第1567堀:朝起きてまた寝るのは気持ちがいい

朝起きてまた寝るのは気持ちがいい



Side:ユキ



朝、旧ヴィノシア王都に来て3日目の朝にして、農業の従事者を募集し、提供した宿泊施設を使ってもらって初めての夜を明けた日。


「……こういうのは初日が気になるよなー」

「ユキは本当にそういう所はマメじゃな」

「ですね。ゆっくり寝てくださいって言ってもずっと起きてるんですもん」


デリーユとリュシは俺がほぼ徹夜なことにご立腹のようだ。

とはいえ、真面目に気になるんだ。

こういうのは初日に色々問題が出て、対処に追われるのがお約束だからな。


「現実、寒いとか、毛布が足りないとかあっただろう?」

「それはあったが、想定の範囲内じゃ。ジョンの部隊やシスターがちゃんと対応している」

「そうですよ。子供たちの突発的な発熱にも対処できましたから大丈夫です」


二人の言う通り、幸い対処できる範囲で済んだ。

おかげで俺は徹夜損ってわけだが……。


「それで済んでよかったよ。あとは明日からちゃんと寝るからそれでいいだろう?」

「はぁ、ユキ。自分が総司令というのを忘れておらんじゃろうな?」

「忘れてない。だから起きてたんだろう」

「無理してて、お仕事の時間に眠かったら駄目じゃないですか」

「それはごもっとも。だからちゃんとコーヒーを飲む」


そう、眠くはあるが、目を覚ませばいいだけ。

こういう時はカフェインを摂るに限る。

まあ、限界だったらどうしても眠くなるが、まだいけると俺は思っている。

何せ……。


「それに今日は、お城の方に行く予定だからな。色々出てくる可能性があるし、見ておきたいものもある。興味津々だから眠るなんてことはないさ」


そう、3日目にしてようやく旧ヴィノシア王城に乗り込むわけだ。

拠点としては活用しないし、出来る状態ではないらしいが、かといって何もしないわけじゃない。

何せ、キャナリアがいた場所だ。

そしてこのヴィノシアを荒廃させた中心。

何も調べないとかありえない。

必ず向かうと、連中も考えているだろう。


「なんだい。その顔、寝てないのかい?」


俺たちが寝室からでて、初めに出くわしたのはエージルだった。


「そりゃ、俺がここの最高責任者だしな。で、エージルは城の探索についてくるんだったか?」


お小言を貰うのは嫌だったので、仕事の話を振る。


「そりゃもちろん。一応データは事前に確認しているし、隠し通路とかはわかっているけど。それでも現場をこの目で見るのは違うしね」


エージルの言う通り、現場を見ることは大事だ。

残念ながら、どんなものが置いてあるかまでは詳細の把握はできないからな。

なんというかダンジョンの内情把握のスキルというか情報管理システムっていうのは、便利そうで便利じゃないんだよな。

毒物や刃物に関しては指定すれば判明するし、人に関しても監視はできるのに、書籍や書類に関してはこちらで内容を事細かに把握できない。

まあ、あれだ構成している物を調べているので、本は本だし、インクはインクでしかないという認識なんだろうな。

それでアイテムとして多少銘があるのであれば個別の判断は付くが、普通の書類は紙切れでしかないというわけだ。


「伝説の剣とかが、固有名がついてこちらでもわかるようになるっていうのはどんなシステムなんだろうなー」

「いきなりどうしたんだい?」

「ほら、出向かなくても書類を確認できれば楽だろう?」

「ああ、確かに。ここにいながら、ダンジョンの範囲にある書類をすべて確認できるなら楽なことこの上ないね。でも、できるの?」

「できるための方法がないかって今改めて思ったところだ。ほら、王城に行くのはその手の書類を集めるためだろう?」

「そういうことね。ま、言ってすぐにできることでもないし、今回は頑張るしかないさ。アイテムのネームド化とかもそこらへんは研究はいるだろうしね」


そんなことを話しながら、俺たちは朝食の広間に着くと、先に起きていたであろうリリーシュやルルアたち教会組が朝食の用意をしている。


「あら~、おはよ~。珍しく眠そうね~。何かあったのかしら~?」

「リリシュ様、特に珍しいことではありませんよ。こういう現場に出た時は即応できるように起きていたのかと」

「無理するわね~」


ルルアは即座に俺の状態を看破して近寄ってくる。

ついでにリリーシュもやってくる。


「失礼いたしますね」


そういってルルアは俺のおでこに手を当てて、目をのぞき込み、その横からリリーシュも俺を診てくる。

聖女に女神という回復のエキスパートに診てもらっている現状は喜ぶべきことなのだろうが、何というかモルモットの気分になるな。


「やっぱり寝不足ですね」

「そうね~、寝不足ね~」


あっさりと二人は診断を下す。


「これがゲームなどでの夜更かしならお説教の一つでもしたのですが……」

「お仕事だものね~。とりあえず、朝ごはん食べたらお城に行くお昼まで寝なさいね~」

「ま、それが妥当じゃな。添い寝はリュシがするといい」

「え? 私ですか?」


なんか勝手に話が進んでいく。


「うむ。他の皆は仕事があるからな。リュシの仕事はユキの護衛だから添い寝は妥当じゃろう。というか、引っ付いて寝かせろ。ベッドで横になっていたら寝る。座っていたら色々やりだすからな。外敵からの防衛に関しては妾がする」

