第1229堀:魔石と魔物の関係
魔石と魔物の関係
Side:スティーブ
辺りは既に日は落ち、夜の帳が下りているっす。
いやぁ、ようやく夜になってくれたっていうべきっすかね?
おいらにとってすごくしんどく長かった今日一日を振り返り報告をしていたっす……。
『あはは! よかったじゃない。スティーブがついていって正解よ』
そしたらバトルでもないのに心底楽しそうな笑い声が画面の向こうからしてきたっす。
もちろんその声の主は我れらがウィードの女王様っす。
「セラリアの姐さんはそうして笑っていられるっすけど、質問攻めにあうおいらは大変なんすけどねー」
おいらは心底疲れきった声でそれだけを返したっす。
普段ならツッコミをするんすけど、もうそこまでの余裕もないっす。
『あら。本当に疲れているみたいね』
「仕方ないさ。向こうにとっても珍しい『よそ』のゴブリンだ。それこそ色々、根掘り葉掘り聞きたくなるのだろうさ」
とフォローを入れてくれる大将。
珍しく怒涛のような質問攻めにあっていたおいらのフォローに回ってくれるみたいっす。
『でも、エノラの話だとゴブリン村でも『調整』のためにほかの村から移住はあるんじゃなかったかしら?』
「ええ。セラリアの言う通り村から村への移動はあるわ。でも、それはもまあ、そうそうあることでもないのよ。短くても数年、長い時は十数年に一度程度なんだし」
確かにそんなレベルでしか出入がないんじゃ、おいらに興味を持つのもわかるっすけどねー。
『で、ジェシカ。防衛に関してはどうかしら?』
「はい。一応村の中を見せてもらったのですが、簡易な丸太の防壁があるだけのあの規模であればまあよくある村ですね。また、特に兵士はおらず自警団レベルのようです」
『ふむふむ。霧華。村の戦力に関しては?』
『はっ。村長のノグセ殿がゴブリンロードでレベルにして60といったところでしょうか。カグラ殿たち新大陸の住民としてはかなり上位ですね。とはいえ、村長並なのはあと3人しかいません』
『ふーん。微妙なところね。確かに少ないともいえるけど、村の規模から考えると異常なレベルの落差ね』
確かにそれはおいらもそう思ったっす。
その3人だけ明らかに村の一般的なレベルをはるかに上回っているっすからねー。
「そこらへんはおいおい話を聞いてみないとな。あと、大事な話だが」
『女性のゴブリンね。エノラから詳しい報告書が来た時はこっちも驚いたわよ』
『うんうん。まさか、ハイレンのあの結界内ではゴブリンの繁殖形態にまで影響が出るなんてねー。ちなみにハイレンがそうしようって考えたのかい?』
コメット姐さんがそう尋ねたら、ハイレンっちは私は知らないって感じで首を横に振り。
『そんなこと考えたこともないわ。でも、いいことなんじゃない? それでゴブリンが人を襲う必要もないんでしょう?』
「ま、そうだが。でも、それが原因でこっちのゴブリンは絶滅危惧種になっているからなー。極端だよな」
『というか、そもそも生態系が完全に違うし、別種になるんじゃないかなー?』
「あー、それは僕も同意。こっちのゴブリンたちは普通に理性と知性があって会話もできるからね。その辺は魔石の有無で何かあるんじゃないかな?」
その意見はおいらも同意っすね。
『魔石』が原因かはわからないっすけど、ロガリ大陸やイフ大陸にいる魔物としてのゴブリンとは違うのはわかるっす。
「ま、そこらへんはこれからの調査次第だな。幸いスティーブのおかげもあって相手はほとんど警戒していないし、質問には素直に答えてくれているようだし。支援物資に関しても喜んでくれたしな」
『それはなによりね。没交渉にならなくてよかったわ。それで、魔物の専門家、アスリンはどう思ったかしら?』
ああ、そういえばまだアスリン姫の意見は聞いてなかったっすね。
今日はとにかくおいらばかりで、ほかのメンバーにはあまり質問とかなかったっすけど、そんな中でもアスリン姫は何か意外なことに気が付いているかもしれないっす。
