第1231堀:帰る時にはなぜかお土産で荷物が増えることがある

帰る時にはなぜかお土産で荷物が増えることがある



Side:ユキ



決心したはずなのに行きと同様パッカパッカと俺たちは森の中を進んでいる。

そう、無事にゴブリン村訪問を終えた俺たちは、今帰路についているわけだ。


「ふぅ~。やっぱり疲れたなー」

「ユキさん大丈夫ですか?」


思わず漏らした俺のつぶやきに反応して心配そうに馬を寄せて来た護衛役のリーア。

あれから3日ほど村に逗留して情報を集めたんだが、やはりそこは訪問者のトップである俺への接待の連続で正直疲れた。

まあ、今回に限ればスティーブも同じように馬上で空を見上げているわけだが。

なにせ俺と同じレベルで人気だったからな。

軍事訓練なんかとはまた別の意味で疲れたんだろうな。

と、リーアの質問に答えないと。


「大丈夫だ。体調はどこも悪くない。だけど、あれだけ質問攻めにあえばな」

「……ん。あれは大変そうだった。でもゴブリンたちは皆楽しそうだった」

「だよねー。なんかおもちゃをもらった子供みたいでした。って実際おもちゃも配りましたけどね」


クリーナとリーアの言う通り、ゴブリンたちは終始笑顔で俺たちに接してくれた。

というか、ああも屈託のない笑顔であれこれ聞かれると人として答えないわけにはいかないので、そういう意味でも本当に疲れたわけだ。

とはいえ、俺たちとしても得たものはそれなりに多い。


「……というより、よくアスリンはこうして帰れたと思う」

「うんうん。相変わらず、魔物に好かれるよねー」

「ま、そこらへんはアスリンの才能と言うか、人徳なんだろうさ」


そう、アスリンは俺やスティーブ以上に村のゴブリンたちに慕われていたのだ。

いやー、ウィードの魔物たちからも好かれているが、外でもこうなるとは思ってなかった。

今まで外の魔物を手懐けたといっても、さすがにワイバーンとかシードラゴンといった多少なりと『知性のある魔物』だけだったからな。

まてよ、そう考えるとゴブリン村のみんなはそれなりに知性があるからこそ、アスリンに惹かれたってことか?

俺はそんなことを考えつつ、アスリンの方を見ると……。


「楽しかったねー」

「そうなのです。一緒に色々物作りをしたらみんな喜んでくれたのです」

「そうねー。ここって娯楽が少ないみたいだし、自作できるものを教えたら喜んでもらえたわね」


いやぁ、全く疲れた様子なんかなく屈託のない笑顔を見せているな。

うん、アスリンたちは楽しく過ごせたようで何よりだ。

しかし、そういえば『アスリンたちが疲れる』ってどういう状況なんだろうな?

あーまて、子供って大体一日全力で遊んで、その日寝れば体力MAXまで回復するんだっけか?

俺も昔はそんな感じだった。

なぜか疲れを翌日に持ち越さないんだ。

朝になれば体力全回復していて、夜には使い果たしてゼロになって寝る。で、それを毎日繰り返しても何も問題なく元気でいる。

いま考えると子供ってすごいな。


「あとは、定期的に物資を提供する約束もできましたね」

「そうね。特にお菓子、喜んでたけど……中毒にならないかしら?」

「あはは……。お菓子ばかりはウィードは別格ですからねー」

「それはお兄の狙い」


そう、ヒイロの言う通りお菓子は俺の狙いだ。

ウィードからしか輸出できない物を贈ることによって、これからの関係を続けたいと思わせるというやつだ。

なにせお菓子への依存度は嗜好品が少ないこのヅフイア王国ではかなり高いからな。


「まあ、今回の訪問は成功だろう。ある程度情報も集められたし。スティーブによる友好、アスリンたちの友好、物資という友好。これらを通じて向こうも喜んでくれているから今後の関係もいけるだろう」


