第1565堀:理想の対策と現実の対策

理想の対策と現実の対策



Side:霧華



夜も深まり、元王都とはいえ、内乱で、しかも人が大移動したばかりで人気はほぼなくなっている。

そんな中私は、ある家の一室を拠点として利用して……。


「……ということで、現在募集で集まっていた人たちが時間切れで寒さや飢えで震えているという状況はないですね」


そう、私は無線で今日の状況を伝えている。

私たち諜報部隊はこういう風に先に潜入して主様たちの護衛や情報収集を行っているのです。


『相変わらず、やることがえげつないというか、抜け目がないというか。大将らしいというか』

「そこは普通に褒めたたえなさい。スティーブ。そういう所は本当にダメですね」


相手は私たちと同じく、先行偵察部隊として王都近郊で待機しているスティーブたちです。

いつもの野性味あふれる偽装をしているので、見られても特に問題なしなので便利ですね。

私は可憐な女性なのでゴブリンの真似はできませんが。


『いいんすよ。おいらたちはこういう関係なんすから。ま、そこはいいとして、思った以上に募集が集まったのは驚きっすね。てっきり残っている連中の5分の、いや10分の1でも集まればいいと思ってたんすけど』

「ですね。こういうのは非協力的で人手が集まらず苦戦するのが常ですが、思った以上にシスタークノシアたちが頑張っていたようですね」


私もスティーブの意見には同じ感想だった。

幾らシスターたちが助けてきたとはいえ、闇ギルドの息がかかったものが半数もいる。

そして何より、リテアの聖女や同等の力を持つ癒し手たちが集まったからとはいえ、結局はよそ者。

そういう相手に素直に言葉を信じて集まるかというと、かなり難しい。

何せ、今までそういう偉い人たちに翻弄され苦労している人々だからだ。


『そうっすね。と、言いたいっすけど、向こう側が指定して集まっていた可能性もあるのは理解しているっすよね?』

「それはもちろん。人が集まればそれだけ統制に時間と労力がかかりますし、何より主様たちの危険度も上がる。そして物資も消費する。それを狙っているというのも否定はできません」


そう、確かに主様は難なく受け入れられましたが、下手をすれば物資不足で混乱が起こるところだったでしょう。

そうなれば、秘宝探索という建前どころではなく、無駄に混乱を広げたと噂されるでしょう。

リテア教会もさらなる名誉失墜につながりかねない。

それは、あの小娘アルシュテールにとってはかなりの痛手。

そっちの可能性も視野に入れなくてはいけません。


『そうなると、一番やりやすいのは集積していた物資の消失っすかね?』

「そうでしょうね。募集に集まっている人たちの中で主様やもちろん教会のメンバーを襲うのは難しいでしょう。闇ギルドと所属はついているものの、おそらくは捜査かく乱のための人員、素人以下です。その場合、多少の混乱は最初は見られど、次はないでしょう」

『ま、そりゃ、自分たちの食い扶持と寝床を奪うような相手の手伝いはしたくないっすよね』

「ええ。だから、誰がやったかわからないことを仕掛けるのが一番でしょう。そして、無くなって困ることというと、物資が一番です。管理は此方がやっていますし」

『消失したのはおいらたちというか、大将たちの管理不足ってわけっすね。そして名目上、その物資は各国から供給されているものっすからね。同盟内どころか周りで様子を窺っている非同盟国もその失態を簡単には見ないっすよね。何より名目は秘宝探しなんすから』

