第1226堀:留学生受け入れ構想
留学生受け入れ構想
Side:ユキ
無事にアオク子爵に頼まれた実質的にはフソラさんへのものとなった魔術実演が終わり、その後のこの地の魔力に関するデータ収集体制に加えて、この町の情報も集め終えた。
端的に言えば、俺がここでやるべきことは全て終えた。
で、ほかのメンバーだが……。
「どうだ?」
と、アオク子爵から提供された部屋でみんなに確認したが。
「ハイレ教会への挨拶は済んだわ。内情も見てきたけど問題は無さそう」
「ハイデンの方にはちゃんと連絡済み。姫様の方からも特に何も言ってきてないわ」
どちらも問題はなしか。
「じゃ、明日は一日のんびりして、いよいよゴブリン村へ向かうための英気を養うとするか。それか何かやること、やりたいこととかあるか?」
「私はルルアとの約束で明日は教会で医療活動ね。特に未知の病気とかがないか確認しておく必要があるから」
「あー、それは俺も……」
と言いかけたがエノラはサッと手のひらをこちらに向け。
「ユキはちゃんと子爵の相手してなさい。なにせ向こうは必死にアピールしてくるんだから」
「そうね。娘のフソラちゃんにもすっかりなつかれたって聞いたわよ? そうよね、ミコス?」
「そうだよー。なにせユキ先生の魔術指導だしねー」
「あはは。大陸間交流同盟の加盟国が聞いたら目を剥くだろうね。なんて言ってもユキからの魔術指導だしね。きっとどんな大金積んでも受けたいぐらいだろうね。ところで、そのフソラ嬢をウィードに招待したらどうだい?」
「う~ん、なつかれているかはよくわからんが、魔術にはすいぶん熱心だ。だけど、それだけでウィードに招待って言われてもな……」
あまりに唐突過ぎないか?
会って一日二日だぞ?
と、あえてそんなことする必要なんかあるのかなと思っていると……。
「今すぐというわけにはいかないと思いますが、それとなく話を進めるのは必要では?」
「フィオラ? なぜ?」
意外なことにフィオラが進めるべきだと言ってきた。
「私の故国ダファイオ王国でもそうでしたが、小国の方々のほとんどはまだウィードのことをよく知りません。ロガリ大陸でさえロシュールという大国の庇護下の小国の一つとしか認識していないところが大半です。ましてやイフ大陸、新大陸ではもっとでしょう」
「そりゃそうだろうな」
「なので、ウィードに留学生用の学校を作って大陸間交流同盟を通じて留学生を受け入れてはいかがかと。今まで個人的な繋がりでルルアの医学校や一般の学校に入れていたのを公式にするような感じです。あえて、そういう専門学校を作って集めればもっと小国に知ってもらういい機会になるかと。今の所、ウィードは多くの小国からすればただの貿易港としての認識しかありませんから」
いや、元々単にゲートという技術を持っているだけのただの小国っていう位置づけが好ましかったからそのままなんだが、最近の情勢を考えると確かに留学生用の学校作れば認知度が上がっていちいち大国に仲介を頼まなくても済むようになって、今回みたいな面倒を避けられるかもしれないってことか。
「とはいえ、留学生用かー。なかなか難しいな」
どの分野で生徒を集めるかというのもあるし、どこまで教えるのかも関係各所と話し合わないといけない。なにせランサー魔術学府の存在意義なんてのがあったんだし。
予算もどれだけ必要なのか、留学の条件はどうするのかというのもある。
「はい。問題は沢山あります。ですから本格稼働はおいおいですね。ですが、それだからこそ今回のフソラさんのことはいい機会ではと思うのです。テストケースとして。それに、ちょうどいいというとちょっと違うかもしれませんが、幸いナイルア、ワズフィ、クリーナ、サマンサはランサー魔術学府。カグラ、ミコスはハイデン魔術学院とほかの大陸の最高学府の卒業生も集まっていますので、協力してもらうのがいいかと。さらにはノノア様の魔術の国からも手伝ってもらえばとオレリアたちを通じて話しが来ていますし、もともとそういう要望が多いのは御存じかと」
