第1568堀:戦うモノと知識を持つモノの共通点

戦うモノと知識を持つモノの共通点



Side:デリーユ



妾の視線の先には、すやすやと眠るユキと添い寝をしているリュシ。

穏やかに眠っているのはいいが……。


「相も変わらず。妾たちが好きなのはいいことじゃが、それはそれでなー……」


ユキの態度は女性個人としては好ましくあるが、国家として考えると微妙だ。

ウィードの立場は表向き大国とまではいかぬとも、小国のトップに近しい王配。

遊び女の一人や二人いても、というかいない方が珍しい。

まあ、ウィードは立場が特殊なこともあり側室は多い、しかも大国からの姫が多数。

そういう意味では繋がりは強い。

むしろ、裏の事情を知るモノたちからすれば、少なすぎるという人が多いだろう。


数についてはまあいいとして、そこには遊びが無さすぎる。

妾は大国からの嫁ではないので国の差配には影響されぬが、それでも要職についておるし、ウィードの戦力としては上位じゃし、それなりの権限を持っておる。

遊び相手としては不適合というわけじゃ。


元々ウィードが小国だったというのがネックじゃな。

要職を任せられるのが身内だけというわけじゃ。

まあ、土地もそう持っているわけではないから、ギリギリ足りているわけじゃが、それは人手不足という意味でもあるし、これからさらに人手がいるのは目に見えておる。


多少の裏切りを飲み込んで外部から入れて任せるか、それとも今のリュシやオレリア、ホービス、ヤユイ、そしてプロフのようにユキの相手、妾たちの仲間として支えるメンバーを増やすしかない。