「うーんとね。こっちのゴブリンさんたちは穏やかなんだよ」
「そうなのです。みんなゆっくり生活しているのです」
「そうね。村の人たちは基本のんびりっていうと失礼かもしれないけど、生活に余裕があるような感じはしたわ」
「はい。みなさん。笑顔で私たちと接してくれました。身長が近いからでしょうか?」
ああ、確かにそれはその通りっすね。
ここに住んでいるゴブリンたちは総じて穏やかっす。
まあ、生活の支援を国の貴族やハイレ教会が行っているってエノラ姐さんが言ってたし、生きるのにそこまで苦しくはないってことっすね。
いやー、働きづめのおいらからすればうらやましい限りっす。
とはいえ、こんな閉ざされた村にずっと居続けるってのは勘弁っすけどね。
「そういわれるとそうね。野生のゴブリンとかはなんていうか、『何か襲わないと』ってイメージがあるけど……」
「ドレッサの言う通りですね。ウィード以外のゴブリンといえば普通、『人を見れば襲い掛かる』って感じなんですけど」
「……そう。魔物は人を見ると襲ってくる
かふっ!?
ヒイロお嬢にそういわれるとグサッと胸にくるっすね。
いや、確かに『おいらたちは違う』って言ってくれったっすけど……それでも心に来るものがあるっす。
「あぁ、魔物は人を襲うねぇ……」
「大将?」
何気なくポツリとつぶやいただけだと思うっすけど、なぜかおいらの耳にはよく聞こえたんで、聞き直してみたっす。
「いや、『魔物は人を襲う』。それは確かにそうなんだが、以前というかリテア聖国との交渉の時だったかに話したことがあるとおもうが、魔物の生活圏に人が行っているから襲われるって話は覚えているか?」
『ああ、ずいぶん前の話ね。アルシュテールたちがそのことを聞いてずいぶん悩んでいたわね。まあ、その時併せてトマトの作り方を教えたのが今じゃ世界一のトマト産出国なんだけど。ププッ』
セラリア姐さんは思わず吹き出しているっす。
まさかあんなオチになるとは思ってなかったっすからね。
しかもその農業指導をジョンがやってたっすからね。おかげで『オークはベジタリアン』とか誤解が生まれたっす。
あれで冒険者の被害が甚大にならないことを祈るっす。
「で、それがどうかしたっすか?」
「ああ、魔物が人を襲うっていうのは、多くは縄張りに入ってきたからってこと。だからこそ日頃人の生活圏に魔物が襲い掛かってくることはまれだろう?」
「そりゃ、そのために討伐して切り開いたからっしょ? 根こそぎ全滅させれば襲うもくそもないっすからね」
「その通りだ。じゃあ、それでも人の生活圏に現れる魔物は?」
『それは、流れね。どこかの魔物のコロニーからあぶれた魔物が人の生活圏に現れて襲う。って、なに今更わかりきっていることを話しているのよ?』
「いや、その時点で魔物には魔物の社会っていうのがあるのはわかるよな? それが人ほど精密に作られた社会ではないとはいえ」
「確かにそうね。私は野生の魔物に会ったのってウィードに来てからだけど、なんていうかこういうと失礼かもしれないけど、ラビリスたちから聞いていた魔物のイメージと実際の野生の魔物って違ったわね。むしろ縄張りを守るというか村を守る人の集まりとかわらないんじゃないかしら?」
カグラ姐さんのそのあまりに常識外の言葉においらたちは顔を見合わせる。
確かに、おいらたちの野生の魔物イメージといえば『人を襲う』、これに尽きるっすけど、それは大概相手の縄張り、つまりテリトリーに近づくのが原因であって……。
『ふむ。それもあなたが言ってたわね。というか魔物の巣っていうのも確認されている事実だし。でもそれって交渉が可能ってことを言いたいわけ?』
「当たらずとも遠からずってところか。俺もロガリやイフの魔物は何度も見ている。あれは『自分たち以外を排除する』って意識があるのはよくわかる。だが、そういう連中のなかでもそれを統率するやつもいるし、アスリンのテイムに応じるモノもいるのも事実だ」
