ね。あとは、精神的な体調不良とかもあるけど、それもないわね?」


そうデリーユやエージルにも確認を取る。


「うむ。汚れているぐらいが問題で特に気分が悪いとかはないのう」

「ま、研究に汚れはつきものだしね」

「そういわれるとそうね。となると、リーア、ドレッサ、そしてキャナリア。3人は大丈夫かしら?」


ユキの次に気になるのは、キャナリア。

リーアとドレッサがフォローを務めてはいるけど、母国、何より自分が暮らしていたお城の内情で精神的なダメージを負うのは目に見えている。

普通なら同行を止めて大人しくしてもらうのが普通なんだけど、闇ギルドとの一件が絡んでいるし、狙ってくる可能性もあるから戦力の分散になるようなことはせずユキたちについて行くってことになっているのよね。

キャナリアは感情の起伏が色々あって読み取りにくくなっているから、私たちが外から見て分かりにくい。

だからこそリーアとドレッサが専属って感じになっているんだけど。

まあ、誰だって体調を崩す可能性はあるんだけど、キャナリアに関しては分からないにしても確認しておく必要はある。


「私は大丈夫だよ」

「ええ。私も問題ないわ」


リーアとドレッサはどう見ても健康体。

2人は朝も軽く剣を持って打ち合っていたし。


「私も大丈夫です」


一番気になっているキャナリアも淡々とそう答える。

やっぱりというか表情は動かない。

ある意味器用だと言える。

こういう人は私も見たことはあるけど、その時にも対処は出来なかった。

政治的なやり取りをしている人は、彼女のことをうらやましがるでしょうね。

内心を全然読み取れないんだから。

ま、これをルルアたちに言えば怒るでしょうけど。

さて、そういうのはいいとして、足元から頭の上までじっくり視線を向けてみる。

呼吸も落ち着いているし、魔術の検査にもステータスにも異常はない。


「そうね。大丈夫のようだわ。とはいえ、現場に行って具合が悪くなることも多々あるから、遠慮しないように」

「わかりました」


返事だけは立派というか、普通に返してくるのよね。

これは目を離せないわ。

それであとは……。


「カグラとキユ、コヴィルは問題ないかしら?」

「私は正直書類仕事続きで寝たいわね」

「カグラはいつもの通りね」

「ちょっと」


文句をいうカグラは無視。

ちなみにミコスは教会に残って治療補佐。


「あはは、僕は問題ありませんよ。コヴィルはどうだい?」

「私も問題はないわ」


キユとコヴィルも問題はなし。

全員とりあえず、見る限りは問題はないわね。

私は空中投影モニターを出してカルテを書き込んでいく。


「ユキ、問題はないみたいだから出発していいわよ」

「わかった。じゃ、行こう。教会の外にバスを待たせてる」


私が許可を出すとユキは既に準備は整えていたらしく教会の外へと出てバスに乗り込んで、この王都の中心、王城へと向かう。

普通なら出迎えとかがあるんだけど、既にこの町は見捨てられているし、中心である王城は主が逃げ荒れているとの話。

私が同行して欲しいとまで言われているほど。

患者さんたちからもそれとなく聞いているけど、今や誰も近寄らないとも言われている。

一応ヒンスアの兵士が居るからだということだけど、裏では城に勤めていた人たちが内乱で斬殺されて、そのゴーストやゾンビがさまよっているとかなんとか。

でも、事前の情報ではそういう魔物の反応はなし。

まあ、お化けの類だとハヴィアとかもいるし、そこは反応できないのよね。

そこは実際行ってみないと分からないか。

と、そんなことを考えているうちに王城前へと到着する。


バスから降りると、立派な門がそびえているが、それは外枠だけで大きな扉は破損していて穴が空いていたり焼け焦げている。

余程、恨みを買ったのかと思うほどのありさまだ。

とはいえ、迎えの兵士たちは並んでいる。

何とか治安維持だけの兵士を派遣したヒンスア王国の苦労がしのばれる。


「わざわざお出迎えありがとうございます」


ユキが代表して出迎えてくれた兵士に挨拶をする。


「いえ、この度の補給物資の援助でようやく城の清掃や修繕はもちろん、町の治安維持ももっとできるようになるでしょう。ですので、この程度のこと当然であります」

「そう言っていただけて何よりです。ですが、こうして物資を届けるだけで行動に移せたというのは皆さんの今までがあってのことでしょう。ささやかですが、補給物資とは別に皆さんへのお土産もございますので、休みの時にお試しください」


