第1223堀:仕事着ってあれだよな
仕事着ってあれだよな
Side:ユキ
アオクの町に着き、気がつけば一夜が明けていた。
ベッドから体を起こし、ウ~ンと伸びをする。
「うん。意外と疲れていたのかもな」
バイデを出てバスでの移動の4日間。
タダ乗っていただけなのに結構疲れるものだなー。
あれだ、昔父親の運転とかで長距離のお出かけとか、最初は張り切っていたのにいつの間にか寝ているってやつだな。
と、昔の思いではいいとして。
「……くかー」
俺の寝ていたベッドの右側では未だにクリーナが気持ちよさそうな寝息を立てている。
「すやー」
左側では同様にリーアも。
俺には奥さんが多くいるというのはハイデンからしっかり伝わってたようで、わざわざけっこう大きいベッドを用意してくれたようだ。
子爵にはいらない出費をさせたなー。
流石によその家に泊まってるのにそこで子供を作るとかする根性はないのでそういうことはしていないが、それでも負担をかけさせたのは事実だし、お土産はそれなりに価値あるものにしておく必要があるな。
などと考えていたら、ノックもなしにいきなりドアが開いてフィオラが入って来た。
「あ、もう起きておられましたか。おはようございます。ユキ様」
「ああ、おはようフィオラ。今日はフィオラが?」
「はい。私がお世話を担当させていただきます」
「なんか、悪いな。フィオラだって4日間もバスに揺られて疲れているだろうに」
「いえ、これぐらいは何ともありませんよ。普通でしたら馬車でゴトゴトと揺られ続けた上に野宿とかというのが延々と続くモノですし、あれだけ快適でゆったりとした移動というのは初めてですよ」
「ああー、そうかー。でも慣れない乗り物での移動っていうのは意外と疲れるから気を付けろよ?」
「はい。お気遣いありがとうございます。では、お着替えの方を……」
「そっちは問題ない。自分でやるか……」
「それはユキ様のお言葉でも認められません。妻として夫の身だしなみを整えるのも仕事の内です。何よりキルエやサーサリからもきつく言われています。あの二人がいない今、私やオレリアたちがユキ様のユキ様たる品位を保つ最後の砦だと」
おいおい、あの二人は何を吹き込んでいるんだ。
俺は着替えぐらい自分でできるぞ?
なにもできないお子様ではないことぐらいよく知ってるだろうに。
「ユキ様はご自身でできることが多すぎるので、出張の際には特に一人で色々とやりがち、単独行動しがちなので、くれぐれも一挙手一投足を含め『しっかりと監視』するようにと厳命されております」
「……そうか。とりあえず、着替えるのはできるから、身だしなみチェックをしてくれるだけでいいから」
ああ、そっちの意味での最後の砦な。
はぁー、キルエにサーサリも厳しいことで。
「はい。ではこの場で控えさせていただきます。ところで、リーアとクリーナはいかがいたしますか?」
「あー、もう朝食だろうしな。起こしておいてくれ、その間に着替える」
「かしこまりました」
と応えるなりフィオラはリーアとクリーナを起こしにかかる。
「2人とも起きてください」
「ユキしゃーん、えへへ……」
「……ユキ。まだ眠い」
「ユキ様はすでに起きておられますよ。護衛のお二人がいつまでも寝たままではお役に立ちません、そのままおいていかれますよ?」
しかし、当たり前のようにフィオラがリーアたちを起こしているが、本来お姫様がこんな使用人みたいなことしてていいのか?
シェーラだとキルエが完全サポートに回っているが……。
セラリア? ああ、あれはただのバトルマニアなんで。
「ユキ様。何か問題でもありましたか?」
俺の疑問の視線に気がついたのか、手を止めこちらに問いかけてくるフィオラ。
「いや、フィオラってお姫様だろ? それがこんな使用人みたいなことっていいのか?」
「ああ、はい。最初は多少なりと驚きましたが、公式にはペナルティーとしてユキ様の下に送られた身ですので。それに、以前から従軍などで自前でやることは多かったですし、メイドの礼儀や作法は結構似通っていますからね」
「そういわれるとそうなのか?」
「ええ。何より私は元々ダファイオ王国という小国の出であり、大国を相手には使用人のようなふるまいをしなくてはならないことも多々ありましたから。アレですね、位の高いところに礼儀見習いとして来ているという感じですね」
「ああ、そういうのか」
それでも一国の王女が普通そういうことをやるのかという疑問はあるが、それを根掘り葉掘り聞いては長くなりそうだし、特に本人が問題ないって言ってるんだから突っ込む理由はないな。
それよりも……。
「おーい。2人ともそろそろ起きろ。俺はフィオラだけ連れて出ちまうぞ」
「だめですぅー。護衛がいないとー」
「……それは許可、できにゃい」
「おや、流石旦那様。奥様たちが一瞬で起きました」
「そうか?」
と言いながらのそのそっと起き上がったリーアとクリーナだが、目は虚ろでふらふらしている。
まだ寝ぼけているのは間違いない。
「ま、これから朝食だし。着替えろよ」
「「ふぁーい」」
俺がそういうと2人ともモソモソと着替えを始める。
「ユキ様はお着替えが済んだようですね。確認させていただきます」
「よろしく」
その言葉にフィオラは俺の周りをぐるっと回って身だしなみのチェックをする。
うん、特に問題はないはずだ。
別に貴族のゴテゴテしい服を着てるわけでもない。
とはいえ、あれだ。
軍や技術屋連中はまた別だが、ウィードでの『仕事服』というのは大凡決まってしまった。
嫌な話だが、スーツだ。
エリスが最初に総合庁舎で仕事をするときに着ていたのだが、いつの間にか事務仕事などを主とする人たちに流行ったのだ。
まあ、職種による服装の統一は悪いことではないので認めていたのだが、ここ最近は俺たちも公的な場ではその服装にしようとなった。
だから、こういう外交などの時はどうしてもスーツ姿ってなるわけだ。
「……どんどん現代地球に近づいてきているな」
それがいいことなのか悪いことなのか、俺にとっては判断がつかないのだが……。
このまま時間に追われる日々になるのだろうか?