「なるほどな。確かに勉強させてくれって話は多いな。大国連中から」
大陸間交流の議題の一つに優れた技術や魔術を学ばせる場所を設立したいという話がある。
とはいえ、その大陸間交流同盟自体がまだ安定していないし、どこに学校を作るのか先ほど言った教科や授業内容などの問題に加えて、まだまだ他に優先するべきことも多々あって、これまで手を付けていなかったわけだ。
「そうですね。お父様たちからも学び舎についてはチョクチョク打診がありますね」
と、シェーラもいう。
ま、ガルツとは昔から付き合いがあるからな。
随分前から技術とか魔術を教えてくれって言われ続けている。
「で、その話を詰めるためにも、大国以外の意見も必要ってことで、フソラがちょうどいいわけか」
「はい、その通りです。幸いユキ様になついているようですし、真っ白な状態から学ぶという意味でもいいかと」
なるほどな。
テストケースとしては丁度いいということか。
まあ、そのうちどこかでやらなくてはいけないし、意見ももらえるのは大事か。
「話は分かった。まあ、今すぐってことじゃないし、子爵に話をしておくか」
「はい、それがいいかと。あと、セラリア様にも一応連絡をしておいた方が……」
確かに、ウィードとしてってことになるから事前に確認しておくべきかと思っていると。
「ああ、そっちは大丈夫だよ」
「……ん。昨日その話をしている」
「どういうことだ?」
「僕たちも同じことを考えていてね、セラリアにも話をしていたんだよ」
「ん、ユキは色々と忙しいし、これは独断で決められることじゃないから、セラリアに話を通しておいた。同じことをフィオラが提案してきたのは驚いたけど」
と言いながらクリーナがコール画面をこちらに向けるとそこにはセラリアの姿があって。
『そうね。やっぱりやるわね、フィオラ。そしてオレリアたちもね。ほめてあげましょう』
「あ、ありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
揃ってお礼をいう4人。
ちゃんと頑張っているしな。
「で、セラリアとしてはどうなんだ?」
『私はいいと思っているわよ。とはいえ、この話ってほとんどなにも進んでないから、まずはフソラって子を受けいれてみてかしら? そうなるとほかのサンプルもいるでしょうけど、ともかく作る前にまず意見を貰わないと話にならないっていうのはフィオラの言う通りね』
「じゃ、その方向で話を進めてみる」
と、女王陛下の許可も取れたことなので、とりあえず子爵と話をする。
「……なるほど。フソラをですか」
「まあ、すぐにという話ではありません。ゆっくり考えてください」
なにせ小さな子供を外国に送る。それもこれまで聞いたこともなかったような国へなんてのは親として悩んで当然だしな。
ま、別に断られても何も問題はない。
あくまで今回のことはきっかけであって、ほかにも試してみる必要はあるからな。
それにそもそもここに来たのはゴブリン村訪問のためだ。
そっちをきちんと片付けてからこっちの話を進めるべきだしな。
なんて考えながらお茶に手を伸ばしたところで……。
「お父様、私ウィードに行ってみたいです!」
バンとドアを開け、そんなことを言いながらフソラが部屋に飛び込んできた。
どうやら隠れて話を聞いていたみたいだ。
「こら、フソラ! ユキ様の前で失礼だぞ! 失礼いたしましたユキ様。ほら、フソラ」
「し、失礼いたしました」
ま、流石に立ち聞きを見逃すわけもなく、しっかり叱る子爵。
町の様子やフソラへの態度を見る限りちゃんとした親のようだ。
まあ、いろいろ取り繕っている部分はあるだろうが、今の所目に余る部分はない。
「はい。謝罪を受け入れます。ですが、ほかの貴族には厳しいところもありますので、フソラさんのためにも今後はちゃんとルールは守りましょうね」