「お遊びで大損失。それを責めないわけがありませんからね。とはいえ、それはついて行ったリテアの方の名誉も関わると」


今リテアの評判が落ちるのはどうしても避けたい。

しかも、今回の原因は私たち、主様となればなおさらです。


『となると、物資の安全確保と監視と管理の徹底なわけっすけど……』

「保管場所に関しては手出しなどできないでしょう。ジョンたちが護衛と管理に当たっていますし」

『そうっすね。ま、たとえジョンたちの監視網を抜けて物資を燃やしても、あの程度の補充は余裕っすから』

「余裕だからとはいえ、燃やされていいわけではありませんからね。ですが、誘い込むというのもアリと言えばアリでしょう」

『下手に畑を荒らされるよりはいいっすからね』

「確かに、そちらの方ができると思われるのは面倒です」


スティーブの言う通り、敵が物資保管庫の襲撃が無理だと考えれば、他の方法を行うのは当然の話。

この場合、私たちが次と予想しているのが、現在カヤ様が主導で行っている開墾作業。

成果が出るのはずっと先ではありますが、私たちがこの旧ヴィノシア王都に残っている人たちが食べて行けるようにと用意したものです。

これが、収穫時期に食べられなかったら? あるいは収穫できなければ、多少なりともウィードや同盟に恨みが向くでしょう。

まあ、実際畑の管理はシスターたちに任せるので、本人たちの責任とはいえるのですが、それでもウィードや同盟のやり方だからと難癖ぐらいは付けられるでしょう。


『下手すると畑が燃えて、さらに飛び火するっすからね。大火事っすよ』

「そうですね。ですから、その方法はあまりやるとは思えないですが、追い詰めすぎるのはよくないというのは今の話で意見が一致しましたから、やはり誘いを作るべきですね」

『そうっすね。相手が畑以外に民家や、果ては教会に火をつけないとも限らないっすからね。そういうのを避けるためにも、物資をあえて狙わせるべきっすね』

「ええ。完璧にしすぎて、民衆を巻き添えになどされてはたまりません」


こちらを攻撃する方法を奪い過ぎれば、考え無しともいえる方法に出る可能性もありますからね。

ないとは思いたいですが、スティーブが言ったような無茶苦茶な手段に訴えないとも限りません。

まあ、私たちはその程度のことでどうにかなるわけがありませんが、その場合、救える数には限りが出てくるでしょう。

それは避けるべきことです。


『じゃ、そのつもりで作戦立案するっすけど、おいらは王都内の護衛には行けないっすからね。それは承知でお願いするっす』

「もちろんです。まずは主様に許可をもらいます。スティーブはそのまま周囲の警戒と、ダンジョンの監視を引き続きお願いいたします」

『了解』


ということで、あらかた話し合いが終わったので、今度は主様にこの話をして、許可を頂くことになります。



「……以上のことから、一部の物資保管所をおとりにした方がいいかと、スティーブとの意見が一致しました。主様たちはいかが思われますか?」

『俺としてはもっともだなと思う。ほかのみんなはどうだ?』


主様は私とスティーブが指摘したことをもっともだと納得し、奥様たちに相談をします。

一応強硬して主様だけの判断で実行できますが、ウィードのやり方では緊急時でもない限りは一応合議制ですからね。

もどかしくはありますが、思いもよらぬ意見も出てくるので、大事なことだとは思います。

これが足の引っ張り合いになるのであれば問題なのですが、ウィードは今のところ主様を中心に回っているので問題はないのです。


『私は賛成です。確かに、敵がいるのは間違いありませんし、人に被害が出るよりも、物資が燃やされる方がいいでしょう』

『ルルアに同じく賛成じゃな。まあ、物資の補給のめどが立たぬのであれば、命にも等しいが、幸いこちらは簡単に補給もできる。どちらを取るべきかと問うまでのことでもないな』


と、ルルア様、デリーユ様は即座に賛成。

リテア代表としてのトップと、ウィードの最高戦力が同意してくれたのでほぼ決まったようなものではあります。

ですが……。


『ん~……』


なぜか、リリーシュ様が声を上げません。

何かを悩んでいる感じです。

今回の訪問が上手く、スムーズに行ったのはリリーシュ様のおかげというのは間違いありません。

その彼女が沈黙してるのは気になります。


『リリーシュ、なにか気になることがあるのか?』


私の疑問を主様も気が付いてすぐに聞く。


『……私も間違っているとは思えないのよ~。でも~、何か抜けているような気がするのよね~。確かに、物資を燃やせば私たちのことを困らせて、こっちの住人には迷惑をそこまでかけないとは思うんだけど……。セナルちゃんどう~?』


意外なことにリリーシュ様も違和感に気が付いていないようで、セナルに聞いています。

彼女はズラブルとハイーンを相手どろうとした女神。

そういうことには頭が回るのでしょうか?


『……そうね。確かに効果的ではあるわね。でも、それは効率が良すぎるという点かしら』

「効率ですか?」

『ええ。霧華とスティーブの視点は間違いではないわ。私たちに効果的にダメージを与えるなら当然なのだけれど、そこまで現場の連中が考えられるかしら?』

「現場の……」


その言葉に私も少し考えます。

現場の連中が考えるですか……。


『ああ、そういうことか』


私が答えを出す前に主様がポンと手を打ちます。


『つまりだ。確かに霧華とスティーブが考えたことはウィードや同盟、そしてヒンスアに対して効果的なダメージになるから考えたが、それはかなり先の相手を考えてだ。俺たちのように上層部というか、すぐに連絡とれる手段があれば行けるが……。果たしてこの旧ヴィノシアでそういう連絡が可能か?って話だな?』


そう主様が言ってはっとなりました。

なるほど、確かに国家に対してのダメージを考えすぎていて、今の現状での相手の戦力からの想定をしていませんでした。


『えーと、いえ、そういう連絡手段とかは、まあ関係はあると思うけど、ここの連中の目的はまずユキたちを秘宝があるってダンジョンに引き込むことと、教会の手伝いに来ている連中を拘束することでしょ? そこで物資を燃やすとか大ごとにすると、普通は撤退を考えるんじゃないかしら? そういう根本的な話よ』

「『『あ』』」


セナルにそう言われて私を含めて全員が間抜けな声を上げました。


『そうだった。まあ、考え無しが行動する可能性はあるから、そこは注意するしそういう馬鹿を捕獲する意味はあるから、作戦は許可でいいよな?』

『ええ、それはいいと思うわ。部下として統制しているわけじゃないのはわかっているし、単独でやりかねないから誘いは必要よ。あとは、足止めのために相手がやることとなると……』


確かに私の対応は大げさとはいえ、単独の馬鹿がやらないとも限りません。

なのでその対応の許可は出たのですが、そうなると他の足止めのための方法というと……。


『それならわかりやすいわ~。どこかでけが人が増えるとか、食事に軽度の毒を混ぜて病人を増やすとか、あとは水にもかしら~?』

『うげっ、確かに足止めには効率的だな。殺しまではしないから、そこまで闇ギルドの上層部が恨まれる必要性もないし、今までの衛生管理が悪かったからって処理させる微妙なラインだな』


本当に微妙なラインです。

そして阻止が物凄く難しいところです。

確かに、提供する食事ぐらいまでは何とか阻止できますが、けが人や水となるとほぼ不可能です。


『そこは考えないとな。畑のことに関しても水も火も関係あるからな、そっちの専門家にも意見を聞こう』


ということで、今度は黙っていたカヤ様が口を開き、対策会議は続いていくのでした。


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