「ユキ様?」
「あ、どうした?」
「身だしなみに問題はございません……」
「ああ、ありがとう」
「大丈夫ですか? なにやら妙にお疲れのように見えましたが?」
「いや、仕事ばかりの故郷に近づいてきた気がしてちょっと悲しくなっただけだから気にするな」
「はぁ?」
「ま、元気だから問題ない。さ、リーア、クリーナ準備はできたか?」
「「ううん、まだできてなーい」」
2人はどうやらまだ寝ぼけているようで、一応服は着替えてはいるが、頭がボサボサだ。
俺はフィオラと一緒に2人の髪を整えてから、朝食のために部屋をでる。
廊下は客間の前だけは静かではあるが、その先は使用人が行ったり来たりをしているので、既にこの屋敷は動き出しているようだ。
まあ、灯りが未発達なこっちの世界じゃ日の出とともに動くのが普通だしな。
などと考えていると、俺たちに気づいたらしく廊下の先からメイドがやってきてスッと頭を下げる。
「申し訳ございません。お待たせいたしました」
「いや、別に大丈夫。今起きたところだ。ところで、ほかのみんなは?」
「はい。奥様たちの内、何人かはすでに食堂にて朝食をとっておられます。また、まだお休みになっておられる方々には後ほどご用意させていただきます。ユキ様や皆様はいかがいたしますか?」
「じゃ、朝食をおねがいするよ」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
もう朝ごはんの準備をして貰っているのなら食べる。
幸いヅフイア王国の食べ物は俺たちの口に合ったので問題なく食べている。
とはいえ、味気ないのは仕方ないけどな。
その食堂には既にオレリアたちやシェーラたちの姿があり、俺たちの姿に気付いて声をかけてきた。
「「「おはようございます。ユキ様」」」
「ユキさんおはようございます」
「お兄ちゃんおはよー」
「おはよーなのです」
「おはよ」
「おう、おはよう」
と返事しつつ案内された席に腰を掛ける。
「エノラにヒイロ、カグラたちは?」
「来てないですね。まだ寝ているのでは?」
「
なるほど、ちょっと席を外しているのではなく他のみんなはまだ寝ているってことか。
なんて話をしているうちに俺たちの分の朝食の準備も整い食べ始めたのだが、食べ終わる前には残りのメンバーもやってきて一応そろって食事ができた。
「それで、ユキは今日、何する予定なの?」
「今日は休息期間だからな。町の案内と魔術を見せるって話だったな。タイミングはキーナオ子爵の予定次第だな」
そう、俺の本日の予定はこのアオクの町を見学と、キーナオ子爵のお願いで魔術を見せることだ。
エノラやカグラはハイレ教関連とか外交関連とかで忙しいが、ほかのメンバーは比較的自由になっている。
まあ、ある程度グループに分かれてブラブラしてこの町の調査をする予定ではあるけどな。
「おはようございます。その魔術についてですが、いきなりで申し訳ありませんが朝食が終わりましたらさっそくお願いできますでしょうか?」
俺たちが雑談しているところへ、キーナオ子爵が入ってきて深々とお辞儀をしながらそう申し入れてきた。
「おはようございます。キーナオ子爵。構いませんよ」
「それはよかった。実は娘から是非とも早く見てみたいとねだられたもので」
「娘さんですか?」
「ええ。入っておいで」
「はい」
返事と共に入ってきたのはアスリンたちと大して変わらないと思われるまだ少女いえるような女の子だった。
「娘のフソラです」
「初めましてフソラと申します」
「これはご丁寧に。私、ウィードのユキと申します」
俺の目の前で貴族らしい楚々とした挨拶をしたのはかわいらしい金髪の少女だ。
分かりやすく言えばお人形のようなというやつだな。
「魔術に興味があるのかい?」
「はい! 私は家族の中で一番魔術ができるので、将来はハイデン魔術学院に行きたいのです!」
なるほど。
ハイデン魔術学院に行きたいなら話を聞きたがるのは当然だな。
「そっか。それならちょうどいいかもな。カグラは……忙しいだろうけど、ミコスはいいか?」
俺と声をかけると任せてって感じで頷いてくれる。
「このミコスちゃんにお任せ」
「ありがとう。彼女はミコスといってハイデン魔術学院の生徒だったんだ」
「本当ですか!?」
「本当だよー。フソラちゃんに学院の話色々してあげるよ」
「やったー!!」
「よかったなフソラ。じゃあ、しっかり朝ごはんを食べて、準備をしようか」
「はい。お父様!」
こうして、賑やかなヅフイア王国での朝を過ごすのであった。
今の所、何もトラブルがないってのはいいことだよなー。
会話を楽しむ余裕があって心から気楽だった。
さて、魔術を見せるといってもどんなのを見せたらいいのかな?
キーナオ子爵はもちろん、娘さんのフソラにとっても楽しめる魔術となるとなかなか難しいよなー。
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