そう、ゴブリン村の謎はまだまだあるが、さすがにそれをたった一度の訪問で全部解決できるわけない。

だからこうして継続して交流を続けられることが今回の狙いだった。


「そういえば、エノラ。ゴブリン村の医療活動の方はどうだった? 神父さんと診て回ったんだろう?」

「基本的には問題ないわ。多少風邪ひいている人がいたけど、それぐらいね」

「健康面も問題なしか。あとは彼ら独自の疫病とかそういうのが広がったということがなかったか……それと寿命か。そういえば墓所みたいなのは見かけなかったな」

「ああ、ゴブリンたちって自然に返すっていうのが風習みたいで森の奥に行って埋めるみたいよ。寿命に関しては神父さんが言うには大体60から80ぐらいって話ね」


あー、自然に帰るみたいなことか。

寿命にかんしては人とあまり変わりがないみたいだ。


「その辺はほかの村の情報もあれば精度が上がるな。とはいえ、いきなりはきついか」

「うーん、ハイデンの伝手で行けるゴブリン村はヅフイア王国にあるだけなのよね」

「それでしたら、フィンダールの伝手でのゴブリン村を案内できますが?」

「そうだな。それもあとあと頑張るとしよう。だけど今は、この前に子爵と話した留学生制度の話を詰める必要がある。それに、そろそろ第一回の大樹海の調査結果も出る。そこらへんをまとめて対応しないといけないからな」


そう、なんでもできるわけじゃない。

人手が全く足りてないからな。


「ああ、そういえばコドリッシさん。カグラを経由してキャリー姫にも伝えてはいますが、今回ヅフイア王国のキーナオ子爵に提案してご息女のウィードへの留学生を考えております」

「はい。その話は私も伺いました」

「それで、フソラさんは私が直接お会いした上でのことだったのでウィードが主体で動くという形を取らせて頂きましたが、今後ヅフイア王国やソフノ王国などから留学生制度の話が出た際にはコドリッシさんに受付をして貰っていいでしょうか? ハイデン王国の頭越しに私たちに話が来て、勝手に受け入れが決まっているというのは問題でしょうから」

「確かにその通りですね。まあ、そういうルール違反をするとは思えませんがキチンとハイデンから通達はしておいた方がいいですね」

「ええ。トラブルは事前に回避しておいた方がいいでしょう」

「しかし、留学制度の条件などは? それが決まらなければ相手に説明もできませんが?」

「それは早急に取りまとめてカグラを通じてキャリー姫に連絡をします。それにハイデンの方でも選抜ルール制定もあるでしょう。そちらも考えておいてください」

「なるほど。まだこれから始まるところですからね」

「はい。ですから、そこを一から考えないといけません。単にハイデンが紹介した小国の留学生が才能がなかったというだけならともかく、例えば横柄だったりすれば……カグラわかるよな?」


俺はそう言ってカグラに視線を向けると少し目を瞑って想像したのか冷や汗が出てきてる。


「それって一気に国際問題よね。ああ、頭痛くなってきた。事前にある程度ウィードのことを教える必要もあるわけよね……」

「うわー。それって無茶苦茶難易度高くない? ハイデンの中ですら文句言っている連中がまだいるのに……」

「それを小国の若者にキチンと教え込むのは、中々……」


カグラの言葉にミコス、コドリッシも悩み始める。

俺が言っていることがどれだけ難しいか理解しているからだ。

自分たちですら必ずしもチャンと理解できないことを、もっと理解していない相手に伝えることがどれだけ難しいか。

なんて思っていると、同じ大陸出身であるスタシアが……。


「それは骨が折れますが、そこは大国としての権威権力を示すべきでしょう。そうですね、ウィードでの横柄なふるまいがあれば斬首または一族降格、場合によっては国にも責を問うとかですね」


なるほど。確かに、ここでこそ権力を使う所というのも一つの方法だよな。

とはいえ、それを決断するのは各国のトップたちだ。

国と国の関係もあるだろうし、たとえ国内であっても下手に下をないがしろにすれば内乱にもなりかねない。

ま、そこの判断は俺たちが口を挟むことじゃない。


「そうね。ウィードでの行いを通じて大陸間交流同盟国の印象悪化なんて、留学生の家を気遣うよりも絶対避けるべきことよね。そうね、ハイレ教も大司教様に勧告してもらうわ。というか、そこはハイレ教として布告がいいかもね」