「はい。ごめんなさい」
うん、フソラ本人の性格も悪くはないと。
ま、そのことは昨日の魔術の実演の時からわかってはいたが、性格も歪んでいないように見える。
今のところ立場が低い相手にはどうするかまではわからないけど、そこは今は知りようもないし、そこらへんも含めて教育を考えないといけないからな。
まあ、ウィードに留学生用の学校を置くのであれば当然馬鹿貴族の子息たちも来ることだろう。
で、そういう馬鹿相手の対策もちゃんと考えておかないといけないわけだ。
なにせセラリアがキレて全員生首とかトラウマだしな……。
それにウィードに住んでいる住人にも説明が必要になる。
あ、胃が痛くなってきた。やっぱりやめたい。
と、まだそこまでやるって決まったわけじゃない。
今はフソラのことだ。
「しかし、フソラはそこまでウィードに来たいのかい?」
「私、昨日ユキ様たちに魔術を見せてもらって、とっても凄いって思ったの。そして、お父様たちの手助けをずっと早くできるって思ったの」
「おおっ!!」
そのフソラの言葉に泣き出す子爵。
これは完全に親バカだな。
うん、俺もこうならないように気を付けておこう。
「目的があるのはいいことです。ですが、そのためにお父さんたちを悲しませたり、心配させてはいけないのは分かりますか?」
「……はい」
「フソラさん。君は聡い子だ。だからこそ、みんなにちゃんとわかってもらって、心から送りだしてもらう方がいい。時間はまだまだあります。ゆっくり子爵たちと話しておくといいですよ」
「わかりました! 絶対お父様たちを説得してみせます!」
いやー、説得する気満々か。こりゃ、このまま是が非でもついてくる気だな。
俺は苦笑いしながら子爵に視線を送ると、こっちも涙を拭きながら苦笑いをしている。
これはこれ以上何か言うとかえってムキになりそうだな。
「そうだ。安全確認のためにも一度ウィードに来てどのようなところかを見た方がいいですよね」
「それは確かにそうですな。しかし、ウィードはかなり遠い場所にあるのでは?」
「いえ、ここからハイデン王国に行くのとそう変わりはありませんよ。ゲートというものがありますからね」
「ゲートなるものについて話には聞いていましたが、転移の魔術を利用したものが本当に?」
「本当にそんなものがあるのですか!?」
やっぱり、こういう小国のそれも地方の町では貴族であってもそうそう事実は届かないんだな。
いや、届いてはいるのだが理解ができないのだろう。
ライト兄弟の初飛行のニュースに、大学の教授などの多くの専門家が『機械が飛ぶことは科学的に不可能』とのコメントを出したのと同じなように。
『常識』からかけ離れているから、真実だと思われない。
うーん、実際現場の話をこうして聞くと、やっぱり留学生を迎え入れるっていうのは各国の認識はもちろん常識の共通化も図れるってことになりそうだな。
これは思ったよりも頑張るべきか?
「ええ。ゲートは実在します。それがあるからこそ、私たちもこうして簡単にこちらに来ることができているのです」
「確かに。しかし、一瞬で遠方へ移動できるのであれば、それは画期的なことですな」
「ほえー」
「はい、すでにハイデンやフィンダール、シーサイフォはゲートを利用して今や相互の移動や交易が容易になっていますからね」
「つまり、ハイデンに行けばそれ以外の他国にもすぐにということですね」
「はい」
「すごい! お父様! 一緒に行きましょう! それなら時間は問題ありません!」
「うむむ……」
こんな感じで、キーナオ子爵はすっかり興奮しきったフソラの攻撃を受けて夜通しウィード訪問について悩むのであった。
そんな親子の闘争をよそに、明日のために俺はさっさと寝たのは仕方ないだろう。
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