第1566堀:意外と畑は問題ない

意外と畑は問題ない



Side:カヤ



ユキから……。


『そこは考えないとな。畑のことに関しても水も火も関係あるからな、そっちの専門家にも意見を聞こう』


ということで、私に視線が集まる。

とはいえ、別にやることはそこまで多くない。

いや、むしろ何もない。


「ユキの言う通り、確かに畑には水も火も気を付けないといけないけど、正直、私たちが管理する畑に関してはそこまで気にしなくていい」

「それはどういうことかしら?」


カグラが私の答えに首をかしげて聞いてくる。

まあ、彼女は公爵の娘。

畑仕事のことはあまり知らなくて当然。

さて、どう説明したものかと思っていると……。


「カグラ~。そういう所は全然なんだね~。お父さんは多分わかると思うよ~」

「何よ。その言葉。ミコスはわかるっていうの?」

「そりゃ、もちろん。私はユキ先生に頼まれて畑作っているんだし。というか、それ以前の問題だと思うよ。だってさ、畑、作ったばかりでしょ?」

「『「あ」』」


その言葉に私やジョン、ファイデ、そしてユキ以外のメンバーが気が付いたように声を上げる。

私としては助かった。

たった一言で理解させる言葉を思いつかなかったから。

なので、後を引き継ぐことにする


「ミコスの言う通り、耕した畑にすでに作物の苗は植えているけど、茂っているわけじゃない。それを全部燃やすっていうのは……一つ一つ魔術とか、たいまつとかで燃やすぐらいしか方法が思いつかない」


そう、畑は作ったばかり、苗も植えたばかり、つまり畑は土ばかり。

これを燃やすとか……私やクリーナ、あとはユキが大魔術で広範囲で燃やすぐらい?

いや、みんなできるとは思うけど、効率よくってなると私を含めた3人だけかな?


「そういうことー。カグラ、苗ってわかる? こーんなにちっちゃいんだよ? それを一個一個燃やすとか……ぶっ」


ミコスはその行為を思い浮かべたのか吹き出す。

確かに、それは面白い。


「悪かったわね。でも、そうなら水とか、ただ畑を荒らすぐらいはできるんじゃないかしら? そんなに小さいなら簡単に引き抜けたり、踏みつぶしたりならできるんじゃない?」


うん、カグラの指摘は正しいけれど……、そちらに関しては。


「農業用水に関してはウィードが管理しているから大丈夫。私たちが作って浄化装置つき。その手の毒を混ぜるなんてのはよくやるし。ザーギスたちがフィオラのところでやっていた実験が役に立っている」


お水に関しては、すでにフィオラのところで魔石を利用した水の生産は成功していて、こちらにその成果を持ち込んでいる。

まあ、それが使えなくなっても、私たちがいる間は自前で水ぐらいなら、湖を作るぐらいはできるから、今年いっぱいは雨が降らなくても何とかなるぐらいはできると思う。


「あー、そういえばそういうことやってたね。フィオラが泣いて喜んでたし」

「というか、それでウィードにやってきたんだけどね」


リーアとドレッサの言う通り、そういえば、そうだった。

あれがきっかけで、フィオラはウィードに嫁入りって感じになった。

まあ、横紙破りもいいところだから、こき使い、召使いのような立場になったけど。

ああ、もちろん建前上。

私たちがそんなことを、ユキもそういう風に女性を扱うなんてことはない。

今や役に立っているから必要不可欠。


「ザーギスがデータが集まってきたとか言ってたしな。ちょうどいい実験場所だったわけだ」

「そう、ウィードじゃ邪魔とかも入りようがないから、こういう自然に近い場所での実験は喜ぶべきことだって言ってた」

「だな。そういう実戦に近いデータは必要不可欠だ。想定外の出来事って良くおこるしな。で水が大丈夫なのはわかった。あとは畑へのいたずら対策だが……」

「……それに関してはもとより心配無用。ジョンたち屯田兵が監視に回っているし、もともとここは私たちの支配下。そちらでの監視もしている。畑に塩などを撒くことも、いたずらもすぐに侵入者がわかるからできない」


当初からわかっていることだけど、この旧王都は既にウィードのダンジョン支配下。

人の動きなど簡単にわかる。

いたずらなんて見逃さない。

ちゃんと屯田兵たちから監視部隊は選出している。

もちろんこれは霧華たちは関係ないから、大丈夫。


「……だから畑については問題はない。あるとすれば、勝手に飲む水とか、食事に毒を混ぜられること。そっちの対策が大事。地味だけどダメージはでかい。死者が出ない分私たちにとって一番面倒なこと」