『あー、そういうことね。魔物にも知性があり統治する者がいるってことね。でも、それも前からわかっていることじゃない。ゴブリンロードやシャーマン、オークキングとか、大氾濫の時はリッチとかって統率者は今までの歴史でも確認されているわ。だけど、それを狙って交渉とかは厳しいわよ? 大体そこに辿り着くまでに取り巻きの雑魚を蹴散らさないといけないんだから』
セラリア姐さんの言う通りっすね。
確かに統治する魔物と交渉できれば戦いは避けられるかもしれないっすけど、その前に取り巻きの配下の魔物は全滅していることが多いっす。
「いや、そもそもそこが疑問なんだよな。上位だけに知性があって、下位には知性がないっていうなら、スティーブたちも俺と意思の疎通はできなかったはずだ。それにテイムで下位である野生のゴブリンを従えている連中もたくさんいる。ここはどう説明する?」
「なんとなくユキの言いたいことが見えてきたよ。魔石があるから意思や知性を奪われ制約されているってことかな?」
エージル姐さんがそういうと、大将がそうそうって頷いたっす。
「可能性は高いと思う。そして、魔物をテイムするにはある程度弱らせる。あるいは1匹を集中して狙うってのもある。これはテイムする術者の安全を守るためでもあるが、魔石による拘束力を弱めるためっていうのもあるかもしれない。なにせ、テイムは魔術の一種だからな。命令を上書きするってことだ」
「「「……」」」
確かに大将の言うことはかなり状況的に正解に近いかもっすね。
『つまり、あなたが言いたいのはゴブリン村のゴブリンたちは魔石が無くなったおかげでその上位の命令というか束縛が解除されて、自らの意思が芽生えたってことかしら?』
「多分だけどな。それに付随していた他種族への繁殖能力もなくなって女性種がいないことが問題になって生まれた。まあこれも憶測だけどな。進化って意外なことで起こるもんだしな」
大将の言っていることはわかるっすけど、それっておいらがある日突然女の子になるかもってことっすよね?
いやー、恐ろしいわー。
「ともかく、今後しっかり話を聞いて情報を集める。で、その間にというのはなんだが、セラリアたちの方では『留学の条件』を考えてみててくれ」
『わかったわ。こういう話を聞くとやっぱり留学制度を導入した方が、各国との渡りをつけるのは簡単だものね』
「ああ、毎回車で乗り入れることの可否とかも考えないといけないって意外と面倒だからな」
『ふふっ。昔は考えられなかったけれど、今では当たり前になってきたわよねー』
確かに、昔は完全に車とか言語道断って感じだったすけどねー。
今じゃ大国ではすでに車はまだ珍しいものではあるけど、警戒されるものではなくなってきているっす。
『あ、あとスティーブ。今回のあの『発言』には責任持ちなさいよ。で、アルフィンにはちゃんと自分から伝えること。いいわね?』
「……う、うっす」
村でゴブリンの女性を押し付けられかねなかったすからアルフィンを盾に使って断ったんっすけど、『あれは冗談でした』は通じないようっすね。
まあ、別に嫌いじゃないんすけど……。
はぁ~、複雑ではあるっすけど、腹をくくって話す時が来たっすね。
「あのー、大将。その時は同席してもらっても?」
「そりゃもちろん。お前は部下だしな。それに親でもある」
「スティーブ。私も手伝うよー」
「手伝うのです!」
「そうね。私もスティーブの家族ってことで」
「ええ。スティーブが上手くいくように準備しましょう」
「いいわねー。あ、でも私は『聖剣使い』側かしら?」
「そっちもおもしろそー」
「こら、結婚のお話なんだから、面白いとか言っちゃだめよ」
……こんな感じでおいらは帰国後の『地獄』が確定したっす。
うーん、何だろう嬉しいようなつらいような。
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