今回のことも人材に余裕があれば、ユキはもちろん妾たちだって出るようなことではない。

とはいえ、ユキが抱いた女を捨て駒のように使うのは嫌がるじゃろうしなー。

これはセラリアたちとちゃんと話し合わねばな。

いい加減人手不足を無視できなくなってきた。

ユキの寝不足がいい証明じゃ。


遊びが無いのも今はいいが、いつか溜まったものが爆発するじゃろう。

人とはそういうモノじゃ。

それをユキはゲームとか子供と遊んで発散しているといっているが、まあ、こちらとしてはそうは見えんというやつじゃ。

遊び相手候補のオレリアたちすら手を出しておらんからのう。

ウィードとしては、その遊び相手としてよその国が用意した女なんぞに手を出されれば大問題じゃからな。

溺れるなら妾たちが用意した女がいいということでもあるし、よその国はその隙を淡々と狙っておるからこそ、こっちとしてもその手の女もいると周りに示したいんじゃよな。

ユキ自身、それが分かっておらぬわけはないが日本での常識が邪魔をするんじゃろう。


「まあ、周りはどんどん固めてはいるから押し込めるとは思うが……」


そう、オレリアたちのことは時間の問題とは思っておるから、なんとかなるとは思う。

が、オレリアたちも仕事があるからなー。

ユキの仕事を分担してはいるので負担は減らせておるが、遊びかというと微妙なんじゃが。

それでもいないよりはマシじゃ。

リュシも含めて5人はユキにべた付かせが誰か一人は可能じゃ。

……これ以上仕事が増えなければじゃが。

まあ、ユキにも散々言っておるが、対外的にも愛人がいるわけじゃな。

全員妻としているから、愛人ならいけるじゃろと思う馬鹿がおるわけじゃ。


「妾とかセラリアに押し売りしてくるアホもおるしな」


ユキは基本的に目立たずという立場じゃから、なにも知らない馬鹿な国はただ女をこちらにまわせば繋がりができると思っておるからな~。

要るのは優秀な者であり、ウィードはもちろんユキのために死ねる者。

もちろん、優秀な者を送り込むことも多々あるが、それは自国の利益のためじゃ。

それを悪いとは言わんが、こちらが抱えているモノを考えると受け取るわけにもいかん。

そもそもそういう手合いはユキの負担にしかならん。


「とはいえ、これは帰ってからじゃな。今は秘宝探しじゃ」


妾はそう自分に言い聞かせて、ダンジョンスキルでこの王都の状況を改めて確認する。

ユキは先ほどこのスキルをエージルと微妙に使えないとはいっていたが、実際はこれ以上ないぐらいに使える。

色々を求めすぎなだけじゃ。

この場を動かずにこの王都にいる人の動きはもちろん、地形の把握ができるスキルが使えないなどとは。

勿論、改善できればありがたいというのは間違いないが。

そんなことを考えつつ、秘宝を探すための事前行動として旧ヴィノシア王城の情報を確認する。


「……当初の情報通りというわけか」


改めて城内データを見てみるが、荒れ放題というのがふさわしい。

宿泊のために整えるのは面倒が過ぎる。

稼働している教会がいいというわけじゃな。

おそらく、内乱の際に一番真っ先に狙われたんじゃろうな。

金目のものは持ち出されて、内装は家探しもかねてかわからんが、ひっくり返されたりは当たり前で、粉砕されている物も多い、本当にぐちゃぐちゃ。

これを元に戻す、あるいは直す予算があるなら、確かにほかに回した方がいいじゃろう。

一応、兵の駐屯所、練兵場とその関連、生活に必要なぐらいの範囲は片付けが進んでいるが、その程度だ。

城の内装を改めて直すような予算もないので、そのままというわけだ。


「これを、妾たちが踏み込んで調べるか……。え? 罰ゲームかなにかか?」


データ上でもひどいと分かるレベルだ。

これに加えて、ゴミはもちろん数年放置されていたということもあり、その分の埃などもある。

その中に行けというのは、ルルアとかは病気の原因になりかねないとか言って怒り出しそうじゃな。

正直、妾もわざわざ汚れに行って喜ぶようなタイプでもない。

そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされて許可を出すとエージルが入ってくる。


「やほー。デリーユ、ユキはどうだい?」

「向こうで寝ておる。それで、エージルはどうした?」

「僕は城の話さ。デリーユも見ているんだろう? どう思う?」


エージルはユキとリュシが寝ている姿を見て少し安心したようで、要件を話す。

あれじゃな、寝ていなかったら叱っていた感じじゃな。

と、そこはいいとして妾はユキの護衛としてちゃんと話し合わねば。


「ここに行くのは勘弁願いたいのう。行ったフリ、調べたフリはできんか?」


正直に素直な感想を述べる。

昨日の冒険者ギルドといい、こういう汚い場所には積極的に行きたいとは思わん。

ユキの体調が悪化するんじゃないかと思ってしまう。


「流石にできないね。人の目を集めること自体が目的なんだ。それに書庫らしき場所はあるし、そこに赴かないわけにはいかない」

「やっぱりむりか」

「ま、埃の中に突っ込みたくないのはわかるさ。とはいえ、相手に対して、僕たちが必死に情報を集めているっていう風に見せるのは大事だよ」

「わかっておる。しかし、王都に入ってから4日じゃが、敵の動きはないところを見るとやはり……」

「まあ、当初からわかっていたと思うけど、ダンジョン内部で僕たちをやるつもりだろうね。それが一番楽だし。確実だよ」

「じゃな。妾でもそうする。なら、ここでの捜索は無意味と言いたいが……」

「向こうがこちらに気が付いて逃げられても困るしね。向こうの想定通りに動いていると思わせるためだから行くしかないね」


言うだけ言ってみたが、やはり城の捜索は必要なようじゃ。


「資料な……。そういう類のものがちゃんと残っているか疑問じゃな。ああ、冒険者ギルドみたいに確保している可能性はあるか」


先日の冒険者ギルドは、ギルド長室に資料を詰めて込んでいたということがあった。


「ああ、そんなことがあったらしいね。事前にデータ見たのに気が付かなかったっていうのも面白いね。あれだよね。敷き詰められていたから、認識ができなかったって感じかな?」

「うむ。3Ⅾデータはワイヤーフレームで表示じゃからな。はたから見れば床の木目みたいに見えた感じはある」


事前にコヴィルたちが調べていたし、妾たちも捜索時にパッとだが見たが、それに気が付かなかったからのう。


「そこは難点だね。かといって、透過なしだと下手すると部屋と認識できないか……。なかなかうまくはいかないものだね」

「確かにそうじゃが、多くを求めても……できるのか?」


普通は、今あるモノに満足するしかない。

何せ、こんなソフトの改良なんぞ妾にできることではないからじゃ。

だから、仕方がないと思っていたのじゃが、不満を言うのはユキを筆頭にエージルやコメットなどの技術者たち。

だから、そういうことができてもおかしくはないと思ったのだが……。


「あー、簡単にはいかないと思うよ。部屋と荷物の区別の仕方とか、そもそもこのスキルがどうやって作られているのかとかの話になるからね。ゲームのプログラムを弄るようなものだし、僕たちが作ったわけでもないから、時間がかかる可能性は高いし、出来るかもわからない。でもさ、便利になるんだったら、やるしかないよね」


そうあっさり言ってのける。

なるほど、確かに技術者、研究者というのはこういう連中だったな。

どうしてそういう思考になるのかと思っていたが……。


「あはは、僕たちは理解されないとか言われるけど、根幹は人とは変わらないさ。デリーユが戦闘の訓練を続けているように、次を目指しているんだよ」

「ああ、そういわれるとしっくりくるな。そうか、まだ成長できると思っているわけか」


エージルに答えというか、考え方を教えてもらってスッと納得できた。

確かに妾が戦闘訓練をするのはそれしかできないというのもあるが、ちゃんと次、成長を感じるとか工夫を入れてもっと効率よく、もっと強くなるためにというわけじゃ。

それが出来ればユキや皆の安全にもつながるからのう。

エージルたち技術者、研究者も自分がやっていることが皆のためになる、あるいは便利になることが未来につながると思っているからやっておるのじゃな。


「ま、大層な理由を言うとそうだけど、純粋に自分が次の段階に行けるっていうのは楽しいだろう? 強さも次があると、それを達成できる事には喜びがあるのさ」

「確かにそれはある。というか、普通の人はそれが一番じゃな」


強くなってそれが実感できるというのは一番分かりやすい結果と言える。

研究者たちも知識が正しかったと確認でき、知識が増える。

それは妾たちにとって強くなったということと同じなのじゃろうな。


「ま、そこはいいとして、現場に行かないといけないのは間違いないし、デリーユの言う通り、ユキはもちろん私たちの体はドッペルとはいえ、ドッペル自身の体調はある。不調になれば僕たちの性能も落ちる。それを予防するのは当然だから、ここは教会側から派遣を依頼するのはどうだろう?」

「ふむ、言われてみれば当然じゃな。ユキが寝ているうちに頼むか」

「そうだね」


ということで、妾たちは城の探索に付き合ってくれるメンバーを探しに行くのであった。



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