直接的な被害じゃないから、撤退するほどのことではないし、かといって放っておくこともルルアたちにはできない。

そして防ぐことは本当に困難。


「え? 浄化装置があるんじゃないの?」


と、今度はミコスが首をかしげる。

そっちはわからないのね……。


「ミコス。水を供給するところは、教会だけじゃない。みんな各々水場を利用してるだろう。ほら井戸が王都にも各地にあるだろう?」

「あ……」


ユキがそういってミコスも把握したようだ。

そう、そんなに沢山ある井戸とか飲み水場に浄化装置を設置できるかというと、……不可能だ。


「食事に関しては~、私たちが目で見れば鑑定で判別できるし~問題ないわ~。お皿もね~。でも、そのあとは難しいわ~」

「そうですね。民衆でのやり取りで、薬とかいって飲まされれば難しいかと」


リリーシュ様の言う通り、渡す食事は何とかできるが、その後はルルアの言うように誰かの横やりで中身がどうとでもなってしまう。

これを阻止するのは難しいこと。


「え? 毒物ならダンジョンからの監視でみつけられるんじゃ?」


カグラは不思議そうに聞いてくる。

カグラはダンジョンが無敵の何かと勘違いしているみたい。


「カグラ、人がお腹を下すのはどんな毒がいると思う?」

「それは……下剤とかそれが含まれる毒草とか?」

「そうだな。下剤や毒草もいけるな。でもな、そこら辺の土を入れてもお腹を壊すと思わないか?」

「あっ、確かに」


ユキの言う通り、お腹を壊すためのモノは別に毒物でなくてもいい。

足元に落ちている埃でも入れてしまえばそれで事足りる。

人の体は実に脆い。

簡単に怪我をするし、体調を崩す。

だからこそ日々の食事を始めとした生活環境に気を遣う必要がある。


「というわけで、配った食事に問題がなくても偶然、埃でも入ってそれを食べてしまうこともあるだろう。そういうのは流石に俺たちも止められない。土とかなんて足元にいくらでも転がっているからな」

「そうなのよね~。相手が食べる物に細工をしてしまえばどうしようもないわ~。まあ、流石に死なないというのは救いというか、そこまで相手もする気はないんだろうけどね~。その対処をする羽目になる私たちは文字通り動けなくなるわね~」


そう、リリーシュ様の言う通り、今回の食事の中に異物混入などは避けるのは難しい。

風でも意図的に吹かせればそれだけでゴミが入る。

本当に難しい。


「えーっと、ユキ先生。それならゴミが入った食べ物とか食べないようにっていうのは? ほら、別の物を出してやればいいし」

「ミコスの言う通りそれぐらいだろうな。とはいえ、結構それも難しいんだよ。炊き出しはくる人すべてにやっているわけだが、数が多いから何度も並ばなくてもいいように大量に入れるし、それ一回きりにしている。そうじゃないと、何度も並ぶ人とか出てきて全員に行き届かない」

「あ、そうか……」

「ユキさんの言うこともそうなんだけど~、基本的に今までひもじい思いをしてきた人たちが、少しゴミが入った程度で破棄するわけがないのよ~。大事な食べ物。その程度のことでってなるわ~」


うん、ひもじい思いをしてきた人が、ちょっとゴミが入った程度で食べ物を破棄するわけがない。

何としても食べようとする。


「うんうん、食べ物がまともに食べれなかった人が目の前の御馳走を捨てて新しくとかまずないわ」


リリーシュ様の言葉にハイレンもうなずく。

彼女も戦時下で色々やっていたみたいだし、よくわかるみたい。


「じゃあ、そこはどうするのですか? 一応配る際に注意を飛ばすぐらいでしょうか?」

「うーん、ライトの言うこともできるけど、それって二周目、お代わりを容認することになるしね~。それってさらに人員がいることにもなるし、どうなの?」

「できなくはないが……。シスターたちと要相談だよな」

「そうですね。私たちがここで色々話しても、ここをまとめるシスタークノシアたちがどう判断するかが重要ですね」


うん、確かにルルアがいうように、私たちが炊き出しのことであーだこーだ言ってもどうにもならない。

シスターたちがやってもいいというなら後押しするし、病気を抑制したいというなら行動を起こすことになる。

私たちはあくまでも、補佐。

この旧ヴィノシア王都の実権を握りに来たわけではない。

そもそも、名目としては秘宝を探しに来たんだし。

だから……。


「……これからの、この町の状態に関してはシスターたちと意見をすり合わせる必要があるとして、ユキたちは何かいい情報を得られたの? そのために炊き出しや募集をかけたんでしょ? あと、冒険者ギルドの捜索とかも」


私は本題を聞くとした。

色々やっているのは間違いないけど、本命は秘宝を取りに行くふりをして、待ち構えている闇ギルドの連中を捕縛すること。


「ああ、そっちに関しては今情報をまとめている最中だな。で、俺が聞いた限り、やっぱり最初から目を付けている王家の墓が濃厚だな」

「それは妾も同じ意見じゃな」

「はい。私もそうです」


ふむ。

やっぱり、秘宝がある場所は最初にスティーブが見つけた場所で間違いないみたい。


「正直もう確定でいいと思うのですが、私としてはもう少しお時間を頂ければと思います」

「そうよね~。確かに私もそこしかないとは思うけど~、まだここに来て2日目よ~? まだまだすぎるわ~」


うん、確かにまだこの町に乗り込んで2日目。

ユキたちが秘宝探しに乗り込んで、何かしらの結果が分かってしまえばここへの支援は終わりだ。

畑も全部できたわけじゃないし、指導も済んでいないし、ルルアとリリーシュ様の支援も2日は短い。


「そこは予定通りにするさ。元々2週間の滞在予定だ。そこは変える気はない。敵が動くならそれはそれで見てみたいしな」


これはユキの誘い。

予定通りにやることで、相手がどう動くのか、あるいは向こうに気が付いていない、余裕を見せるとかで相手の反応を見るためのもの。

動かないというのも相手の選択になる。

どの動きをしてもユキに、いや私たちに情報を与えることになる。


……相も変わらずユキは無駄を無駄にしない。

何事からも情報を抜き取る。

だから頼もしいし、私たちの頑張りが無駄にならないと分かるから頑張れる。


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