「なるほど。分かりました」


ちっ、デリーユも的確に俺の弱みを突いてくるな。

眠い時に横になれば流石に寝てしまう。

しかも起きられないようにリュシ付きとなると難しい。


「僕もそれがいいと思うよ。趣味ならともかく、仕事で徹夜とか罰ゲームだろ。ちゃんと休みなよ」


エージルも俺にさっさと寝ろという。

ここまで言われると寝るしかないか。

そう思っていると、続々と他のみんなも入ってくるが……。


「……ユキ。寝ていない。早く寝る」

「ほんとね。早く寝なさい。リュシ引っ付いてベッドに」

「本来ならミコスちゃんが添い寝したいんだけど、そういうわけにもいかないからね~」

「……風邪はひいていないわね? うん、本当に早くご飯食べて寝なさい」


カヤ、カグラ、ミコス、エノラは俺の体調を即座に見抜いて、他のみんなと同じことを言ってくる。


「寝不足とか、寝れば治るんだから寝なさいよ~」

「そうね。今倒れられたら一番困るんだから」

「起きていたい気持ちはわかりますが、回復をして貰わないと困るのも事実ですね」


いや、それこそハイレン、セナル、ライトにまで寝ろと言われる始末。

このままではパーフェクト寝ろと言われるのかとキユとコヴィルに視線を向けると……。


「問題ないとは僕は思うけど、兄さんにつくと僕が怒られるからね。朝ごはん食べたら寝てください」

「そうね~。ユキがその程度で精度がブレるとは思わないけど、奥さんとか組織のトップとしてはその状態はないわよ。寝なさい」


ということで、本当にパーフェクト寝ろを貰い、俺は朝ごはんを搔っ込んだあとは、自室に戻って本当にリュシに引っ付かれて寝る羽目になる。


「リュシ、問題なく寝るから、引っ付かなくていいぞ」


ここまで言われて寝なかったら更なるお仕置きがまっているのは分かり切っている。

なので無駄な抵抗はしない。

何より、リュシに何もしないとはいえ、一緒に寝ろっていうのは過去を考えると酷だろう。

盗賊連中に拷問されていたんだしな。

今の所あえて聞かなかったし、反応はなかったから、普段付き合いは大丈夫だろうとは思っていたが、これは別だろうと思いそう言ったのだ。

だが……。


「今更馬鹿なことを言っておるな」

「ですね。そんなことは既に解決済みです。男性が怖いというのは、まあありますけど、ユキ様の護衛についている時点でこの程度覚悟していますというか、どんとこいです。ルルア様たちからも推奨されてます」

「……ああ、そうですか」


ルルアに近い胸を張っていうことか?

いや、俺がそこは気を使いすぎたか。

俺の側に配属して、既に一か月以上だし、病院でも看護師見習いとして働いている。

その間に男性への恐怖とかの折り合いとか、そういう精神疾患がないかぐらいは調べているのは当然か。


「……それで萎えるのはユキらしいのう」

「それだけ奥様たちが大事なんですよ。ぬふふふ、でもよい添い寝はさせていただきますよ」


普通は女性をあてがわれて喜ぶ妻子持ちはいないと思うんだがな。

で、リュシ。

お前はなんでそうやる気満々なんだか。

思い込んだら一直線か?

そう言う所、上としては心配なんだよな。

というかよい添い寝ってなんだよ?

心地よい睡眠ってか?

まあ、今ならよく寝れそうだけど。


「じゃ、大将は腹いっぱいきゅうり食べて寝るといいですよ」


最後はジョンがそう言って締める。

いやー、いつものことだが、お前の好物きゅうりってかわらねーのな。

もうちょっと肉とかにすればベジタブルとか種族名は取れると思うんだよ。


「とりあえず、みんなの意見は分かった。代理指揮官はデリーユ頼むぞ」

「うむ。任せておけ。昼には起こすでいいな?」

「ああ、頼む」


これで寝なければ午後のお城探索を止められそうだからな。

ということで、朝食、サラダきゅうり多め付きを完食して、俺はあてがわれた部屋に戻りさっさとベッドで横になる。

もちろん宣言通りリュシも入ってくるが……。


「あの、ああは言いましたが、眠れないとかになるなら離れますよ?」

「ああ、大丈夫。嫁さんたちといつも一緒に寝てるし、リュシは今更だろ」


そう、リュシと添い寝とまではいかなくても、俺の付き人のリュシは一緒に遊んで一緒に疲れて寝たことなんてよくある。


「そうですよね。じゃ、お邪魔します」


リュシはそう言ってベッドに入ってくる。

幸いベッドは2人が寝ても余裕なものを用意しているのでなんの窮屈感もない。

というか、眠いのは事実だし、腹も膨れたこともあってすぐに眠くなってくる。


「ふぁ、じゃ寝るから。リュシも俺に付き合って起きてて眠いだろうし、さっさと寝ろよ」

「はーい……」


リュシもやっぱり眠くなっていたらしく、返事も眠気交じりだ。


「あー、朝から二度寝かわからんが、こういうのはいいねー……」

「ですねー……」

「いちいち感想を言わんでいいから黙って寝ろ。それとも程よい疲れが欲しいならリュシと妾でまたがってやるぞ?」

「おやすみなさい」

「えー、ねちゃいます?」


寝るよ。

嫌いじゃないが、その場合どう考えても2人だけですまないし、その後仕事だからなおのことだ。

おやすみ。


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