そう言ってユキはデリーユに持たせたバッグを渡す。


「これは?」

「ああ、アイテムバッグですよ。お酒や食べ物、あとは簡単な遊具が入っています。どうぞバッグも中を改めた後はご自由に」

「……ありがとうございます。では、こちらに」


素直に受け取った兵士は城内へと案内をする。

普通は賄賂ともとられそうだけど、ユキに限ってはね~。

というか賄賂で考えるならこの旧王都全体が賄賂を貰っているにも等しいし、これは必要経費ってやつでしょう。

これで、兵士たちの好感度を得られて協力してもらえるなら安い物ね。


それで城内に入ったんだけど……。


「……これは、かなり大変だったのですね」


ユキが少し驚きつつ口を開ける。

私も、いえ私たち全員、データ上ではこの城のありさまは知っていた。

だが、データはデータだけってやつね。


「ええ、これでも少しは片付けをしたのですが、やはり火を点けられると煤などはもちろん、燃え残ったものがどうしても」


そう言って兵士たちや私たちが見上げる先には、昇った炎が焦がしたと思われる柱。

そして、その柱に張り付いた、おそらく布だろうか?

赤をメインとした、もっともらしいお城の装飾だ。

だが、それでも焼けてしまえば、ただのゴミ。

いや、片付けを考えるともっと面倒よね。


「ああ、危険な場所などは私たちがついてお教えいたしますのでどうぞご安心ください。全員というわけにはいきませんが、資料を探す際の邪魔な物の撤去のお手伝いも致します」


なるほど、ちゃんと人手をこっちに割いてくれるのね。

まあ、額面通りというわけではないでしょうけど。

こっちの監視も兼ねているでしょう。

直接何かをするわけはないと思うけど、私たちがどういう行動をしているのか、何を手に入れたのかとかを報告するためでもあるでしょう。

それが嫌かというと、そうでもない。

ウィードや同盟を完全に信じる方が逆にヒンスアが心配になるもの。


「ありがとうございます。では、早速ですが、城内の捜索を始めたいのですがよろしいでしょうか?」

「はい。では、兵を集めますので少々お待ちください」


ユキはさっそく捜索を始めると言って兵士に協力を求める。

別に私たちはお城の状況を確認して、観光案内を頼んだわけでもないからね。

さっさとここでの仕事を終わらせて、本命の秘宝を探しに行きたいのが本音。

とはいえ、この手順を踏まないと待ち構えているだろう闇ギルドとダンジョンマスターを警戒させるだろうということで、こうして遠回りをしている。


「確認ですが、ヒンスア王から財宝関連があれば持ち帰るようにとは言われているのですがどうでしょうか?」


すぐに兵士を集めてそのまま案内と手伝いで付いてきた兵士隊長にユキは改めて確認を取る。


「私たちが知りうる限り、城内の財宝はもちろんお金に代わりそうなものはほとんど持っていかれております。とはいえ、荒れ具合はご覧になられた通りで崩落した場所も多く、そのすべてを片付けたわけではありませんので、正確なところはなんとも」


確かに、放火とか、隠し部屋を探したのかは知らないけど、城のデータでは壁が崩れたり、棚が倒れてたり破損が通路を塞いでいるところが多々ある。

王家に恨みがあったとはいえ、そこまでやるのと思ってしまうぐらい。

ここまでやると、滅びた国っていうか……滅びているわよね。


「なるほど。ご存じとかとは思いますが、私たちが見つけた財宝関連はそのままヒンスア王国へ譲渡することになっています。それがこちらで活動する条件でもありますからね」

「はい。そちらも伺っております」


そう、ここで見つけた財貨、及び秘宝に関してはヒンスアに渡して今回の宝探しというか闇ギルドの殲滅を認めてもらっている。

だけど、他にもある条件があって……。


「それですが、もう一つお約束をさせていただいておりまして」

「お約束ですか?」

「はい。現地で協力してくれる人たちには、見つけた財宝、秘宝の一部を分けてもいいと。もちろん、良識の範囲ではありますけどね。ヒンスア国王もこのような僻地というのはアレですが、過酷な場所へ兵の皆さんを派遣していることを心苦しく思っているようです。こちらを」


そう言ってユキはヒンスア国王からの書類を手渡し、兵士は丁寧に受け取って内容を確認する。


「……確かに、財宝を見つけた際には一部の所有を認めるとあります」

「言い方はちょっと悪いかもしれませんが、一緒に宝探しぐらいの気分で頑張りましょう」

「あはは、確かに。これはやる気が出ますね」

「とはいえ、巡回などのお仕事が滞らない程度にお願いします」

「ええ。わかりました。これは後で皆に周知しておきます」


ということで、和やかにお城の探索は始まるのだった。


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