「あ、確かに。ハイレ教なら各国に支部があるし、いいんじゃないかしら?」


おー、エノラの発想は悪くないと思った。

確かにハイレ教はこの新大陸では最大宗派であり、あの狂信者のことがあっても揺るぎはしていない。

さすがに多少信頼は失ったようだが、それでもそれまでやっていた活動のおかげで、狂信者は別物だと認識してもらえているようだ。

これって、ロガリはリテア聖教で、イフ大陸はエナーリア教会またはヒフィー教会で行けるんじゃないか?

戻ったら提案してみるか。


「うん。それがいいね。で、国の許可や推薦を得た人を対象にハイレ教で一気に集めてテストってことかな?」

「いい案かと思います。まあ、そのテスト方法は各国とも協議しないといけないでしょうが……。あ、そこはほかの大陸の大国とも協議したいですね。大陸間でレベルが違いすぎればそれはそれで問題ですし」

「確かにそうだな。才能による差は仕方がないにしても、基本的な礼儀とか常識は各国共通にしてもらわないと、留学生どうしのトラブルが起こるもんなー」


ま、そもそも礼儀や常識なんて各国で違うし、そこら辺を理解している学生もいれば知らない学生もいるだろう。

だからこそ、留学に当たっての基本的なルールを作って事前に教え込むというのがいいよな。


「よし。わかった。それも協議する必要性はあるな。それを決めてからフソラたちテストメンバーを迎え入れるって所が妥当か?」

「そうですね。まだなにも決まっていない状態で連れて行っても、意味がないとまでは言いませんが効率的ではないでしょう」



と、こんな感じで道中はこれからのことを話し合いながら進んでいき、ようやくアオクの町に戻った。

今度は馬での移動だったので予想外に早く着くなどと言うことにはならず、先触れを通じて到着を聞いていた子爵は町の外まで出迎えに来てくれていた。

まあ、問題はそれではなく……。


「ユキ様! 私ウィードへ行きます! お帰りの際には一緒に!」

「はい?」


俺の姿を認めたフソラが目をきっらきらにしてそんなことを言いながら飛び込んできたのだ。

俺は何を言っているのかと思ってしまったが。


「フソラちゃん良かったねー」

「おー、楽しくなるのです」

「はい! アスリンお姉さま、フィーリアお姉さま」


アスリンとフィーリアの歓迎の言葉にあっという間にそちらに行ってキャッキャキャッキャと話始める。

いやー、仲がいいのは分かるがどうも俺はおいていかれている気がする。

と思っていると子爵が慌てて駆け寄ってきて。


「無事のお帰り心よりお喜び申し上げます。そしてフソラの非礼をお詫びいたします」

「子爵の手配してくれた護衛のおかげで快適な旅でした。フソラさんについてはお気になさらずに。子供はあれぐらい元気な方がいいです。ですが、あの発言は?」


俺がそう聞くと、キーナオ子爵は申し訳なさそうな顔をして……。


「可愛い娘には旅をさせよと言いますし、私も訪問させて頂いてもいいともおっしゃられましたので、それで是非行こうといわれ……」

「押し切られましたか」

「はい。さらに、厚かましいお願いなのですが家族も一緒させていただきたいのですが」

「なるほど。ご家族が一緒であれば安心できますね」


子爵と娘だけとかじゃ面倒と思っていたが流石にそういうのはないらしい。


「しかし、帰りに一緒にというのは?」

「はい。ヅフイアの方からは問題ないと連絡が来ておりますので、善は急げということで」


ま、そうだろうな。と言うよりむしろ繋がりを強固にしろって命令もあるだろうし、断る理由はないし。

それにここで一緒に行かなければまた面倒な手続きが増える。

それを考えると最適解かもな。


「それで準備は?」

「明日には整いますので、申し訳ありませんがお待ちいただければと」

「わかりました。こちらも国へ連絡をしておきます」


こうして、帰るときには荷物が増えることになったとさ。


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